第150話 堕女神
「お祈り中、すみません……ちょっといいですか」
俺は上へ行く道を訪ねようとそう話しかける──その女性はそれを聞いてゆっくりとこちらを振り向いた。
女性はかなりの美人である──絶世とつけても良いくらいだ、だけどどこか妙な影があると言うか……
「あなたは誰ですか……なぜここにいるのです」
もっともな質問にこう答えた。
「道に迷いまして……」
魔獣に追われて地割れに飛び込んだとも言えず、間抜けな答えを返した──
「道に迷った……そうですか……」
そう言いながら女性は俺に近づいてきた……そして……目の前にまで来るとその表情を一変させた。
「道に迷ったですって、見え透いた嘘をついて! あなたからは、あの、あばずれ女の匂いがプンプンしていますよ! どうせあの女から言われて、私を貶めにきたんでしょ!」
何を言っているかわからないけど……その鬼気迫る表情にビビる……
「いえ……本当に迷ってるだけですって……」
「あの女の匂いのする者の言うことなんて信じません!」
あの女って誰だよ……ニジナかな……確かに普段は外面のいい顔しているけど、どこかで死ぬほど恨まれたりとかしてるってありえるな……ここは仲間としてフォローしておいてやろう。
「まあ、まあ、落ち着いて、確かにニジナはアレなとこあるけど、基本的にはそれほど悪い奴でもないはずですよ」
「誰ですかニジナって……」
「あの女ってニジナのことだろ?」
「違います! ラミュシャのことです!」
「ラミュシャだって!」
ラミュシャ……ラミュシャ……誰だったかな……すげー聞いたことはあるんだけど……確かに知り合いにいたよな……そうか! 行きつけの雑貨屋のあの金髪の姉ちゃんのことだな──
「まあ、まあ、ラミュシャの店の商品は確かに粗悪品が多いですが、安いですし、そこまで恨まなくても……」
「店? 商品? 何を言ってるのですか……」
「小鳥堂雑貨店の女店主のことですよね?」
「違います! 誰ですかそれ……」
「ええ〜! じゃー誰だろ……」
「もしかしてあなた……崇拝する女神の名前も覚えてないのですか?」
「崇拝する女神? そんな知り合いいませんけど」
「はぁ? あなた、ラミュシャの加護を受けてるじゃないですか」
「──……ああっ!! ラミュシャってエロ女神のことか!!」
「今気がついたんですか……」
「すみません……エロ女神のことを崇拝なんてしてないもので……どっちかと言うと軽蔑しかしていません……というか、エロい目でしか見てません」
「そ……そうなんですか! ちょっとあなたとは気が合いそうですね……てっ! そんな手に引っかかるわけないでしょ! 加護を受けている女神をそんな目で見ている冒険者なんているわけない……嘘を付くにも、もっとマシな嘘を付きなさい!」
「いや、マジでそう思ってます」
俺が真顔でそう答えても、女性は納得しない──
「そこまで言うなら試しましょう……ここにラミュシャの肖像画か描かれた護符があります、これを尻に敷いてそこに座ることが──って! 速攻座りましたね!」
「簡単だ」
「ふっ……なるほど……日頃から手厚い加護を受けてもなんの恩義も感じず、あまつさえ軽蔑して、さらに性的な目で見てると……素晴らしい! そんな人間か存在するなんて……」
「もっと褒めてもいいぞ」
「ならば、提案しましょう……どうですか、あなた……改宗する気はありませんか」
「改宗とはなんだ」
「ラミュシャの加護を捨てて、私、クラウシャの加護を受けるのです」
「加護って、誰からでも受けれるものなのか?」
「神族なら人に加護を授けることができます」
「ハハハッ──てことは、あんた、神様なのか」
「私は博愛の女神クラウシャです」
「何! 女神だと……」
どことなく雰囲気が人とは違うと思ったけど……うむ……確かによく見ればうっすらオーラっぽいものも出てるし……露出している太ももや胸元もエロく見えなくはないな……うむ……いい体してるぞ……胸も程よく大きいし……しかも女神なんだよなコイツ……
「訳あって神の力の大半を失っていますが、今でも人に加護を与えることはできます……どうですか、改宗しますか……って! どうして私に抱きついてるんですか!」
「馬鹿野郎! 改宗するかどうか判断する為に、抱き心地を確認するなんて当たり前だろうが!」
「え!? そ……そうなんですか?」
「抱き心地の悪い女神の加護なんて、こちらから願い下げだ!」
女神クラウシャは、俺の勢いに押されてか、そんないい加減な言葉を受け入れつつあるようだった──
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