光の先駆者達ー6
クラウディアから再戦の取り付けをしたと聞かされた俺達は、聖騎士団の屯所にある訓練所の一画を借り先日の反省点を踏まえながら対策を話し合っている。
聖騎士三人の連携の取れた動きに翻弄され、手も足も出なかった。
再戦の許しをもらえたとはいえ、今のままでは同じ結果になるだろう。
熟練の連携技術に対抗できる術を戴冠式のある三日後までに見つけられなくては俺達の勝ちはない。
状況を知ったリヒトも加え五人で知恵を絞り出すが、いい案は出てこなかった。
試しにルイフォーリアム学院で実践されている基礎の連携技を三人でしてみるが、やはりテンポが合わずズレが生じる。そんな容易にできるものなら苦労しない。
繰り返し行い形にはなったものの隙は多く、粗い。すぐに崩されるだろう。
現に練習相手をしてくれたリヒトは一人だというのに俺達の連携を全て見切って対処していた。
「だーっ!疲れた!!」
精密な連携ほど仲間の癖や呼吸を理解し、合わせる能力が必要となる。
タルジュにとって"合わせる"という行為が難しいようで体力よりも気力が削れ、大きな声を上げて倒れ込んだ。
単独行動が多い彼にしては投げ出さず、特訓に取り組んでいるだけでも評価に値する。苦労していたバルドラ学園の皆に見せてやりたいものだ。
「少し休憩にしよう」
俺の提案に皆頷くが誰も話し声を上げず、黙り込んでしまう。
このままでは三日という短期間で勝ち筋は見えてこない。全員がそれを理解しているのだろう。
「皆お揃いで」
「アレイスさん!?」
俺達の近くにやって来たアレイスさんは片手を上げて呑気な様子だ。
「どうされたんですか?」
怪訝そうにクラウディアが問う。
「今の三人なら俺一人でも勝てる。だからコツを教えに来たよ」
『え!?』
俺達は声を揃えて驚いてしまう。
自分一人でも三人相手で勝てるという自信も驚愕だったが、教えに来たというインパクトが強く驚きが勝る。
「連携のヒントを教えちゃおうかなーって思ったんだけど、いらない?」
「その…いいんですか?」
クラウディアは心配そうにアレイスさんに問う。
彼の立場を思いやっているのだろう。
「ああ。リーベ王女からも団長からも許可は得てる。というか二人に頼まれたというのが正確かな」
「俺達はアンタらにとって敵みたいなもんじゃねえのか?」
「君達は君達自身が思っているより味方に囲まれているよ」
アレイスさんほどの実力者が教えようと言ってくれる。断る理由はない。
俺達は顔を見合わせ確認をとると頭を下げた。
「さっきまで連携の稽古をしていたんだろ?一度見せてよ」
アレイスさんの要求通り、先ほどまで練習していた連携技を見せてみる。
すると、アレイスさんは愉快そうに笑った。
「ははっ。個々は実力があるのに合わせると途端に駄目になる、目も当てられないね」
爽やかな笑顔でキツイことを言う。事実であるので反論もないが。
それほど俺達の連携は精度が低いということだ。
「タルジュ君。君はまだまだ粗削りな動きだけどセンスは悪くない。考えるよりも先に感覚で身体が動いてしまう。だから仲間の動きを見たり、考えたりしながら動くと途端に鈍くなる」
「っ、何で分かるんだ!?」
「考えてから動くよりもそのほうが動きとしては速くなる。一人で戦うならそれでもいいかもしれない。けれど、狭い空間で仲間との距離感を保ちながら戦う上でそれは欠点になる」
指摘は的確、そして良さも合わせて告げてくれるアレイスさんの言葉をタルジュは真剣に聞いていた。アレイスさんの指摘は彼の思うところと重なったのだろう。
「クラウディア。君はまだタルジュ君の動きを理解しきれていないね」
「はい。防いだり、避けるということは可能でしょうが、合わせるとなると…難儀ですね」
「それは君がルイフォーリアムの教えに慣れ切ってしまっているせいだ。連携といえば仲間も自分の想像する動きをしてくれるであろうという甘えだ。聖騎士同士であれば同じ教えを受けているからそれで通じるが、他国の者と共闘しようと言うのに自分の常識だけで物事を考えては駄目だ。最も賢い君なら原因は理解できているが身体がついてこない。というところだとは思うけどね」
間違いであるならば反論できるクラウディアが黙って悔しそうな表情を浮かべている。この指摘もまた、外れていないのだろう。アレイスさんの観察眼には恐れ入る。
「そして佳祐君」
自分の名が呼ばれて思わず身体に力が入るのが分かる。
欠点を指摘されるなんてどのくらいぶりだろうか。
父親と晃司さんには散々言われ続けたが、それも昔の話だ。緊張してしまう。
「君は考えて動けるうえに予測立ても上手い。だから奔放なタルジュ君の動きにも洗練された教本みたいなクラウディアの動きにも合わせることが出来る。とても器用だ」
「…ありがとうございます」
想像していた内容と違うことを言われ、少し困惑してしまう。そのように評価されているとは思わなかった。
だが、これで終わりではないのがアレイスさんの目つきが鋭くなったことが物語っている。
「けど、君は合わせる事を重視するあまり、自身の良さを生かせていない。違うかい?」
「…それは」
「連携はたしかに合わせる事は重要だ。でも君には一人でも戦い抜ける実力がある。その実力を犠牲にしてまで二人に合わせる必要はあるかな?」
あまりの発言に言葉を失ってしまう。それはまるで俺達が連携することへの否定だ。
「ここまで言えば分かるよね。君達の最大の欠点は互いの良さを潰し合っていることだよ」
口にはせずとも多少なり感じていたことをアレイスさんは全て言葉にしてしまった。絶望の淵に立っていた所を押し出され、穴へ突き落された気分だ。
だが諦めるわけにはいかない。突き落とされたままでたまるか。
するとアレイスさんは一度手を叩き、空気を切り替えると得意げに言葉を続けた。
「なに、悲観することじゃない。重要なのは君達の良さも悪さも理解したうえで対策を考えることだ。君達の特徴や戦い方は昨日の試合と体育祭の試合映像で理解してきたつもりだ。一度俺の言う通りに動いてほしい」
アレイスさんが俺達に指示した内容は驚くほどシンプルだった。
半信半疑で指示通りに組み替えた流れで連携技を試す。
ところがたったそれだけで今までと違い、動きの流れがスムーズになり確かな動きやすさを実感する。
俺達三人は出来の差に驚き、思わず顔を見合わせた。
壁にもたれ掛って眺めていたアレイスさんも満足げに笑みを浮かべる。
「さあ、再戦までの時間は少ない。どんどん詰めていこうか!」
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