第101話 オアシスを求めて
トレジャーボックスを前に、全員神妙な顔つきでそれを見ていた。トレジャーボックスから水が出てくる確率を上げる為に、全員、クッキーを頬張ることになったのだが、もし……もしだ。クッキーを食べて、トレジャーボックスから水が出なかったとしたら……考えただけでも恐ろしい。
「よし。みんな同時に食べるぞ。ロッキンガン。そこのおっさんたちの口にも放り込め」
裏切り者は許さない。全員、平等にクッキーを食べて、水のドロップの可能性を上げる。ロッキンガンに無理やり口の中にクッキーを入れられたおっさん達の顔が歪む。
「よし。それじゃー開けるぞ」
そう言ってロッキンガンがトレジャーボックスをアンロックする。少しカチャカチャとすると、すぐに開いたようで中を覗き込む。だけど覗き込んだ彼の動きが止まる。
「どうした、ロッキンガン。水は出たのか?」
「……自分で見てみろ」
そう言われたのでジンタは、トレジャーボックスの中を覗き込む。そして、そこにあったのは、熱々に蒸してある芋であった。
「芋……」
「うわ……これまた水分持っていかれる食べ物だね……」
ニジナが嫌な顔でそう言う。
「みんな、ごめん!」
絶望的なその雰囲気に、キネアはいきなりそう言って謝る。
「まさか、貴様!」
「そのまさかです……トレジャーボックスを開ける直前に、どうせならクッキーじゃなくて、熱々の芋だったらよかったのにって思っちゃった……」
「馬鹿野郎!」
さすがにみんなに怒られたキネアだが、反省しているのかしてないのか、その熱々の芋をコソコソと食べ始めた。よほど好きなようだ。
さすがにクッキーで水分を持っていかれて、喉の渇きが限界に来ていた。このままでは干からびて死んでしまう。しかし、次のトレジャーボックスのポイントまでは急いでも二時間はかかりそうであった。
「昔の冒険者が使用していたオアシスが、近くにあるみたいよ」
地図を見ていたニジナが、不意にそう意見してきた。確かにオアシスなら確実に水が手に入る。トレジャーボックスで水を手に入れると考えるより、普通で当たり前の思考のように思われた。
「よし……ここはそのオアシスに向かうとしよう」
普段は無茶な行動ばかりしているジンタであったが、この喉の渇きには勝てないようで、オアシスに向かうことをすぐに決断する。
地図にあったオアシスまでは、一時間ほどで到着した。だが、そこに豊かな水は無く、あるのは前はそこに泉があったであろう窪みが悲しくも寂しく存在しているだけであった。
「マジか……」
さすがに喉の渇きが限界を迎えている。俺はそこ場に膝をついて呆然とした。
そんな状況でも、すべてのものが気を使ってくれるわけではない。脱力している俺たちに、空気の読めないモンスターが襲いかかってきた。ロッキンガンが呆れたように呟く。
「こんな時にキングスコーピオンが出るかね……」
キングスコーピオン。体長10メートルはある、巨大なモンスターで、スコーピオン種の中では最大級である。最大なのは体の大きさだけではなく、攻撃力も防御力も最強で、レベルは60を超える。
凶悪なモンスターのキングスコーピオンだが、今回は襲う相手を間違ったようだ。このパーティーには、酒も切れて、水分もなく、無理矢理嫌いな甘いクッキーを食べさせられて、機嫌最悪の男が存在するからだ。
「ふっ。今晩は蠍鍋だ! 食材の方からやって来るとは気が利いてるじゃねえか!」
ジークはそう言うと、キングスコーピオンに襲いかかった。それを他の仲間は、あの蠍も気の毒に……そんな感情で見守っていた。
キングスコーピオンが、食べやすい大きさに解体されるのも、さほど時間は必要ではなかった。まあ、ジークの拳一撃で息の根は止まってたんだけど、そこからは解体ショーが始まり、その見事な手さばきに見とれてしまった。
「蠍鍋はいいけど、やはり水がないとだね……」
「魔法で水を出せる奴いないのか」
ニジナの言葉に、ジンタが何気なく言ったのだけど、この言葉で状況は好転する。
「水を出すってなると、水系の攻撃呪文か、泉の魔法ね。レンジャーに飲み水を生成する魔法があるんだけど、残念ながらポイント振ってないのよね……」
「貴様は本当に役に立たない奴だな」
「五月蝿いわね、ジンタ。あんただって何もできないじゃないの」
「ふっ。俺は何もできなくてもいいのだ。シュラとユキが俺の分も頑張ってくれる」
「他力本願ね。それじゃ、そのご自慢の二人に水を出して貰ってよ」
「無茶を言うな、いくらあいつらでも水なんて出せるわけ……あっ!」
ここでジンタは何かに気がついたようである。ユキに走り寄ってこう話しかけた。
「ユキ。お前、ここでアイシクルランスを使えるか?」
「うん。使えるよ」
それを聞いてニジナが何かに気がついた。
「あっ。そうか! 氷も解ければ水になるわね」
ジンタの考えは、ユキにアイシクルランスを使ってもらい、それをファイヤーボールで溶かして水にするというものであった。すぐにそれを実行して、水を生成する。やってみるまでは半信半疑であったこの方法であるが、想像以上に綺麗に水が出来上がった。
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