第12話 雪も滴るいい女

俺の前には光る輝く召喚石が置かれている。これが百万ゴルドもする高価なものには見えない。まあ、何にしろ今のこの状態では何の価値もない。ここに女モンスターを入れて、初めて俺の宝に変わるのだ。


ギルドに借金して買った召喚石である。契約するモンスターは慎重に選ばなければいけない。話を聞くと、空の召喚石は、一度何かのモンスターを入れると、もう再利用はできないらしく。新しいモンスターを入れるためには、また新たに空の召喚石を手に入れる必要があるようだ。


ジョブクエストの攻略と俺の趣味から考えると、この中に入れる最適のモンスターはやはりユキジョロウであろう。レベルは俺より遥かに高いが、頑張って契約すれば、目眩く夜の営みが待っているのだ。


俺はすぐに調べた。そしてユキジョロウの生息地で一番近いのはルーディアの北にあるサンペイ山の頂上付近で、日帰りでもいける距離なのがわかった。よし。明日行こう。そうと決めたら今日は早めに寝ることにした。


そして次の日・・


「なぜニジナがついてくるんだ」

今日は一人でサンペイ山に行くつもりだったけど、なぜかどこで話を聞いたのかニジナが俺についてくる。

「あのね、ユキジョロウなんてレベルの高いモンスターに会いに行くのに一人で行ったら死にに行くようなもんよ」

「ふん。俺は戦いに行くのではない。友達になりに行くんだ」

「それはあんたの都合でしょうが。あっちはそう思ってくれないかもしれないでしょ」

「いや、思ってくれる。俺にはわかるんだ」

「何がわかるのよ。そもそも召喚石の契約方法は理解してるの?」

「俺とユキジョロウがなんかいい感じになれば、パーとこう光って召喚石にブシュシュシュ・・って感じで契約が完了すると思っている」

「何よその怪しい擬音は・・思った通り、何も考えないで行くつもりだったのね・・まあ、安心して、私がちゃんと調べてきたから・・」

なぜか頬を赤らめてそう言うニジナに答える。

「それは本当かニジナ。ならば同行を認めよう」

「どうしてそんなに偉そうなのよあんたは」

「偉そうなのではない。偉いのだ」

「もう、好きに言ってなさい」


普通の人間なら十分な準備と、ある程度の日数をかけて登る高い標高の山を、冒険者の俺たちは頂上まで難なく登る。


「お・・おい、に・・ニジナ。さ・・寒いんだけど」

ガタガタ震えながら俺が言うと、さらに寒さに震えながらニジナが答える。

「なななな・・何言ってるのよ・・わわわ・・私の方が寒いわよ・・」


しまった・・山の上ってこんなに寒いんだ・・普通に半袖で来ちゃったよ。


「それより早くユキジョロウを見つけましょう。こんなところに長く居たら死んでしまうわ」

「そうだな、早く見つけよう」


と、探し始めて五分。それは唐突に現れる。

「こんなところで何してる人間・・」


東洋の衣服に身を包み、氷の髪を靡かせて現れたのは、モンスター図鑑で見たユキジョロウそのものであった。露出は少ないが、あの東洋の衣服を脱がす喜びを考えれば、それほど問題ではない。十分、俺を満足させてくれそうだ。

「ユキジョロウだな。俺は召喚士だ。お前を俺のモノにしにきた」

そう言うと、ユキジョロウは微笑む。

「何を言っている。私がお前のモノになるだと・・そんなことはありえん」

「いや。必ず俺のモノになる。そう決まってるのだ」

脈絡はないけど、すごい自信でそう言うと、なぜかユキジョロウも疑問を持ち始めた」

「どうしてそう言い切れる。私がお前のモノになると・・」

「なるんだ! 決まってるんだ!」

「・・・そうなのか?」

「そうだ。もう決まってしまってるのだ・・それが運命というものだ」

「・・・しかし・・私は・・」

「ユキジョロウ! さぁ! お前の名を俺に明かすのだ! そうすれば契約が完了する」


そう。召喚石の契約の条件。それはモンスターの名を知ることである。この条件がある為に、召喚石に入れることができるモンスターは、ある程度の知識と名が必要で、言葉を持たない獣などは対象外となる。


「ユキです・・・」


そう声が響く。よし、それでいい! 俺は、ユキジョロウの名を知ったので、召喚石を掲げて、契約の言葉を口にする。

「我が名はジンタ。ユキジョロウのユキを、この召喚石の宿主として認める!」

そう言うと、召喚石が光る。そして何かが召喚石に入っていった。


「よし。成功だ! ユキジョロウと契約できたぞ」

と、喜んでいると、前にいるユキジョロウが呆然と見ている。あれ? この中に入ったんじゃないのか・・どうしてまだ前にいるんだろ・・


召喚石は、空の時と違って、強い光で光っている。明らかな変化であるが・・それはニジナも思ったようで、俺に聞いてくる。

「ジンタ。召喚石に入ったはずなのに、どうしてあのユキジョロウがそこにいるの?」

「・・・わからん」

「まあ、あれだったら召喚石を使って召喚してみたら?」

「なるほど。そうして見よう」


俺は召喚石を手に持ち。スキルパネルを開く。そこには召喚石召喚のパネルが増えていて、それを実行した。すると、召喚石が激しく光り、目の前にユキジョロウが召喚された・・・と、思ったのだが、そこに現れたのは、ユキジョロウの格好をしたガキんちょであった。

「何だお前は・・・」

俺はユキジョロウのガキにそう問いかける。

「ユキだよ・・」

「何だと・・ではあれは誰だ」

目の前のユキジョロウを指差してそう聞く。

「あれはお母さん・・」


「・・・・やり直しを要求する!」

俺が力強くそう言うと、ニジナが呆れたようにこう答える。

「いや・・無理だって・・」

「なぜだ! 俺はあの大人のユキジョロウと契約する気だったんだ! どうしてこんなガキと契約しないといけないんだ! 俺はお母さんの方がいいんだ! ガキじゃ興奮しないぞ!」


ギャーギャー騒いでいると、ユキのお母さんが丁寧に頭を下げてこう言ってきた。

「娘を宜しくお願いします」


終わった・・召喚石の再利用はできない・・このままユキジョロウのガキと契約するしかないようだ・・

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