娯楽と欲望の国ー2
男性に連れられてエレベーターへと乗り、最上階へと辿り着く。
降りるとすぐに現れた大きな扉を男性はノックする。
「入りな」
女性の声を確認すると男性はゆっくりと丁寧に扉を開ける。
僕らを客人と見なしてくれたのか、男性は僕らへ入るよう促した。
そして僕ら全員が室内に入ると、中には入らずに扉を閉めた。
扇形に近い室内の壁はほぼ窓ガラスで視界が広く、左にはパルメキアの娯楽園。
右にはもう一つの顔、農耕が盛んな居住地帯と火山が見えた。
けれど部屋の中を見渡すが人影はなく、他には豪華な調度品や家具、芸術品が目に入るだけだった。
すると背を向けていた大きな椅子がくるりと反転し、そこには年老いた女性が腰かけていた。耳飾りに首飾り、指輪に至るまで身に着けている宝石の類は全て硬貨のように大きい。
華美な身なりの女性は僕らを見るなり鼻で笑う。
「悠真は随分ひょろっちいのを遣わしたもんだね」
「あなたがマダムですか?」
「じゃなきゃお前さんは誰に会いに来たんだい」
彼女の片手には携帯端末があり、視線はそちらを注視している。
僕らなどちらりと見る程度だった。歓迎ムードではない。
持てなされようと来たわけではないのでそれは構わないが、相手にされないのも困る。忙しい人だという事は知っている。なら早速本題を切り出そう。
「パルメキアにあるとされる祠にお心当たりはございませんか?」
「あるよ」
「でしたらその場所を教えては頂けないでしょうか」
「それはできないねえ」
「どうしてですか?」
鳥羽会長は話は通しておくと言っていた。
マダムは僕らが会長から紹介された人物だと理解しているはず。それでも教えてはくれない。となると、やはりマダムは祠には
「情報はタダじゃない、金になる立派な商品だ。見ず知らずの子供に渡すもんかい」
不敵に笑みを浮かべるマダムは僕らを突き放すというよりは要求しているように見えた。かといって貧乏学生の僕に払える額などたかが知れている。
「その…あまりお支払いはできないんですけど…」
「なら簡単な話だ。稼げばいいだろう」
「でも、僕らにそんな時間は…」
稼ぐと言ったって限度がある。きっと要求してくる額は貴族や富豪が取引をする僕にとっての大金。
庶民の月収額を上回るに決まっている。それを学生の僕が容易に用意できる訳がない。
「頭の回らないボウズだね。ここをどこだと思ってるんだい」
ここって…まさか、僕らに賭博をしろというのか!?
そんなイチかバチかの稼ぎ方などできないと言おうとしたが、僕より先にマダムは言葉を続ける。
「親切に条件をつけてやろう。5日以内に3億稼いで私の前に持ってきな。そうしたら教えてやるよ」
「3億ぅ!?」
思わず間抜けな声を上げてしまう。たった5日で稼げるはずがない。
軍人になれたとしてもそんな額は一生をかけても手にできるかどうか。
そんなお金があれば…家族にどれだけ楽をさせてあげられるか…。
「どのくらいのお金かしら」
「それだけあったら一生美味いもん食えるな!」
有翼人であるヘスティアさんがお金の価値をいまいち把握できていないのは仕方ない。フェイ君の感想も間違ってはいないのだけど…今はそんな事に構っている場合ではない。
「無理です!そんな大金僕らには用意できません!」
「おや、始めてもいないのに無理と言うのかい?お前さん達は世界を救うっていう無理を成し遂げようとしているのに、金を稼ぐ位で随分と弱気だね」
世界を救う。その言葉が重く圧し掛かる。
僕はあくまで自分が救うという感覚ではなく、その手伝いという気持ちでいた。
自分に皆のような優れた能力はない。けど、見て見ぬふりはできない。
だから例え僅かでも自分が出来る最大限をしようと決めただけだった。
でも、傍から見れば僕だって大業を成し得ようとする同じ括りになるんだ。
己の覚悟の甘さを指摘されたようで何も言い返せない。
そんな比較の仕方をされてしまうと無理だと言えなくなってしまう。
地道に祠を探すにしたって時間は掛かるし、もし許可無しに立ち入れない場所に祠があったとしたならば必ずマダムの許可を得る必要がある。結局、お金を要求される事になるのだろう。この条件を受け入れる以外道がないのか。
「…決まりだね」
僕らが何も反論しないことを了承と受け取ったようだ。
不可能に近いと分かっているのに、上手い切り替えしが出てこない。
マダムはもう用件は済んだと言わんばかりに携帯端末を操作し、顔を上げはしなかった。
そして閉められた扉が再び開け放たれ、僕らを案内してくれた男性が退出するよう促してくる。別の方法を粘る猶予も与えてはくれない。
成す術もなく、僕らはカジノの1階フロアまで戻された。
こうなれば稼ぐしかない。5日で3億を…!
…どんな方法で、手順で、そんな金額稼ぐんだ。
このカジノで賭け事をするにしたって少ない掛け金じゃ到底間に合わない。
大穴狙いを行わなければ到底届かない。それに持ち合わせのお金では軍資金がそもそも少ない。
僕らは軍資金を集めるところから始める必要がある、途方もない道のりだ。
大金で失敗すればやり直す時間もない。常に成功する手順を踏む必要がある。
賭け事でそんな上手くいくか?そもそも成功だけなら賭けとは呼べない気もする。
僕らは賭けではなく勝つ勝負を行う必要がある。
大体そんな事ができるならとっくに僕は大富豪になっている…!
頭が痛くなってきて、思わず大きなため息が出てしまう。
「ふふっ、あなた一人お困りのようね」
扉の前で待機しているバニーの女性が愉快そうに僕を見て笑った。
「…え?」
指摘されて左右の二人を見る。
ヘスティアさんは心配そうに僕を見ていたが困っている様子はない。
対してフェイ君は余裕すらありそうなくらい平静なままだ。
この状況において困難を感じているのは僕だけ、なのか。
「私はまだ状況を正しく理解できていないわ。でも勇太を見る限りとても苦しい事態になっている事は分かった。だけど、私達に立ち止まっている時間はない。そうでしょう?」
「どれだけ無理に等しくても、やるしかないってんだから悩みようがないだろ。俺達で稼ぐ方法を考えよう!」
二人は決して事態を楽観視しているわけではない。
不可能になど見向きもしない、可能にする術だけを見据えている。
きっと英雄と呼ばれる人はこういう強い姿勢を維持できる人だ。
やはり僕はどこまでも平凡な人間なのだと痛感する。
それでも僕は彼らと共に居ると決めた。なら怖気づいている暇はない。
「…そうだよね。うん、僕らで稼ごう!」
僕一人なら途方に暮れていた。でも共に立ち向かってくれる仲間が居れば、情けない僕でも前を向ける。仲間とは本当に心強い。
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