第121話 見知らぬ天井

気がつくと、見知らぬ天井が見える……俺はどこにいるのだ……周りを見渡しても、そこは知らない場所であった。とりあえず上半身を起こし、さらに部屋を見渡す……やはり見覚えがない……


そもそも俺は何をしていたんだ──確か、あるのかないのかわからないような微妙な何かを掴んで……気がついたらすごい衝撃を顔面に受けて……


そう考えながら頬を触ってびっくりする。

「なんだこれは! まん丸ではないか!」

俺の頬が、輪郭が無くなるくらいに腫れている……


呆然としていると、部屋のドアが開かれてニジナが俯き加減で入ってきた。

「じ……ジンタ、大丈夫?」

「うむ……よくわからないけど、すごく痛いぞ」

「ごめんね……そんなに強く叩くつもりなかったんだけど……」

ニジナのその言葉を聞いて全てを思い出す。そうだ、ニジナの貧乳を掴んだ瞬間、強烈な張り手を食らったんだった。

「あのさ……ジンタ……あの……男の人って──あんな反応するのって……エッチな気分になったからだよね……私の……えっと──その、私の小さな胸でも、そんな気分になったのかなって……ハハハッ……変だよね、こんなこと言うの……」


うむ……ニジナはどうやら、男の反応をしていたのが、自分の胸を揉んだからだと思っているようだな……そんなわけないのだが、ここで否定して、また強烈な一撃を食らってはたまらない──ここは話を合わすことにする。

「まあ、不意とはいえ、胸を触ったからな……」

そう言うと、何を考えているのかニジナはものすごく嬉しそうにする。

「そうか……やっぱり私の胸でもそんな反応するんだ──」

本当は全く反応しないと思うけど、小さく頷いた。


「ジンタ……叩いたお詫びってわけじゃないけど……もう一度……ちゃんと触ってみる?」

「何をだ?」

「もう──私のおっぱいだよ……」


……いや、別に触りたくないのだが……

「ほら、緊張しないでいいよ……」

いや……呆然としているだけなのだが……


ニジナがそう言って無い胸を俺に触らそうとしていると、部屋のドアが勢いよく開かれた。

「よう、ジンタ! 生きてるか!」

そう言ってシュラたちが入ってきた。ニジナはそれに驚いて急いで俺から離れる。それを見てシュラがニタニタ笑みを浮かべてこう指摘する。

「なんだよ、ニジナと乳繰り合ってたのか?」

「あってないわよ!」

ニジナは顔を真っ赤にして否定する。

いや……乳を揉まそうとはしていたではないか……そう、つっこみたかったけど、それを言うとまた叩かれるのでここは黙っておく。


俺が寝ていたのは、温泉場の休憩室だった。他の連中は、大部屋で飯を食いながら酒を飲んでいるらしい。俺が倒れているのに酷いやつらだ。


なんとか腫れも引いてきたので、俺もみんながいる大部屋に移動する。


「ジンタさん、大丈夫ですか」

俺を見つけたマリフィルは、そう声をかけてくれる。ゴージャスたちも心配はしてくれていた見たいだけど、空けている酒の瓶を見ると、宴会は宴会で楽しんでいたようだ。


「俺も飲むぞ!」

「おっ、ジンタがそんなこと言うなんて珍しいな」

シュラが俺のその言葉にそう返してきた。


「俺だって飲みたい気分の日もある」

「じゃあ、私がお注ぎしますね」

そう言って自然に俺の隣にやってきたマリフィルがお酒を注いでくれた。


「ジンタ、私も隣に座っていい?」

普段はそんなこと聞きもしないのに、ニジナが俺にそう言って隣に座ってきた。そして変に密着してくる──マリフィルも逆側の隣でニジナに対抗するように密着して胸を押し付ける……ニジナもそれをみて、同じように胸を押し付けようとするが如何せん、無いものは押し付けようがない……


それから変な対抗心が芽生えたのか、ニジナとマリフィルが異様に俺に酒を進め、過剰にボディータッチをしてくる……二人もかなり酒を飲んでいるので、酔いも手伝ってか普段より積極的だ。


ニジナは風呂場での一件から様子がおかしい……なんのスイッチが入ったのか……


一時間もすれば、ただでさえ酒に弱い俺はいい感じに酔いが回っていた……それをいいことに、ゴージャスたちがニジナたちを押しのけ、俺の周りに集まってきて、ルーディアの歓楽街にある夜のお姉さんのお店のような感じに接客してくれる。悪い気分ではないが、元おっさんである事実が不意に酔いを覚ませる。

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