082、内気な少女と外側の少女

 そんなやり取りをしていると、坊が何か言いたそうにしているのが目に入った。

 補足か、補強か、反論か……ともかく、


「坊、君には全体の意見を聞きつつ最後に……つまり、リノ、オーリの次に発言をお願いしたいが、いいだろうか。あ、もちろん、必要だと思えばどのタイミングで口を出してもらっても構わない」


 彼女にここで当てたのは、オブザーバーというか顧問的な立ち位置だ。本当ならもっと関わってもらってもいいのだけれど、彼女の立場上難しいところもあるだろう。議決権なしで意見の言える立会人くらいがいいのではないだろうか、という判断だ。


 もちろん、こちらが一方的にメリットを受けるのではなく、彼女とてゼセウスに報告しなければならないことがある以上、会議に参加するのは利点だろうし、組織の方針決定に意見を出せるというのはプラスポイントではないだろうか。

 これが難しい立場であるというのも確かだが……。


「わかりました」


 考えていると浅く顎を引くように頷くと彼女はおとなしく、その役目を引き受けてくれた。



「さて、リノ、君の手ごたえを聞かせてくれるかな?」


 声をかけた。彼女は伏し目がちな表情から少し目元を震わせてまつげを揺らす。

 彼女はあの孤児院では珍しく内向的とそう表現していい性格をしている。

 その分、声をかける際には注意が必要だと思っているのだが、今のは少し声掛けが急だっただろうか? 順番的にも緊張しにくい順番にしたつもりだったのだが。


 先ほどまで二の腕のマッサージをされていたマルが、リノの手を握っている。安心させようとしているのだろう。オーリは……リノに視線を向けられて頷いている。

 やってやれ、という風な感じだ。

 この三人はこの三人で仲がいいなぁと思っていると、リノが口を開いた。


「えっと、その、お店のほうは……問題ないと思います……今のところですけど」

「今のところ、というと何か気になる部分でも?」


 聞き返すと、リノはこちらに伺うような視線を向けて、それから視線をさまよわせる。

 おどおどしているというわけでもないが、何か……とりあえずはきちんと言葉を探すタイプなのだろうと思うことにする。


「……品数と量です」

「品数と量」


 リノの言葉をそのまま反芻してから、マルを見る。

 首を傾げられた。思い当たるところはないらしい。

 と、そこに言葉を挟んできたのは坊だった。


「えと、いいでしょうか?」


 小さく手を挙げた発言に、こちらはありがたく思いながら彼女に先を促す。


「私から思い当たるのは問題が一つ、対策が二つです。どちらの意味でリノさんが仰っているのかはわかりませんのでどちらもあげておきます」

「お願いしたい……いいか、リノ」

「はい」


 少しほっとした様子のリノ。もう少し、自分の考えをまとめたりそういうことができるようになってほしいが、それはオーリやニコに話を聞いてからにしよう。


「今は二品がメインで出ています。牛肉の串焼きと先ほどあの女性が豪快に食べてらっしゃった、あのパンにはさんだソーセージですね」


 どちらもあの日解体所で仕入れたものだ。兎の肉はどうしたのだろうか? すでに売り切れたか、あるいは、売り物ではなく消費しているのか。


「品数が二品ということで飽きられるのが早いとか他の問題も生じるかもしれませんが、とりあえず今の問題は売り切れです」

「売り切れ……あぁ」

「はい。今は夕方の帰り道の人々がひと段落つく頃には仕込み量が尽きるような感じです」


 人手、仕入れ、仕込み、調理、様々な問題を勘案してのそれであろうから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。


「私としては、屋台の営業可能時間のスパートを無駄にしているのが気になりますね」

「商人として?」

「……まぁ、そうですね。とはいえ、理解はできます。リソース的にそれができないというのもわかりますし、問題を先送りにできるというのもあります」


 リソース云々はわかる。今の人出では足りないというのだから。しかし、もう一つの問題の先送りというのは、少しわからない。


「後半についてもう少し聞いてもいいか?」

「あぁ。問題の先送りですね……ん、貴方がどうなのか、わからないので少し言いにくいですが」


 坊が珍しく言いよどむが、そこで反応したのはニコだった。


「そういうところ見たことないから多分大丈夫」

「……ん、ニコ。あの子が何を言いたいかわかるのか?」

「想定してしかるべき。むしろ貴方が想定していないということが驚き」


――なんだ?


「わかりました。それでは」


 坊がどこか意を決したように口を開く。


「夜間の営業につきものの問題です」

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