第172話 謎の男は謎をなぞる
俺は自然な感じで男と距離を取ろうとするが、なぜか完全にマークされているようで離れることができない……
「どうして付いてくるのだ!」
俺は思わずそう叫んでしまった。
「いい質問だ、それは君が私から距離を取ろうとするからなんだよ、だから私は君についていくように移動するしかない」
「いや……そもそもなぜそんなに近づくんだよ……」
「いい質問だ、それは私が君の横に密着したいと考えているからだよ、密着するには近づくしか方法がないだろ、おかしいかい、私の考えは……」
「おかしいわ!」
変態だ……こいつは完全な変態に違いない……このままでは何をされるかわかったもんじゃないので、俺は風呂場から撤退することにした。
だが、脱衣場に移動してもそいつは俺から離れなかった……
「今から着替えるから近づくなよ!」
「なぜだい? 私も一緒に着替えたいのだよ」
「にしてはなぜ着替えを持っていない」
「それは私の着替えはあっちにあるからだよ」
「じゃあ、あっちに行けばいいだろ」
「正論だ、私もそう思うが、ここにいたいのだよ」
「どうしてだよ!」
「君の着替えを凝視したいからに決まっているではないか!」
「気持ち悪いわ!」
……………………
「てっことが風呂場であったんだよ……」
風呂場の気持ち悪い男の話を、宿屋の酒場で酒を飲んでいたシュラやニジナたちに話した……すると強烈に強いお酒で有名なデビルショックを呷りながらティフェンが話に入ってくる。
「う……ん……どうもその話……同じような話をどっかで聞いたことあるのよね……誰だったかな……」
また話に入りたいだけで妄想していると思ったのだが、具体的なエピソードを思い出したようだ。
「あっ! そうか、それってジュアロンが気に入った男にアプローチする時の話とよく似てるよ!」
「ちょっと待ってよ、ティフェン……ジンタの話は男湯での話よ」
ニジナが男にアプローチってとこが気になってそう指摘する。
「ジュアロンも男よ」
「…………お……男が男にアプローチするの?」
「そうよ、ジュアロンは生まれつき男しか愛せない、不治の病にかかってるの」
「不治の病って……何それ……」
「本人が言ってたから間違いないわよ」
「いや……ただの男色趣味だろそれ……」
シュラがさらっと核心をついたことを指摘した。
「それにしても気持ち悪いわね……ただでさえ男なんて不潔で下品で最悪な生き物なのに……男同士なんて……」
カーミラが偏見の塊のようなセリフをのたうち回ってくれる。
「ちょっと待てカーミラ、女同士は良くて、男同士はダメなのか?」
「女同士の愛は美しいのよ……まるで花園に咲く二輪の花のラプソディーでしょ、それに比べて男同士なんて想像してみなさいよ……道端の雑草の演歌じゃないの」
「どんな例えだよ……」
「しかし……ジンタ、それがジュアロンだったとしたらちょっと厄介だよ……」
「どうしてだ、ティフェン」
「ジュアロンは諦めが悪い……惚れた男はモノにするまで諦めないのよ……」
「…………嫌なんだけど……」
「そりゃ嫌でしょうね……」
「だぁー!! そんな変なのに絡まれたくない! ティフェン! お前知り合いなんだろ、なんとかしてくれ!」
「残念だけど、私とジュアロンは犬猿の仲、火と油、キングスネークとバトルグース、私の言葉なんて聞くわけないわよ」
「ニジナ……助けて……」
俺の悲痛な声に、珍しくニジナが真剣に考えてこう呟いた……
「……他の女の人とそんなことになったら嫌だけど……相手が男の人なら……」
「おい……ニジナ……何考えてんだお前……」
「あっ! いや、そうね、まだその男の人がそのジュアロンって人だと決まったわけじゃないし、気にしなくていいんじゃない」
「すごく他人事の意見ありがとう……」
「いえ、どういたしまして……」
まあ、ニジナが言うように確定情報ではないので、相手があのジュアロンだと決まったわけではない……はずだったのだが、次の日の朝、その情報は予想から確定に変わった。
「おおっ、風呂場では失礼したね、失礼ついでにお尻を触らせてくれないかね」
宿屋の玄関で出会ったのは昨日のあの男だ。
「絶対にお断りします!」
「ふむ、失礼から失礼をしても失礼でしかないと思うのだけどね……ティフェンくん、どうかね君の考えは」
「ジュアロン……胸糞悪くなるから私に話しかけないでくれる」
「そうか……相変わらず君は胃腸が弱いね……私との会話の大半で胸糞悪くなっているよね……それよりこの可愛いらしいボーイを私に紹介してくれないかね」
「…………彼はジンタよ、もういいでしょう、さっさとどっか行きなさいよ」
「ジンタくんか……いい名だ」
おいおいティフェンよ、どうして名前をそう簡単に教えるのだ……
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