078、街入りして、一休み
朝起きて全員そろって食堂で朝食をとる。パンと簡単なスープ。街に行くとおそらく肉を口にする機会が多いだろうからと野菜を中心としたスープだ。
昨日の時点では全員で行こうという話にはなっていたのだが、さすがに年少組を連れて行くのは、よろしくない――まぁ、危険でメリットもない。
そういうわけで、孤児院の居残り組は年長一人に年少二人。年中全員と、オーリ、ニコ、クヌートのは街行きの側。
そこにプラスすることの、俺とシレノワ。合計で11人。結構な所帯だ。
・
街への道を並んで歩けば前後で広がり、人の目をひく。とはいえ、孤児院から街へ向かう道なんてそれ以外人はほとんどいないから。
目をひくのが顕在化するのは街に近づいてからだ。
「っていてもね」
先ほどまで年中組をまとめて歌で導いていた耳長の女は言う。
「目立つだけなら問題ないのよ」
何らかの証書と、豆銀貨を数枚門番に押し付けるように支払うとシレノワは先に行く。
続いて年中組達が、首から下げていた通行所を守衛に渡している。
しばらくすると検査は終わったらしく守衛が年中組達に何かを一言二言告げながら配り返していく。
(何を言ってるんだろう?)
少し気になったが、通り過ぎて行った年中組達もその表情に陰りが見えないのでいいだろう。
と、こちらも守衛に通行書を渡す。しかし、守衛は今度はさほどの時間を費やさずに通行証を返してきた。
(ギルドと孤児院で違いが?)
何かの理由で二つの反応を変えているのかと思ったが、聞いてみると理由は簡単で。
年中組が一度に投げ渡す様に通行証を渡してきたせいで混ざってしまった、というかどれが誰のものだか分からなくなったとのことだ。
そこで、一人ずつ名前を呼んで確認しながら返却していったとのこと。
本来ならこのタイプの通行証に名前は書かれていないのだが、ちょうど良さそうな布の切れ端をいくつか見かけたので、名前を書いたリボンに見立ててそれで通行証を縛るようにしたのだ。孤児院名と個人名を書いた紛失対策だが、今回はそれが逆に働いた。
面倒ごとに繋がったが、まぁ、言ってもさほどではない。せいぜいが数分程度。
一塊の団体であるが、三種類の通行証があるということに若干訝し気な視線を送られた気もするが大きな問題ではない。
すべてきちんと正規のものだから余計な問題はない。
三人ほど年中組が走り出しそうな気配を感じたが、一人はクヌ―トにつかまり、一人はシレノワが手をつなぎ、一人は年中組の仲間に捕まっていた。
彼らが逃げ出す暇もない程度の時間で、昼の鐘が鳴るよりも一時間以上前にそこについた。
「多分、今の時間ならまだこっちで作業してるはずなんだけどな」
オーリが言いながら扉を開く。
油が注されたのか扉はきしむ音もなく開き中の様子をあらわにした。
・
わーわーと、声を挙げて子供たちはリノとシノリのところに殺到した。
数日間とは言え離れていたのが寂しかったのだろうか。
ちなみに、マルは調理場にいた。そちらに飛び出していこうとした男の子が一人、オーリに捕まっていた。清潔にしてから、だ。ときちんと怒っている。
「……疎外感です」
シレノワは何ともなしに言葉を零している。クヌートはシノリのところに行き、オーリはマルの方に走った男の子と一緒にリノのところに行った。
ニコは俺の横だ。
「お客さんのお姉さんに」
マルは奥の調理場で作業を続けながら何かを差し出してきた。リノが受け取ってシレノワに渡す。
「あ、ありがとうございます」
あの日、解体場で作った血のソーセージとアリルの実のスライスの挟まったパンである。
アリルの実のエキスを受け止めても形を崩していないことから考えると、パンの表面には油でも塗ってあるのだろう。
バターの類か、あるいは、肉の油なのかはわからないが。
木の皿に乗って出てきたそのパンからアリルの実のほのかに甘いにおいと、ソーセージの匂いがすることから考えると、温かいままに運ばれてきたようだ。
「美味しそー」
とか、そんな声が子供達から上がってくるが、
シレノワはそのパンにかぶりつく。パンの表面はざくり、という音を残し、ソーセージの皮の手ごたえある噛みきりの音、アリルスライスのサクサクとする破断音が重なって起こる。
目を見開いた彼女は、
「美味し―!」
いつの間にかシレノワの席に置かれていたのは林檎の飲み物らしい。
「丁度いい感じの相性!」
女性には少し大きいかと思ったそのパンをはさまれたソーセージと一緒に噛みちぎり、飲み物で柔らかくして幾度か強く噛むような仕草をした後に飲み込む。
わずかに、四口ほどで、そのパンは彼女に呑み込まれた。
「……すご」
ニコが驚く表情を見せる。他の子供達も驚いたような表情をしているが、オーリ、マル、シノリ、リノは驚く表情を見せない。
あぁ、というような表情だ。
「屋台に来た時も?」
「……まぁ、そういうことですね」
シノリが答えてくれた。ため息すらも混じっていそうな声音である。
マルは、驚くよりもうれしそうな表情だが、これは、おいしいと言われたこととその良い食べっぷりに対してだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます