第二十六話 予想外の再会

 ルチアとヴィオレットは、モルガナイトエリアに入った。

 モルガナイトエリアは、賑やかだ。

 いつもと変わりがない。

 だが、人が多すぎて、彼女達を探すのは、至難の業のように思えてならなかった。


「このエリアにいるのかな?」


「だろうな。ここからは、聞き込みをするしかない」


「うん」


 ルチアは、ヴィオレットに問いかける。

 実は、他のエリアに移動したのではないかと、思っているようだ。

 だが、行方不明と聞かされた帝国は、警戒しているはずだ。

 故に、ここで、聞き込みをするしかなかった。

 ルチアとヴィオレットは、歩き始める。 

 その時であった。


「あれ?君達は……」


 クロスの声がして、ルチアとヴィオレットは、立ち止まる。

 驚いているのだ。

 確かに、カレンは、騎士がここに来るかもしれないとは言っていた。

 だが、あの双子が来るとは、言っていなかったため、他の騎士が来るのではないかと、推測していたのだ。

 まさか、あの双子の騎士が来ていたとは、ヴィオレットも、驚きを隠せなかった。

 ルチアとヴィオレットは、ゆっくりと、振り向く。

 すると、彼女達の背後に、クロス、クロウが、立っていた。


「あ!!」


 ルチアは、驚きつつも、二人の元へと駆け寄る。

 ヴィオレットも、笑みを浮かべながら、歩み寄った。


「クロス、クロウ」


「また、会ったな」


「そうだな」


 ルチアは、嬉しそうに彼らの名を呼ぶ。

 ルチアの表情を目にしたクロスは、嬉しそうだ。

 もちろん、ヴィオレットも。

 こうして、ルチア達は、双子の騎士と、再会を果たした。


「元気にしてた?」


「あ、うん」


 クロスは、ルチアに問いかける。

 もちろん、何気ない会話だ。

 だが、ルチアは、戸惑いながらも、返事をした。

 平静を装って。


「どうした?」


「何でもないよ」


 クロウは、ルチアの様子に気付いたのか、ルチアに問いかける。

 だが、ルチアは、笑みを浮かべて、答えた。

 神魂の儀の事は、隠し通すつもりだ。

 何が何でも。

 だが、ルチアが、何かを隠している事を見抜いていたヴィオレットは、複雑な感情を抱いていた。


「二人も、ヴァルキュリア候補を探してるのか?」


「うん。話は聞かせてもらった」


「だから、ここに来た」


 ヴィオレットは、二人に問いかける。

 ここにいるという事は、ヴァルキュリア候補を探しているのではないかと、推測したからだ。

 ヴィオレットの問いに、クロスは、うなずいた。

 事情は、聴いているらしい。

 ゆえに、二人は、協力してくれるのだろう。

 と言っても、本当に、それだけなのだろうか。

 ヴィオレットは、島で、捜索をすると思っていたから、違和感を感じていた。


「それに、気になる事もあるしな」


「気になる事?」


「ああ」


 クロウは、静かに語る。

 ここに来た理由は、ヴァルキュリア候補を探すだけではないらしい。

 気になる事があるというのだ。

 ルチアは、問いかけるが、クロウは、うなずくだけだ。

 答えるつもりはないのだろう。

 ルチアは、悟ったのか、それ以上は、問いかけなかった。

 自分も、隠している事があるから。


「しばらくの間は、帝国に滞在することになるから、よろしく」


「うん」


 クロス曰く、ここに滞在するらしい。 

 つまり、ヴァルキュリア候補を見つけ出しても、滞在するという事なのだろうか。

 なぜ、なのかは、語ろうとしない。

 ルチアとヴィオレットは、問いかけず、うなずいた。


「行くぞ」


「うん」


 クロウは、ルチア達を連れて、歩き始める。 

 聞き込みをする為であろう。

 ルチアは、うなずき、クロウについていった。

 もちろん、ヴィオレットとクロスも。



 一時間ほど、聞き込みをしていたが、有力な情報は得られていない。

 やはり、彼女達を探しだすのは、至難の業のようであった。


「やっぱり、見つけ出せないね」


「もしかしたら、ここには、いないかもしれないな」


 ルチアは、若干、途方に暮れているようだ。

 当然であろう。 

 有力な情報が一つも得られていないとなると、探しだすのは、不可能のようにも思えてくるのだ。

 ヴィオレットは、モルガナイトエリアを抜けたのではないかと、推測し始めた。

 最初は、移動しているとは思えないと思っていたのだが。


「いや、それはないな」


「なぜだ?」


 クロウは、ヴィオレットの推測を否定する。

 何か、根拠でもあるようだ。

 ヴィオレットは、クロウに問いかけた。

 情報を得ているのではないかと、推測して。


「ここにレジスタンスがいるんだ」


「レジスタンス?」


「そうだ」


 クロウ曰く、レジスタンスがいるからだという。

 だが、「レジスタンス」とは、何だろうか。

 ルチアとヴィオレットは、初めて、聞いた名だ。

 見当もつかないため、ルチアが、首をかしげて、問いかける。

 クロウは、静かに、うなずいた。


「帝国に不満を持ってるやつらがいる。もし、逃げ出したって言うんなら、彼らの所に行くはずだ」


「詳しいんだな」


 クロスが、詳しく説明する。

 「レジスタンス」とは、帝国に不満を持った帝国の民が、立ち上げた組織の事だ。

 現に、ヴァルキュリア候補が、逃げ出している。

 見張りの帝国兵に、殺されるから、見逃してほしいと懇願していたほどなのだから。

 もちろん、クロスとクロウは、その事に関しては知らないが、ヴァルキュリア候補は、逃げ出したのではないかと、推測している。

 それゆえに、レジスタンスと合流し、行動を共にしているのではないかと、考え、このモルガナイトエリアを訪れたようだ。

 そこまで、詳しい理由は、何なのだろうか。

 ヴィオレットは、クロス達に問いかけた。


「ある人から、聞かされたからな」


「ある人?」


「……今は、聞かなくていい」


 クロウ曰く、「ある人」に情報をもらったらしい。

 だが、「ある人」とは、誰なのだろうか。

 ルチアは、問いかけるが、クロウは、答えようとしなかった。

 それも、冷たく突き放すように。

 答えない理由は、不明だ。

 何か、隠しているからだろうか。

 答えたくないのではないかと、推測したルチアとヴィオレットは、それ以上、問いかけなかった。


「レジスタンスのアジト、知ってるから、そこに行ってみよう」


「そうだな。レジスタンスの事も、知りたいしな」


 クロスは、レジスタンスのアジトを知っているらしい。

 クロウも、同じことを考えていたようで、レジスタンスのアジトに向かう事を決意した。

 しかし、なぜ、レジスタンスのアジトを知っているのだろうか。

 それも、「ある人」から聞いたのだろうか。

 聞きたいところではあったが、おそらく、問いかけても、答えないであろう。

 そう推測したルチアは、問いかける事はなかった。

 ルチア達は、クロス達についていった。

 

「ねぇ、ヴィオレット。ルチア、大丈夫?」


「え?」


 クロスは、ヴィオレットに問いかける。

 ルチアの事を心配していたようだ。

 ヴィオレットは、驚き、振り向いた。

 なぜ、そのような事を聞くのだろうかと。


「なんか、いつもと、違う気がして」


「……わかるんだな」


「なんとなく、な」


 クロスは、気付いていたようだ。

 ルチアは、以前とは違うのではないかと。

 すぐさま、見抜いていたようだ。

 と言っても、クロス曰く、なんとなくらしいが。

 ヴィオレットに問いかけたのは、ヴィオレットが、何か知っているのではないかと、推測したからであろう。


「……私も、聞いたが、答えないんだ」


「そっか、心配だね」


「ああ……」


 ヴィオレットは、正直に答えた。

 ルチアに問いかけたが、「大丈夫」「なんでもない」と答えるばかりだ。

 ゆえに、ヴィオレットでさえも、わからなかった。

 クロスは、ルチアを心配しているらしい。

 もちろん、ヴィオレットもだ。

 だが、なぜ、複雑な感情を抱いていた。

 ヴィオレットは、それが、なんという感情なのか、わかっていなかったが。


「大丈夫か?ルチア」


「え?」


 クロウは、ルチアに、問いかける。

 それも、不器用に。

 ルチアは、思わず、体を跳ね上がらせてしまった。


「具合、悪いのか?」


「ううん、そんなことないよ?」


「そうか……」


 クロウは、続けて、問いかける。

 どうやら、クロウも、見抜いているようだ。

 ルチアが、以前と違うと。

 だが、ルチアは、動揺しながらも、答えた。

 いつもと同じだと言いたいのだろう。

 クロウは、それ以上、問いかけなかったが、複雑な感情を抱いていた。

 ルチアを心配しているが、本人が、答えないため、どうするべきなのか、迷って。



 ルチア達は、クロス達に連れられて、入り組んだ裏路地を抜けて、レジスタンスのアジトに着いた。

 そのアジトは、酒場だった。

 それも、こじんまりとした。


「ここが、レジスタンスのアジトだ」


「ここに、いるかもしれないんだな」


「うん」


 クロスが、ルチア達に教える。

 あの酒場こそが、レジスタンスのアジトなのだと。

 ヴィオレットは、クロスに問いかけた。

 行方不明になったヴァルキュリア候補が、このアジトにいるのではないかと、クロス達は、推測しているのではないかと。

 クロスは、静かにうなずいた。


「どうする?」


「まずは、様子を見る」


「そうだな」


 ルチアは、問いかける。

 これから、どうするつもりなのかと。

 クロウが、答えた。

 様子を見ると。

 このまま、突入した所で、ヴァルキュリア候補達が、逃げ出してしまう可能性が高いからであろう。

 もちろん、いない可能性もあるが。

 酒場から出てきたレジスタンスが、ぼろを出すかもしれない。

 ゆえに、クロウは、ここで、待機する事を決めた。

 クロスも、同じことを思っていたようで、うなずいた。

 だが、その時であった。

 ローブを深くかぶった者が、三人出てきたのは。


「いたっ!?」


 ルチアは、思わず、目を見開いた。

 なんと、ローブを深くかぶった三人組が、ヴァルキュリア候補だというのだ。

 一見、男か、女かも、わからないというのに。

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