それぞれの戦い方-1

  旗取り合戦代表決定戦。1年生の部は決勝を残して全試合終了となった。

 ここでインターバルがある。

 先に2年生の部を準決勝まで行い、1年生の決勝、2年生の決勝と行う形だ。

  シンプルな舞台のせいかテンポよく試合は進行され、ようやく控室でまともに一息つけた。

 勝ち進むほどに相手は強くなったし、連携の上手さに私にはない技術だと勉強にもなった。

 少し苦戦したチームもあったけれど、私が相手をしている間に鈴音ちゃんや麻子さんが旗を取って勝利を収めた。

 試合時間はどれも短く終わったが容易ではなかった。

 決勝戦まで勝ち進めたけど、次の相手は簡単にはいかないだろう。


「予想通りと言えば予想通りですわね」

  決勝戦の相手は飛山君達のチームだ。

 全試合、飛山君が突撃して鷹取君が銃で援護、古屋君は自陣の旗から離れず守り、そして飛山君が全て相手チームの旗を手にし勝利を収めている。

 恐ろしいことに残りの二人は自陣の旗からほぼ動かずに勝利を勝ち取って来たのだ。

「厄介なのは鷹取だね。あいつの銃の腕なら間違いなくライフサークルを狙撃できる」

「常に狙撃を警戒しながら戦うのは少々面倒ですね」

「飛山君も警戒したほうがいいと思うんだけど…」

「そんなの千沙が相手にするから問題ないでしょ。で、今度はちゃんと勝ってこい」

 理央ちゃんが随分と信頼してくれるのは嬉しいけど、私に丸投げというのはどうだろうか。

「今回は守りに徹しますが、もちろん援護できそうでしたらしますので」

 麻子さんのフォローに喜んだのも束の間、「わたくしの助けは必要ないかと思いますが」と笑顔で付け加えられプレッシャーを掛けられる。

「となると鷹取の相手は鈴音だけどいけそう?」

「善処します。少なくても千沙さんと飛山さんの一騎打ちの妨害はさせません」

  もう全員が私と飛山君が戦うと決めきっている。

 もし飛山君が私以外のどちらかを狙いにきたらどうするのだ。

 仮にそうなっても私が相手しに割り込めってことなのだろうけど。

  すると鈴音ちゃんは片手銃を取り出して調整をしていた。

「鈴音ちゃんって銃も使えるの!?」

  彼女は体術を得意としており、武器は苦無や小刀を多用している。

 今まで銃を使う姿など一度も目にしたことがない。

「ええ、少しですが。武器の扱いは一通り教え込まれているので。本来なら飛道具のナイフや手裏剣が好ましいのですが旗取り合戦では規則上、数を多くは持ち込めないので。遠距離攻撃だと銃が一番手数が多くなるのでそうしようかと…」

  旗取り合戦は規則上、試合に持ち込める武器は一種類のみ。

 飛道具の類の持ち込みは10個までと定められている。

 銃に種類の指定はないが弾丸が実弾の使用は禁止。

 授業でよく使われる人間の身体を貫通しない特殊な光の銃弾のみ許可されており使用制限は20発となっている。

  かっこいいな、すごいな。

 私は武器を長剣しか使ったことがないので、細剣や短剣は辛うじて使えてもその他の武器は触ったことすらない。

 尊敬の眼差しで鈴音ちゃんを見るが鈴音ちゃんは恥ずかしいのか俯いてしまった。


『只今2年生の部、準決勝が開始されました。1年生の部決勝進出者は試合会場での待機をお願いします』

  移動を促すアナウンスが流れて気を引き締める。

 いよいよ決勝、あと一勝すれば私達が旗取り合戦の代表だ。

「理央ちゃん、どうしたの?」

 移動途中で理央ちゃんが少し険しい顔つきをしていたのが気になり声を掛ける。

「ちょっと古屋が引っかかってるかな。ここまで目立った動きを一切してないから」 

「旗の守り担当だからじゃないの?飛山君達一度も旗を取られそうになっていないし」

「たしかに古屋が動く必要性がどの試合もなかったといえばなかったんだけど。加勢すればもっと手早く試合を終えられたはず。あえて動かしてなかったように見えるんだよね。まあ、三人が差しで負ける相手でもないけどさ。一応気を付けておいて」

 そう私達に言い残すと理央ちゃんはオペレータールームへ向かった。


  決勝は今までの市街地を模した舞台とは違う会場で行われる。

 係員の指示に従って通された場所は周囲を木々に囲まれていた。

 そこにぽつんと配置された旗。この赤い旗が今回の私達の自陣なのだろう。

 見渡す限り奥も木々が続き、相手の旗はもちろん、周りの地形すら判断できない。

 ルール上、試合開始まで自陣から動いてはいけないのでこれ以上の探索はできない。

 扉を出て木々を数本抜けた先にはすぐに自陣だったのでここまでの地形に関する情報はこれで全てになってしまう。

 あとは理央ちゃんのナビに頼るしかない。

「これは身を隠すのに適したステージですわね、奇襲が掛けやすいですわ」

「救いなのは鷹取さんの移動速度はそこまで速くないことですかね。木々が多くて間合いは詰めにくいですが、草木の音で近くに来れば居場所はすぐに掴めそうですし、無音での移動は困難です」


『——聞こえる?』

「聞こえるよ」

 通信機能で理央ちゃんが私達に話しかけてきた。

 試合開始前の5分間、オペレーターとの作戦時間が設けられている。

『見ても分かると思うけど森だね。木以外には大きな障害物はないと思う』  

「となるとまずは相手の陣営がどこにあるかを探るのが先ですわね」

 オペレーターには相手チームの陣営場所や相手メンバーの位置情報は表示されない。

 味方メンバー個々の直径3㎞圏内の視覚情報が与えられ、移動するたびにマップが表示される仕組みだ。

 試合を行っていく間に得た情報で陣営場所や相手の位置をマップ上のどこか特定したりマーキングしたりする。

 現時点では自陣の場所や私達個人の立ち位置、あとは舞台全体の広さなんかがオペレーターが見る画面に表示されているはずだ。 

 それらを私達に言葉のみで伝えてくれるので、その情報をもとに自分達で判断するしかない。

『この舞台自体はそんなに広くない。全速力で駆け抜ければ10分弱で反対の壁際まで行ける』

「ひとまずは今までと同じ段取りでいいでしょう。千沙さんと鈴音が旗を狙いに行く。今回は相手の陣営を探し出し可能であればそのまま旗を取る。分が悪そうであれば一旦引いて立て直して全員でまとまって行動。何が起きても状況に応じて柔軟に対応していきましょう。大丈夫、これはチーム戦、一人ではありません」

 すると麻子さんが片手を前に出してきて私達に手を重ねて置くように促してきた。

「一度やってみたかったんですよね、これ。とてもチームっぽいです」

 私達二人は顔を見合わせて何事だろうと思ったが言われた通り各々片手を重ねていくと麻子さんが一番上に空いていたもう片方の手を置いた。

 これから試合だと言うのに麻子さんはとても楽しそうににこにこしていた。

 そこで私は初めて麻子さんのやろうとしていることを理解した。

 円陣を組んでいるんだ。たしかにチームっぽい!

 見たことはあるけどやるのは初めてだ。

「必ず勝ちましょう!ファイトー」

『オー!!』

 声や動作を合わせると不思議と一体感や頼もしさすら感じる。

 皆が居る。大丈夫だ。

   

『さあ、皆待たせたな!いよいよ旗取り合戦1年生の部決勝戦を行うぞ!これで今年の1年生代表が決まる!』

 麻子さんの掛け声のもと、円陣を組み終えると実況も選手紹介を終えたようで遮断されていた声が聞こえてきた。

  試合の開始合図だけは実況の声が聞こえる。

 次に実況の声が聞こえた時は試合終了を意味する。

 私達はパレットから武器を取り出し、準備態勢に入る。

『両チーム準備が整ったな!?それじゃあいくぞー!3、2、1Ready…Fight!』


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