065、遠足前の顔合わせ
備えというのは役に立つのか否か。
「役に立つときもあれば、役に立たない時もある。けれど、備えていなければ不安でポテンシャルが発揮できない程度、ではないでしょうか」
「用意をしないことがマイナスにしかならない、という結論部分だけを抜き出せば同意だな」
朝起きて、用意をして、来客が結局昼近くになった。視力が良い子が高いところからその姿を見つけて報告を受けたこちらは出迎えしようとしていたが、小さい子たちも興味津々で寄ってきたが、小さい子同士ではしゃいでいる。
あぶれた俺はこちらに歩いてくる客人たちを見ながらクヌートと益体もないことを話していた。
先行しているのは、大工なのだろう、恰幅よく体格もいい中年に差し掛かりつつありそうな男は部下を持って指揮する立場なのだと感じられた。その後ろに続いているのは、シレノワ、ダンジョン師の女性だ。更に後ろには筋力のありそうな男が三人ほど。年齢でいえば、20に届くかどうかという二人と、壮年期の男。
おう! と中年の男が声を張って手を振り上げる。
「こんにちわー!」
応えたのはこちらの年中組と年少組だ。手を振りながらわーきゃーと声を上げている。珍しいお客さんに昂っているらしい。
それに対して中年の男も破顔しているのが少しの距離を置いたこちらからも見える。なるほど、大工については気難しい人をイメージしていたが、孤児院に送るということで少なくとも子供好きな人を送ってくれたのかもしれない。
ちなみに、先頭の中年男性がそんな風に子供たちを好ましく思ったような反応をしたのとは対照的に、シレノワは疲れたような困ったような表情をしている。これについては、単純に山道による疲労なのか、それとも子供たちが苦手なのかはわからない。
ついでに言うと、最後に追従している男たちの表情は見えない。
「あんたが、カミゾノさんかい?」
距離が詰まると、その体の力強さがはっきりとわかる。
遠目の印象では、恰幅がいいと体格がいいというのが等分程度に感じられたが、近くで見ると、体格の良さが際立つ。肩が盛り上がっているようにすら感じるし、シルエットの大きさもそのほとんどが筋肉で構成されていそうだ。
少なくとも無駄な肉が多いとは思われなかった。
「よろしくお願いします」
握手をする。痛いくらいに握られた。
それが表情に出ていたのか、クヌートとシレノワから軽い笑いが零れた。
なるほど、こういう場合にそういうリアクションをするようなタイプという意味では確かに、二人には近しいところがあるかもしれない。
性格が悪いという風ではなく、良い性格をしているというか。
そんな感じのところは似通っている。
「うちの若旦那のおすすめの料理を持ってきたから、あっためるために火を貸してくれると嬉しいな」
昼を取ってから移動するのか、と、そんなことを考えていると、中年男性は嫌味のない笑みで続ける。
「あんたんところの屋台の料理だぜ」
「それはいい」
先にクヌートが反応し、俺は苦笑を混ぜた笑みを浮かべるしかなかった。
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