3.21存在するのは「愛」や「平和」などの概念ではなく、「愛すること」、「平和であること」という事実である
【トモヤ@現実世界:ベッドの上】
それにしても、今日はヒマだ。トモヤはベッドに寝転び天井を見上げていた。家に帰ってきたものの、読みかけだった本は読み終えてしまったし、宿題もないし(あってもやらないけどね!)、遊ぶ予定もない。新しい本を買いたいところだが、あいにく今読んでいるシリーズの最新刊は来週発売だ。それまで違うジャンルの本を読んでいてもいいが、なんとなく寄り道せずに最新刊を待ちたい気分だった。
リョウもそろそろ家に帰ってるところだろう。夕飯でも一緒に食べないか誘ってみよう。トモヤはリョウにDMを送った。こういうときくらいしかE-schoolを使わないトモヤであった。
トモヤ:@リョウ 夕飯食べない?[10/11 16:53]
リョウ:@トモヤ 用事がある。すまん。[10/11 16:55]
何ともそっけない。リョウは必要以上にべらべらと喋ることはあまりなく、チャットでも「ああ」とか「いや」とか一言のレスポンスが多い。それだけ気を許されていると言えば聞こえはいいが、単に会話が面倒なだけかもしれない。きっと女の子にはもっと丁寧な返事をしているに違いない。だからこそさっきのユウコに関する態度には驚いた。あんなに積極的に長文でレスポンスするリョウはなかなか見られない。もしかしてリョウはユウコのことが好きだったのかもしれない。
リョウに断られいよいよやることがないので、トモヤはベッドに横たわり目を瞑った。
※
【ミキ&リョウ@E-school】
ミキ:@リョウ もうすぐ着くよ。待たせたらごめんね。[10/11 17:01]
リョウ:@ミキ まだ俺も着いてないから大丈夫。慌てずに。[10/11 17:01]
ミキ:@リョウ ありがとう。[10/11 17:01]
ああ、こんなときに遅刻だ。どうして肝心なときにいつも遅刻してしまうんだろう。ミキはつくづく自分が嫌になった。
雀の涙ほどしかない勇気を振り絞ってリョウと会う約束を取り付けたのに。「会う」と言ってもE-school上でだけど。そんなの会うって言わないのかな。ミキは自問自答する。
リョウとは小学校からの幼馴染で、昔からよく遊んでいた気がする。でも高校に入ってからはなんとなく恥ずかしく、二人で会うことはなくなった。普段はアヤカ、トモヤ、リョウ、ミキの4人でいることが多いので、なおさらリョウと二人で会うことはいけないことのような気がして、なかなか誘うことができなかった。
そんなことを振り返りながらミキは約束の場所へ急ぐ。ネットの世界なんだから、瞬間移動とかできてもいいのに。普段E-schoolを使わないからその仕組みはまったく知らないが、とことん現実そっくりに作られていることはミキにも理解できた。
ミキ:@リョウ ごめん。待った?[10/11 17:06]
リョウ:@ミキ いや、俺もいま着いたところ。で、話って?[10/11 17:06]
ミキ:@いや、えっと……[10/11 17:07]
単刀直入すぎるよ。リョウはいつもそうだ。無駄な会話をしようとしない。
ミキ:@リョウ 事件のこと、なにかわかった?
リョウくん頑張って調べてるんだよね?[10/11 17:09]
こんな話がしたいんじゃないのに。何を話すか色々考えていたのに頭が真っ白になり、咄嗟に事件をことを話題にしてしまった。
リョウとミキは並んで歩き始める。二人は屋上に続く階段を登り始めた。
リョウ:@ミキ 調べているけど、まだ何もわからない。 [10/11 17:10]
ミキ:@リョウ そうなんだ……。[10/11 17:10]
話題終了。どうしよう。話が続かない。
でも学校側が何も掴んでいない、というのには引っかかった。何もわからないというのはヘンではないか。首を絞められて殺されていたのだから、ロープとかを調べたら何か分かりそうなのに。
二人は屋上に上がり、柵にもたれて夕陽を仰ぐ。
夕陽は不気味なほど赤く、血を連想させた。
こんなふうに、現実世界でもリョウと二人で屋上に来られたらいいのにな。
リョウ:@ミキ まさか学校で殺人が起きるなんてな。学校生活ってもっと平和なものだと
思ってた。[10/11 17:13]
ミキ:@リョウ うん。しかもうちのクラスメイトだもんね。[10/11 17:14]
リョウ:@ミキ そうだな。こんなに近くで起こるなんてな。[10/11 17:14]
ミキ:@リョウ 平和じゃなくなってはじめて「平和だったんだな」って気づくんだね。
今回のことでそう思った。[10/11 17:15]
リョウ:@ミキ なんか哲学的だな。[10/11 17:15]
ミキ:@リョウ 「平和」って、漠然としたものじゃなくって、美味しいものが食べられるとか、友達と明日も会えるって信じられることとか……。
そういう具体的なものなんだね。[10/11 17:17]
リョウ:@ミキ そうだな。 [10/11 17:17]
リョウ:@ミキ 暗くなってきたし、そろそろ帰ろう。[10/11 17:20]
ミキ:@リョウ そ、そうだね。帰ろっか。[10/11 17:20]
リョウ:@ミキ じゃあ、また。[10/11 17:21]
<リョウがログアウトしました>
今度は現実世界でも会えたらいいな。そして事件の話なんかじゃなくて、もっと楽しい話をしたいな。
ミキはそんなことを考えながら、現実世界に戻って行った。
<ミキがログアウトしました>
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