第145話 獣王と雪の女王

敵を追いかけていたシュラがトボトボと戻ってきた──落ち込むその姿は悲壮感をただ寄せている……ちょっと声をかけにくいな……


「シュラ、悪い奴、ぶっ飛ばしてきたの?」

空気の読めない、いや読まないユキがシュラにそう声をかける。シュラはその言葉に、悲しい表情をしながらユキの頭を撫でながらこう言った。

「あいつは私の昔の友達でな、本当は悪い奴じゃないんだよ……」


「やっぱり知り合いだったのか……」

「ああ……昔の私のいい人だ」

いい人……てことは恋人だったのだな、女が好きなのは知っているが、目の前でその関係性を見ると生々しいな。

「それで俺たちを襲った理由とかは話してくれたのか」

「いや……ただ、この遺跡から出て行けとは言われた」

「と言うことはこの遺跡に何かあるって言っているようなものね」

シュラの話を聞いていたニジナが適切なツッコミをする。

「まあ、何かあっても俺たちには関係ない、テリスの妹が見つかればそれでいいからな」


また変な襲撃がある前に見つかればいいけど……そう考えていたが、やはりというか、その希望は叶えられなかった。広いフロアーに出たところでそれはおこる。

「囲まれたようじゃぞ……」

いち早くその異変に気がついたエルフィナスがそう警告する。その言葉でキネアもその気配に気がついたようで、緊張の表情でこう言葉を続ける。

「ちょっと……魔獣の気配多すぎない、この数に一斉に襲われたら流石にやばいわよ!」

「そうなのか!」

「魔獣の気配が、50くらい……エルフィナスでも流石に無理よね……」

キネアの問いに、エルフィナスは少し考えてこう答える。

「うむ……勝つのは可能かもしれぬが……死人が出るじゃろうな……20くらいだったらなんとかなったのじゃが……」

「死人って……それは困るぞ! 誰も死なないようになんとかならないか?」

俺のそんな無茶な願いに、エルフィナスはまたまた少し考えると、何か閃いたのか左手の掌をポンと右手で叩いた。

「良いものがある、昔、ラミュシャ様に貰った神薬じゃ……確か持ってきてたはずじゃが……おっ、あったぞ」

エルフィナスがカバンから取り出したのは白い液体の入った小瓶であった。

「それはどんな効果があるんだ?」

「うむ、これは進化の秘薬じゃ、これを与えた魔物は一時的じゃが上位の魔物に進化することができるのじゃ」

「なんと! それってあれか、マリフィルがヴイーヴルになった時みたいにパワーアップするのか」

「パワーアップするのは間違いない、丁度、二つあるから、そこの雪ん子と、ケモミミに与えれば戦力が大幅にアップするじゃろう」

「ナイスだエルフィナス! ユキ、シュラ、お前たちは嫌じゃないか?」

怪しい薬を飲んでもらうので、一応二人の意思を確認する。

「別に問題ないよ、飲んだら強くなるんだろ? 早くよこしな」

「ユキも強くなるよ、強くなってジンタを助けてあげる」

なんと健気な奴らだ……

「ということでそれを二人に渡してくれ」

エルフィナスはユキとシュラに薬を渡した。それを受け取った二人は、迷うことなく一気に飲み干した。


神薬を飲んだユキとシュラは、すぐにその効果が現れた……シュラは体毛が金色に光り始める──そしてムクムクと尻と胸が少し大きくなり、瞳の色が朱色から金色に変化する。

シュラに比べても、ユキの変化は劇的であった。ユキはスクスクと背が伸びていき、俺と同じくらいの背丈に成長した──髪も長く伸びて、体にくびれが出来る……見た目は、完全な大人な女になった。

「うわ……ユキのおっぱいボンってでた! 見てジンタ! すっごいよ、ほら」

見た目は大人になっても、中身は成長していないのだろう──ユキは恥ずかしげもなく服の胸元を広げて俺に見せてくる。ユキのリアルな美乳に一瞬ドキッとするが、流石にユキに欲情してはダメだろうと首を横に振って邪念を払う。


大人になったのが嬉しいのかキャピキャピと喜び騒ぐユキとは対照的に、シュラは自分の成長を静かに受け止めているようだ。


「二人とも神薬との相性が良かったのじゃな、かなり上位種まで進化しているようじゃ、これなら効果時間も長いかもしれぬな」

「効果時間は普通どれくらい持つんだ?」

「うむ、それが私もこの神薬を使ってるのを見るのは初めてでな、よくはわからん」

「戦闘中にいきなり効果が切れるってこともあるのか、ちょっと怖いな……」


そんな俺の心配をよそに、何やらごそごそしていたキネアがいきなり驚きの声を上げる。

「ちょっと待って、シュラちゃんもユキちゃんもすごいことになってるんだけど……」

どうやらキネアはステータスサーチで進化した二人を確認したようだ、二人のステータスが想像を超えていたようで驚いている。

「どうすごいのだ、キネア」

「シュラちゃんは『獣王』って種に進化してるんだけど……びっくりなのはそのレベルよ……レベル132って……上位の五次職の冒険者と遜色ないんだけど……

さらにすごいのがユキちゃんよ……『スノー・クイーン』ってサーガに出てくる伝説の魔物の名前だよね……レベルも210って、もはやどれくらい強いのか想像できないわよ……」


「れべるにひゃくじゅうだと!!」

流石のステータスに顔が歪むほど驚く──大陸最強クラスの魔物でも、レベル200を超えているのは数えるほどしかいない。


「驚いているのもそこまでのよじゃぞ、魔獣たちが包囲を狭めてきた、そろそろ襲ってくるようじゃ」


エルフィナスが言うように、確かに異様な気配が周りを取り囲むように迫ってきているのがわかる……戦いはすぐにでも始まりそうであった。

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