第146話 気になるあいつ

戦いの開始の合図は魔獣の出現でも、魔法攻撃などの人的攻撃でもなかった……いきなり轟音とともに足元が崩れ始めたのだ──

「うっわ〜!」

「きゃーー!!」


俺はいきなりの浮遊感に混乱する、周りのどこかに捕まろうとするが虚しく空気をかき回すだけであった。

「ジンタ!」

ニジナの叫ぶ声が聞こえるが、それもどんどん小さくなる……どうやら俺は真っ逆さまに落下しているようであった。


やばい……感覚からするとかなりの高さから落下しているようだ……このままではエロマントで身を守っても、地面に叩きつけられたらどれだけのダメージを受けるかわからない……防御系の魔法など使えないし、どうしたもんか……


対策を迷っている余裕はない、俺は藁をも掴む思いでランダム召喚を発動した。


久しぶりの召喚に応えて現れたのは、お馴染みの顔である父っつあん坊やのノームであった。

「またお前か!」

死の淵にあるこの状況でも思わず突っ込んでしまうほど馴染深い召喚モンスターだが、この状況では風の精霊や飛行のできるモンスターを期待していただけに、地の精霊のノームの登場には落胆を隠せない。


「くっ……もうお前に頼るしかない! ノーム! なんとかしてくれ!」

流石にどうすることもできないだろうとヤケクソでそう命令したのだが、ノームは意外な方法で俺を救ってくれた。


俺はそのまま落下して、地面に叩きつけられた……と、思ったのだが、地面は俺を優しく包み込むように受け止める……まるで高級なベッドに飛び込んだような感覚で、そのまま眠りに落ちてもいいくらいに心地よい。


見ると地面がぷよぷよのゼリーのような感じに変化していた……誇らしく褒めろと言わんばかりのノームのドヤ顔からするとこいつのおかげなのだろうが、その憎らしい表情を見ていると、感謝と一緒に怒りも湧いてくる。


「どうした、褒めて欲しいのか」

そう言うとノームは顎を上げて少し偉そうなそぶりを見せる。

「ふん、まあ、よくやったとだけ言ってやる」

そんなそっけない言葉でも、ノームは嬉しいのかウンウンと頷きながら満足していた。


さて……上を見上げてため息をつく……かなりの深さまで落下したようで、どうしたもんかと途方に暮れる。


ぼーっと上を見ていたその時、何か大きな塊が落下してくるのが見えた……

「なんだ……なんだなんだなんだ!」

大きな塊はまっすぐと俺に向かって落ちてきた──慌てて回避する。

ドスンと大きな音を立てて地面に落ちたそれを見た俺は流石に血の気が引いた……

「魔獣!」

そう……なぜか魔獣の一匹が落ちてきたのだ、よく見ると上でシュラか、エルフィナス辺りにやられたのか魔獣は大きなダメージを受けている。


手負いの魔獣はすごい唸り声を上げて俺を睨みつける……やばい……いくら手負いと言っても、レベル100超えの怪物に二次職のしがない召喚士がソロで勝てるわけがない……流石に死を感じて額から汗が噴き出す。


グガァーーと凄い雄叫びをあげて、魔獣は俺に襲いかかってきた、やばいと頭ではわかっているが、恐怖で体が動かない──もうダメかと思った瞬間、俺に向かってきていた魔獣の体がフワッと地面に沈んだ。

「えっ!」

状況がわからなかったけど、俺の隣で誇らしくドヤ顔でしているノームの姿を見ると、またコイツの仕業のようだ……魔獣は、沼に落ちたようにどんどん地面に沈んでいく……あがけばあがくほど体は地面に吸い込まれて、そのまますっぽりと中に収まった。

「凄いぞ、ノーム、お前、意外に役に立つんだな」

その言葉に満足したのか、ノームは嬉しそうに微笑む──こいつ、いつも仏頂面だけどこんな表情もするんだな……そんなノームだが、召喚時間が終わりを迎えたようで、手を小さく振ると姿を消した。


まあ、ノームは消えたけど、魔獣もかたずけてくれたから大丈夫か……と俺は安心していた、だが、それは甘い考えだったようだ……ノームが消えてからすぐに、魔獣が沈んだ地面がガタガタと揺れ始めた……

「──おいおい……もしかしてだけど……ノームが消えたから魔獣を沈めたスキルの効果も消えたってことなんてないよな……」


誰もいないのに不安な気持ちが自然と口に出ていた、そして嫌な予想は的中していたようで、地面から魔獣が這い出してきていた……

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