戦場を吹き抜ける風ー3
―――ドライは死を選んだか。
俺達は誰一人として望んで兵器としての肉体改造を受け入れてなどいない。
それでも人体兵器として過ごしていくうちに人としての在り方は薄れていく。
けれど決して機械ではない。
自分の未来は自分で選択しなくてはならない。
屈し続け命令を全うするのか、反抗して自身の意志を尊重するのか。
ドライの穏やかな死に顔が彼は満足のいく選択をしたと物語っていた。
それが正しかったかどうかなど分からない。
だがドライが自分自身で選んだ答えだ。否定はしない。
「よそ見をしている余裕があるのか!」
顔の真横をアインの放った火炎が通り抜ける。
彼もドライの状態を理解している筈だ。それなのに微動だにもしないか。
アインがドライと行動を共にする機会が一番多かったように思うが。
魔銃で応戦しつつも間合いを詰めていく。
魔導砲発射まで時間がない。こちらも早く決着をつけよう。
「お前の魔銃には俺が唱えた魔法の弾丸しかない。それも限られた回数だ。
術者本人相手に魔法勝負で勝てると思うなよ」
「当然だ」
魔銃による魔法攻撃はあくまで囮だ。
魔法戦でアインに利があるように近接戦ならば俺に利がある。
だからこそお前は俺を寄せ付けない。
俺は施設に囚われてからありとあらゆる戦闘訓練を強いられた。
様々な武器の扱いも覚えたし、数々のパターンの対戦もした。
ドライと数え切れない程に戦闘実験もさせられた。
一対一の対人戦闘において負けはしない。
アイン、01の記号を付けられたエルフのお前は魔力増幅装置を埋め込まれ、魔法の強化だけを繰り返していただろうが俺はひたすらに戦いを義務付けられた。
「ちょこまかと小賢しい!」
俺が走り回り狙いが定まらないことにアインの苛立ちは高まっていた。
彼の火の魔法は威力も強いが視界を遮る程に面積が大きい。
闇雲に放たれた火と俺が計算して撃った火で次第にアインの視界は火で埋め尽くされていく。
アインの死角から弾丸を撃ち込めば彼の背中に命中する。
そして隙を逃さず間合いを一気に詰める。
「どうだ、自分の魔法を食らう気分は」
挑発してやるとこちらに顔を向けた。そのタイミングで眼前に魔銃を突きつける。
「お前の負けだ、アイン」
屈辱で顔を歪ませるアインだが、戦闘の意志は削がれたようで舌打ちをすると顔を背けた。
「何故止めを刺さなかった」
「殺す必要がないからだ。魔導砲の阻止を見逃せ」
「反逆など愚かだ。死ぬぞ」
「俺が生きる必要はない。必要なのはカルツソッドの人間が生きられる未来だ」
「敗戦すれば搾取され従属させられるだけだ」
「そうかもしれない。けれど、ゴミのように扱われる今以上に悪化することはない」
「どうしてそう言い切れる?奴隷として扱き使われるかもしれないぞ」
「…あいつらを見ればそうはならないと思えた」
俺の言葉にアインは反論する気が失せたのか鼻で笑った。
「アイン、お前も自分の未来を選べ。あいつらの道具に成り下がって終わるのか、それとも別の道を探るのか」
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