破滅の光ー2
部屋の中には大勢のエルフ達が疲弊しきった様子で座り込んでいた。
ティオールの里だけじゃない、もっと多くのエルフが捕まっていたんだ。
その中に俺達に寝食を提供してくれていたアルトーナさんの姿を見つける。
風祭先輩は真っ先に友好的であった彼女に近づき、状況を確認し始めた。
「アルトーナさん!」
「あなた達!どうしてここに!?」
「細かい説明は後です。一刻も早くここを皆で脱出しましょう。転移魔法は使えますか?」
「…使えないわ。私達の魔力はもう空っぽなのよ」
「空っぽ?」
「ええ。魔導兵器とやらに全て注ぎ込んでしまったの。魔力が無ければ魔法は使えない。せめて周囲に魔力があれば違うのだけど、この場所は無機質で魔力の波動がまるで感じられない。自ら生み出す魔力の自然回復までには時間が大分掛かるわ」
そんな、ここまで来て打つ手がないのか。
「それにこれがある限り私達は彼らに逆らえないわ」
アルトーナさんは自身の首についた金属の首輪を指した。
他のエルフ達にも同様の首輪がつけられている。
「気が付いた時にはつけられていてね、ボタンひとつで私達の首は吹き飛ぶそうよ」
首輪に爆弾でも仕込んであるのか。
こうなると魔導兵器の阻止と首輪の解錠も必要になる。
「他の皆さんは」
ざっと見回したがティオールの住民が少ない。
「レナスさんや上位の魔力を持つエルフはまだ魔力を吸われ続けているみたい」
やはり魔導兵器は多くの魔力を駆使する物なのか。
大量の魔力を蓄えて利用出来るほどの技術が世界最先端の技術開発国であるアルセアではなく、鎖国状態で旧式の工業で自然破壊を招いたカルツソッドにあるとは正直驚きだ。
「魔導兵器とはどういったものでしたか」
「とても大きな大砲よ…恐ろしい、あんな物を使えば一瞬で全て焼き払われてしまう…急いで、彼らはアルセアを今晩にも壊滅させる気よ!」
「今晩!?」
「ええ、そう言っていたわ。止めるなら早くしないと」
今までの行動から考えるに、時刻は夜11時を超えているはずだ。
今晩となれば、もういつ発射されても不思議ではない状態だ。
「魔導兵器はどこにあるんですか!?」
「上よ」
エルフ達を救う手立てを思いつかないのが歯痒いが、とにかく今は魔導兵器の発動を食い止めるのが先だ。
急いで魔導兵器の元へ向かうべく俺達は部屋を飛び出そうとするが、場に似つかわしくない素朴な少女が一人やって来た。
「何をしているの?」
「逃げなさい、早く!!」
フードのマントに身を包んだ小柄な少女が部屋に入るなり俺達を無表情に見据えた。
そんな子供に何を恐れているのか分からないが、アルトーナさんは声を荒げた。
「駄目、逃がさない」
少女は抑揚のない声で告げると円盤の形をした刃物を複数取り出し自分の傍を浮かせた。
魔法の一種なのだろうか、仕組みは分からないが宙を浮く刃は音を立てて高速で回り続けている。
一つしかない出入口は少女に塞がれており、相手は攻撃態勢だ。
「抵抗しないなら痛いことはしない。エルフから離れて」
「断るって言ったら?」
返事の代わりに円盤がひとつ俺の真横を駆け抜け背後の壁に突き刺さった。
円盤は少女の意思で動かされているのだろうか、間違いなく敵意を感じた。
「侵入者を排除する」
言葉と共に宙を浮いていた円盤は次々に俺達目がけ飛んでくる。
各々円盤を避けて行くが今度の円盤は壁に刺さることなく、俺達を追随してくるではないか。まるで獲物を狩る生き物だ。
三人も居れば避けきれないこともない、反撃の隙を窺う。
しかし追い打ちをかけるように少女は新たな円盤を宙に浮かべた。
現在攻撃を仕掛けている円盤は9個。新たに増える数も9個だ。
すかさず武器を取り出して円盤を叩き落とそうと試みるが、弾くことは出来ても円盤は息を吹き返すように再び宙へ戻る。
少女自身を止めない限り円盤も攻撃を続けるのだろう。
学園で数々の猛者相手に銃撃戦や複数人相手の組手で目や身体が慣れているとはいえ至近距離での複数の高速攻撃を避け続けるのにも限界がある。
追撃にも風祭先輩は避けきれているが、鴻の身体には生傷が増え始めた。
円盤の追加がまだ続くのであれば俺達も身が持たない。
きっとあの子は俺やレツが受けてきた実験成果の一つの結果だ。
運が良かったのか悪かったのか。彼女は苦痛な訓練や実験にも耐え、適応してしまったのだ。
こんな幼い子にまで力を植え付け戦わせ、自分達は一切手を汚さない。
年齢も種族もあいつらには関係ない。道具でしかないのだ。
「止めるんだ!君はあいつらに利用されているだけだ!」
できることなら戦いたくはない。少女も欲に塗れた大人の被害者に過ぎない。
「邪魔者は消す。私は命令を実行する」
「命令に従う義理なんてないだろ!?君は望んで戦いたいとでも言うのか」
「……うるさい!」
機械的に喋っていた少女の言葉が感情を露わにした。やはり本心は違う。
すると飛んでいた円盤の軌道が乱れ始めた。
どうやら円盤の操作は自動ではなく、少女の意思と連動しているみたいだ。
その隙を逃がさず俺は一気に少女との距離を縮め、ビクッと震えた少女の両手首を掴み上げる。
少女自体の身体能力は高くなさそうだ。
「放して!」
「君は戦うことの意味を理解できていない」
「関係ない!私は貴方達を殺すんだ!」
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