第1話 『投げる』けもの

「かばん、戦い方を覚えてみませんか?」


そう言ったのは博士さんでした。

黒い巨大なセルリアンをみんなの力を合わせて倒して数日、僕たちはパークを回って力を貸してくれたフレンズさん達にお礼をしています。本来なら溶岩の後片付けをしようと思っていたのですがラッキーさん達がやってくれるとのことなのでこうしてまた旅ができています。

そんな中、博士さんはとしょかんに来た僕たちにこう声をかけました。


突然の切り出しに僕は「ふえっ!?」と変な声を上げてしまいました。「僕が戦う」なんて思ってもいなかったことをいきなり言われたのもあるかもしれません。僕が驚いていると博士さんと助手さんは顔を覗き込んで続けてしゃべります。


「あれからしばらくたってヒトのことを書いた本を見つけまして、色々なことが書かれていたのです。その中にヒトの戦い方も書かれていたのです。」

「パークの危機に手を貸してくれたのはかばんも同じなのです。我々も何かお礼がしたいのですよ。」


知ってみたい。自分の為にヒトのことを調べてくれた博士さん達の気持ちが嬉しいのはもちろん、まだ自分が何者か完全に理解できていない僕がヒトのことをもっと知ってみたいと思わないはずがありません。

でも何かこの時、僕は自分が戦うのが怖いとか向いてないんじゃないかとかそういう気持ちの他になぜか「知ってはいけないのではないか」という気持ちを覚えました。この時になぜそんな考えが浮かんだのかは分かりません、でも僕は言い淀んでしまいました。そんな僕を見かねてかサーバルちゃんが僕の肩に手をあてて言いました。


「へー、博士たちヒトのことを調べてくれたんだね!かばんちゃん、戦うのは難しいかも知れないと思うけど、せっかく博士が調べてくれたんだし良かったら聞いてみない?私もヒトのこともっと知りたいし!」


サーバルちゃんの薦めを聞いた決心して僕は博士さんからヒトの話を聞くことに決めました。

…これが僕やみんなの日常を大きく変えてしまったきっかけだったと気づいたのはいつだったでしょうか、今思えばずいぶん昔に思えます。


「フレンズの戦い方は至ってたんじゅんめーかい。自分の得意なことを生かして戦うのです。例えるなら…」

「我々なら音を立てずに忍びよって背後からドカン!ですね。サーバルであれば自慢の耳と鼻で敵を探してジャンプで飛びかかって爪でグサリ!です。ドジなので途中で転んでしまうのがオチでしょうけど。」

「そ、そんなことないよ!」

「私が説明しようと思ったことをじょしゅが勝手に全部喋ったのです!」

「ええー!」


他のフレンズさん達の戦いは何回か僕も見て、そしてすごいなと思いました。でも僕が得意なこと、戦い方ってどんな感じなんでしょう?分かりません。僕は博士さんに聞くことにしました。


「えーと僕が得意なことって何なんでしょうか?」


僕の疑問を聞いた博士さんは胸を張って返しました。


「ふふ、クイズなのです。自分たちの旅をよく振り返って見るのですよ。」

「面白い試みですが教えると言ったのに焦らすと相手に嫌われますよ。先日読んだ本にはそう書いてありました。」

「いや、じょしゅ…どんな本を読んだのですか。」

「かばんちゃんの得意なことかあ…。いっぱいあるけど頑張りやさんな所かな?」

「それは強く同意しますが、それだけでセルリアンとは戦えないでしょうサーバル。」


サーバルちゃんの言葉はとても嬉しかったです。しかし、こう言われてみると自分の得意なことというのはやっぱり分かりにくいのだと感じます。僕はサーバルちゃんの言う通り頑張って考え、体を動かすことで色々な問題に立ち向かって来ました。しかしそれだけではセルリアンと戦うことはできず、セルリアンと会った時はいつだってサーバルちゃんや他のフレンズさんから助けてもらいました。みなさんはいつもすごいすごいと褒めてくれますが、それは僕の力ではないのではないかと思います。

僕の得意なこと…僕の得意なことっていったい…。


そんな悩んでいる僕に痺れを切らしたのか助手さんが口を開き、博士さんが先に言われてなるものかと大きな声で叫びました。


「もう言ってしまいますが、あのですね、かばん、お前の得意なことは」

「投擲!投げることなのです!」


僕にできるのは『投げる』こと。この時の僕にはそれがどういう強みかさっぱり分かりませんでした。でも僕の得意なことは本当に『投げる』ことであり、僕の戦いはここから始まりました。そして嬉しいことも、辛いことも。

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