3.1 「もの」ではなく「こと」が存在している
【エンドウ@現実世界:職員室】
ネット上の殺人事件に学校中がてんてこ舞いだった。エンドウはユウコがの死の状況、その予想される原因、および今後の対処をレポートにまとめて職員会議で報告していた。
「えー、このような事態になってしまった以上、これを現実として受け入れ、職員共々全力を挙げて……」
校長の声が職員室に響く。「現実」として受け止める、か。今回は文字通り「現実」として受け入れる必要があるだろう。旧時代の年配の教員には、ネット上の出来事なのだから真に受けなくても良いではないか、という意見を持つ者もいる。時代錯誤も甚だしい。ネットだからニセモノ、現実世界だからホンモノだなんて、ひと昔前の考えだ。「人が死んだ」という事実が存在している。そのことを肝に銘じなければならない。
クラスチャットが荒れなければいいが……とエンドウは考えていた。余計な仕事は増やしたくない。ネット世界の対処もなかなか時間を食われるのだ。今夜あたりにチャットを確認しよう。
※
【アヤカ@現実世界:教室】
あーーもう!!全然授業に集中できない!!まあいつも集中してないけど!!笑
アヤカは授業も上の空にユウコのことを考えていた。ユウコは体育館で殺されたという。昨晩クラスチャットでレスポンスしてたのに。
それにしても誰がそんなことやったの!?ユウコはずっと不登校で直接会っている人はいなかっただろう。するとネット上で恨みを買ったんだろうか。それとも私たちが学校に行ってる間に別の世界で何かしていたのだろうか……。
でもユウコが悪事に手を染めたり誰かの恨みを買うなんてことは考えにくい。かといって偶然体育館にいたところを殺されたなんて考えにくい。やっぱり計画的に殺されたんだ。
クラスチャットを覗いてみよっかな。
アヤカはクラスチャットにログインしてクラスメイトの様子を伺った。
<アヤカがログインしました>
アヤカ:ねねね、ユウコっていつ殺されたんかな???
誰かしらない???[10/11 11:23 既読8]
トシ:夜に決まってるだろ(真顔)[10/11 11:24]
アヤカ:@トシ なんでわかんのよ!?[10/11 11:25 既読8]
コウヘイ:無能現る[10/11 11:26]
トシ:@アヤカ だって昨晩ユウコがレスしてただろww
ってことは夜までは生きてたやんwww[10/11 11:26]
アヤカ:@トシ あっそっか!!!![10/11 11:27 既読8]
アヤカ:じゃあなんでそんな時間にユウコは体育館にいたの???
おかしくない!?!?[10/11 11:28 既読8]
コウヘイ:あっやっべ……[10/11 11:28]
<コウヘイがログアウトしました>
<トシがログアウトしました>
アヤカ:ちょ、みんなどうしたのよ!!!![10/11 11:29 既読4]
「おーい。授業中におしゃべりかー??ネットの私語まで見張らなきゃいけないこっちの身にもなってくれよー。」
げ。エンドウ先生。いつの間に。さっきまで黒板前にいたのに。
「放課後、職員室ね?逃げずに来るんだぞ。」
面倒なことになった。放課後はトモヤたちと喫茶店でも行こうと思ってたのに。
※
【トモヤ&リョウ&アヤカ&ミキ@現実世界:屋上】
昼休み。トモヤはリョウ、アヤカ、ミキと屋上で弁当を食べていた。人が死んでも腹が減る。腹が減っては戦はできぬ、だ。戦なんかしないけど。
「それにしてもいきなりだよな。昨晩まで生きてたのに。」
「ホントに!でも私昨晩までユウコが生きてたって、なんだか信じられない。さっきトシに言われるまで気づかなかったもん!」
「ああ、そうだな。」
「うん。わたしもまだ信じられないよ。」
4人が口々にユウコについて意見を言っていく。
「俺、ユウコの事件のこと、調べたい。」
リョウがふいに言った。
おいおいマジかよ。普段冷静で周囲との距離感を調整しているリョウが、どうして自分から調べたいなんて言い出すんだ??
「リョウってたまにヘンなことにこだわるよね~!あたしたちが全然気にしないことにマジになったりするし。まあそういうとこリョウっぽくて好きだけどね!」
確かにそうだ。そういうところがリョウっぽいっちゃリョウっぽい。長年付き合ってきたからこそわかるリョウの個性だった。
「まあとにかくユウコはご愁傷様だったね。僕たちは与えられた生を精いっぱい満喫しよう!」
適当なことを言って話題を打ち切る。しばらくは現実もネット上のこの話題で持ちきりだろう。あまり楽しい話題じゃないけど。トモヤはそんなことを考えながらサンドイッチを食べきった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます