荒廃した国ー4
イズミは昔自分が使っていた道とは別の抜け道まで案内してくれた。
こちらの抜け道は海水が入り込んでいて、時間によって水位が変わり通行ができなくなるそうだ。
海水がなくても足場の悪い険しい道のりが続く為、危険だと思い一度使った以降は立ち入っていないそうだ。
恐らくイズミが頻繁に使っていた抜け道は塞がれているだろう。
こちらも塞がれていないことを祈るのみだ。
子供達と再会の約束をして別れると俺達は一本道を迷わずに奥を進んでいた。
「で、富裕層地区のどこに向かうんですか?」
「どこにしようか。飛山のほうが俺より建物の構造詳しいだろ」
相変わらずアバウトな先輩だ。
何も考えていないようでしっかり考えていたりもするので、この人はよく分からない。
「そうは言いますけど…俺だって富裕層地区は研究施設での軟禁生活でしたからあまり自信ありませんよ」
「けどイズミちゃんの話からするとそんなに広い場所でもないんだろ?」
俺達が富裕層地区に向かうにあたり、イズミは自分が知る限りの情報を話してくれた。それでも彼女の情報も8年前で止まっている。
2年前にはアルセアとの防衛戦もあった。
内情がどう変わっているかは誰も分からない。
「ドーム内に大きな建物が3つあるくらいです。居住区となっているビルと兵器や武器が格納されている倉庫、その上部に戦闘部隊の宿舎。あとは研究施設です。カルツソッドに実戦で戦える兵士は2年前の防衛戦もあったのでそう多くいないでしょう。少人数での肉弾戦ならこちらに分がありますけど、厄介なのは開発された武器や兵器が多くあります。なるべく戦闘は避けたいですかね」
「ふむ。となると格納庫辺りは近づきたくはないな。けど一度脱出して、移動手段をしっかり確保したい。他に乗り物か脱出可能な手段とかないのか?ほらW3Aとかさ」
「カルツソッドにはありませんよ。大体あれば防衛戦であそこまで大敗しません」
「だよなー」
「あるとすれば地下が海に繋がっているのでそこから船で出るかですけど、船操縦できますか?」
「できないな」
風祭先輩はあっけらかんと答えたが、鴻は無言だ。
お坊ちゃまのこいつに操縦できるとも思えない。
そもそも誰一人飛行機も船も操縦できないんだ。そんな俺達で脱出するほうが不可能なのではないか。
「やっぱりエルフの人達に協力してもらうのが無難だな。転移魔法さえ使ってもらえれば少なくてもカルツソッドは出られるだろ」
「そうですね。それが一番確実に脱出できそうです。けど、無事に接触し協力してもらえるかどうか…」
エルフ達が捕らわれているとするなら研究施設だ。
あいつらのことだ、エルフの魔力を悪用する気なのだろう。
レツが使っていたあの奇妙な銃も気になる。
銃から放たれた弾はまるで魔法みたいに俺達を移動させた。
そんな武器が他にもあったらと思うと恐ろしい。
「悪い方向に考えるのはナシナシ。やるしかないんだよ、俺達は」
「分かりました。恐らくエルフ達は研究施設に捕らわれていると思います。まずはそこに向かいましょう」
海水は深い所でも膝下までしか至らずに奥地へ進め、足場の悪い道や肩程の高さがある岩の段差を何度も乗り越え、ようやく遠くに光が差し込む場所が見えた。
あそこが出口の筈だ。
「カルツソッドはエルフを大勢捕らえてどうするつもりなんだ?」
珍しく文句ひとつ言わず黙々と進んでいた鴻が口を開いたかと思えばそんな疑問だった。
「エルフの魔法を使って破壊兵器の研究でもしてるんだろ」
愚かなあいつらの考えそうなことだ。研究意図など知りたくもない。
「あのフード男が使っていた銃も恐らく魔法の類だ。そうなると既にカルツソッドにはエルフが居ると考えていい。それなのにティオールの里の住民を殆ど連れ去った。研究だけにそこまで大勢必要なのか?しかもあんな大火災を他国で起こせば必ず気づかれる。アルセアが黙っているとは思えない」
「だったらなんだよ。もともと戦争をふっかけるような国なんだぞ、今更何をしても不思議じゃない」
鴻の回りくどい物言いに次第に苛立ちが募る。
カルツソッドのお偉いが考えることなど改めて整理する必要ないだろ。
「…鴻、お前頭いいな」
「当然です。僕はアルフィード学園1年国営科3位の成績…ではなくて風祭先輩、僕は今真面目な話を…」
「カルツソッドはまたアルセアに戦争を仕掛ける気なんだ」
風祭先輩の結論に俺達は一瞬言葉を失った。
貧困層地区の子供達を助け出すことに集中していてそんな可能性をまるで考えてはいなかった。
もし本当にそうなら脱出と救出だけを考えている場合ではない。
「無謀です!大体二年前に彼らはアルセアに大敗してるんですよ!?それなのに戦力が整わないうちに戦いを仕掛けるなど愚かな判断です!」
「だから整ったんだよ。大勢のエルフという魔力を得て」
「エルフ達に戦わせるって言うんですか!?」
「いや、エルフの魔法は強力だけど近接には向かない。それに戦いを好まないエルフ達が大人しくカルツソッドに従うとも思えない。束になってかかれば反抗できるだろ…二人はティオールの族長の話覚えてるか?」
族長の話とは族長の屋敷を襲ったディリータや独立派についての話だろう。
里の会議でディリータのした発言、『海を隔てた隣国、カルツソッドではエルフを使った魔導兵器が作られている。奴隷として捕まったエルフの末路はこれだ。それもその兵器を使ってアルセアに戦争を仕掛ける気だ。我々も国の兵器として使われる日が近い。独立をするなら今しかないのだ』
この話が事実だとするならば、カルツソッドにはエルフを利用した魔導兵器が存在し、近い将来確実にアルセアは襲われ、やがて戦争へと発展する。
「…魔導兵器…!」
「それだよ。大勢のエルフを使って魔導兵器とやらでアルセアを攻撃するつもりなんだろ」
「非道な…!」
ふざけやがって。どれだけの命を犠牲にすれば気が済むんだよ!
俺は拳を力任せに壁へぶつけた。抑えきれない怒りに気が狂いそうだった。
「そうなると俺達は一刻も早くエルフ達を救出し戦争を防ぐのが最優先だな。魔導兵器の実体は分からないが、エルフ達さえいなければ起動できない物だと信じるしかない」
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