第二十五話 聞き込み
ルチアとヴィオレットは、行方不明になったヴァルキュリア候補を探すために、王宮を出た。
と言っても、情報があまりにも、少ない。
彼女達が、ヴァルキュリアが住む宮殿から出た時刻は、深夜の一時から三時の間だけだというのだ。
どうやって、抜け出したのかも、詳しくは聞かされていなかった。
「でも、どうやって、探せばいいんだろう」
「まずは、見張りをしていた帝国兵に話を聞こう」
「うん」
ルチアは、首をかしげる。
情報が少ない。
ゆえに、どうやって、探せばいいのかも、わからないのだろう。
ヴィオレットは、冷静に、答えた。
各エリアの橋を見張っていた帝国兵に話を聞くしかないのだ。
もちろん、帝国兵が、すでに、事情聴取をしているはずだが、念のため、聞くしかないのだろう。
ルチアとヴィオレットは、見張りをしていた帝国兵へ話を聞きに、詰所へ向かった。
詰所で、サファイアエリアと王宮エリアをつなぐ橋の見張りをしていた帝国兵と出会ったルチア達。
彼に、話を聞くことにした。
「その話だけど、他の奴らにも、お話しましたよ。彼女達は、見かけていないと」
「なら、人影は?」
帝国兵は、だるそうに答える。
一応、敬語で。
相当、疲れているのだろう。
当然かもしれない。
何度も、事情聴取を受けているのだから。
ヴィオレットは、それでも、問いかける。
人影を見なかったかと。
「……見てないな」
「そうか」
帝国兵は首を横に振った。
どうやら、人影すらも、見ていないようだ。
ヴィオレットは、納得したのか、うなずいた。
その後、他のエリアの見張りをしていた帝国兵にも尋ねるが、答えは、皆、同じであり、ルチアとヴィオレットは、一度、詰所から、出た。
「やっぱり、みてないみたいだね」
「そうだな」
ルチアは、ため息をつく。
やはり、誰も、みたものがいないようだ。
情報が少ないのも、彼女達を見かけたものが、いないからであろう。
ヴィオレットも、静かに、うなずいた。
「だが、ここにいるはずだ」
「やっぱり、そう思うよね?」
「ああ」
ヴィオレットは、確信を得ているようだ。
行方不明になったヴァルキュリア候補は、帝国にいると。
ルチアも、うなずいた。
同じことを考えていたようだ。
ヴァルキュリア候補は、帝国から、島に出る事は、できない。
任務以外は。
島を出る事もできるはずがない。
腕輪がヴァルキュリア候補を捕らえ、殺すと言われているほどだ。
腕輪を外しても、同様の事が起きる。
ゆえに、彼女達は帝国を抜け出す事はできなかった。
「他のエリアにも、行ったかもしれない」
「うん」
ヴィオレットは、王宮エリア以外のエリアに行った可能性があると考えているようだ。
ルチアも、うなずく。
二人は、もう一度、詰所へ入った。
今度は、他のエリアの橋を見張っていた帝国兵に話を聞くために。
ルチアとヴィオレットは、ルビーエリアとモルガナイトエリアをつなぐ橋を見張っていた帝国兵に話を聞いた。
「昨日は、誰も、通ってないぞ」
「そうですか」
帝国兵は、堂々と答えた。
どうやら、人影を見たわけではなさそうだ。
ルチアは、少々、落ち込んでいた。
中々、捜索が進まないため。
「もういいか?事情聴取で疲れたんだよ」
「あ、すみません……」
帝国兵は、疲れているのか、立ち上がる。
やはり、彼も、度重なる事情聴取で疲れているようだ。
ルチアは、頭をさげ、謝罪した。
申し訳ないと思っているのだろう。
帝国兵は、ルチア達の元から、去ろうとしていた。
だが、その時であった。
「待て」
「何?」
ヴィオレットは、立ち上がり、帝国兵を呼び止める。
どうしたのだろうか。
帝国兵は、苛立ちながら、振り向いた。
「何か、隠していないか?」
「え?」
「わずかに、動揺が見られたぞ」
「ち、違うって。俺は、何も……」
ヴィオレットは、帝国兵に問い詰める。
確信を得ているようだ。
彼は、何か、隠していると。
見抜いていたのだ。
わずかであるが、動揺した彼を。
彼は、動揺しながらも、否定した。
何も、隠していないと。
だが、ヴィオレットは、帝国兵に、迫り、彼の首に、短剣を突きつけた。
「っ!!」
「ヴィオレット!!」
帝国兵は、体を硬直させる。
殺気を感じたのだ。
ヴィオレットの瞳から。
ルチアは、血相を変えて、立ち上がり、ヴィオレットの元へと迫るが、ヴィオレットは、短剣を遠ざけようとしなかった。
「言え」
「……」
ヴィオレットは、問い詰める。
だが、帝国兵は、答えようとしない。
ヴィオレットは、さらに、短剣を近づけた。
もう少しで、刃が首に当たる。
殺されてしまうのではないだろうか。
ルチアも、帝国兵も、息を飲んだ。
「も、モルガナイトエリアにいる……逃がしたんだ。俺が……」
「どうして?」
ついに、帝国兵は、怯えながら、答えた。
彼女達を逃がしたのか、彼だったようだ。
モルガナイトエリアにいた帝国兵をうまく騙し、彼女達を逃がしたのだろう。
だが、なぜ、そのような事をしたのだろうか。
ルチアは、帝国兵に問いかけた。
「殺されるって、怯えながら、言ってたんだぞ?かわいそうで……」
「……」
帝国兵は、怯えながら、答えた。
昨夜、帝国兵は、いつものように、見張りをしていた。
だが、ローブを深くかぶった彼女達を目にして、違和感を覚えたようだ。
他のエリアを見張っていた帝国兵は、見抜けなかったようだが。
ゆえに、彼女達に問いかけたが、彼女達は、自分達の正体を明かし、助けを求めた。
彼女達が、怯えているのを目にした帝国兵は、逃がしてしまったのだ。
彼女達に同情して。
理由を聞いたヴィオレットは、まだ、短剣を遠ざけようとしなかった。
「い、言わないでくれ。頼むから!」
「……情報は、提供してもらった。だから、言わない」
帝国兵は、怯えながら、懇願する。
もし、逃がしたことがばれれば、処刑されると思っているのだろう。
それを恐れているのだ。
ヴィオレットは、ため息をつきながら、短剣を遠ざけた。
情報を提供してくれたため、殺す事も、報告する事もしないようだ。
彼に、同情したのだろう。
「行くぞ、ルチア」
「うん!!」
ヴィオレットは、ルチアを連れて、詰所を出た。
情報は手に入った。
あとは、モルガナイトエリアに向かい、捜索するだけであった。
「ねぇ、ヴィオレット。どうして、わかったの?あの人が、嘘ついてるって」
ルチアは、ヴィオレットに問いかける。
なぜ、彼が、隠しているとわかったのだろうか。
「かまかけただけだ」
「かまを?」
「ああ」
ヴィオレット曰く、かまかけたというのだ。
つまり、ヴィオレットは、確信を得ていたわけではない。
ある程度、推測して、問いただしたというのだろう。
「あの三人は、普段は、サファイアエリア、エメラルドエリア、トパーズエリアにいるはずだ」
「うん」
確かに、ヴィオレットの言う通りだ。
ヴァルキュリア候補は、普段は、各エリアに配属されている。
だからこそ、各エリアの橋を見張っていた帝国兵に聞き込みしたのだ。
だが、誰も、見かけていないと答えていた。
「その三人が、一気にいなくなるという事は、三人で、行動している可能性が高い」
ヴィオレットは、ヴァルキュリア候補達が、別々に行動しているとは思っていないらしい。
共に行動していると推測しているようだ。
同時に、いなくなったというのに、別々で行動しているとは、思えないのだろう。
「あいつらは、どこかで、集まって、行動しているはずだ。おそらく、ルビーエリアに集まったはずだ。王宮エリアは、目立ってしまう」
「確かに」
ヴィオレットは、さらに、説明する。
三人は、一度、どこかで、集まった可能性が高い。
集合場所は、ルビーエリアではないかと、推測しているようだ。
王宮エリアは、警備が、他のエリアよりも、厳重だ。
ゆえに、王宮エリアでは、目立ってしまう。
他のエリアは、遠く、橋を何度も渡らなければならないため、集合しにくい。
となれば、ルビーエリアに集合した可能性が高い。
ヴィオレットの話を聞いていたルチアは、納得した。
「もちろん、橋を通らなければならない。あいつらは、グルだったんだろうな」
と言っても、橋を通らなければ、ルビーエリアに行くには、必ず、橋を通らなければならない。
これは、ヴィオレットの推測だが、見張りをしていた帝国兵は、彼女達とグルだったのではないかと推測していた。
なぜ、そう思ったのかは、見当もつかないルチアであったが、ヴィオレットなら、その件も含めて、説明してくれるだろう。
ルチアは、そう推測していた。
「ルビーエリアに近いエリアは、モルガナイトエリアしかない」
「だから、あの人に聞いたんだ」
「そうだ」
ヴィオレットは、彼女達が、どこへ、逃げたのかも、わかったようだ。
ルビーエリアに集合したとなれば、そこに近いエリアは、モルガナイトエリアだけだ。
もちろん、他のエリアに行った可能性もあるが、さすがに、その日のうちに、何度も、橋を渡るという危険行為はしないだろう。
だからこそ、先ほどの帝国兵鎌をかけたのだ。
ヴィオレットの話を聞いたルチアは、納得していた。
「念のため、他の帝国兵にも聞いてみたが、やはり、反応がわずかに違った」
「なるほど、さすがだね!」
ヴィオレットは、他の帝国兵の反応も、しっかりと見ていたのだ。
彼らは、堂々としていた。
彼女達とグルだったからであろう。
そして、先ほどの帝国兵は、わずかに、動揺していた。
彼は、何らかの理由で、彼女達を逃がしてしまった。
そう考えたヴィオレットは、先ほどの帝国兵に問いかけたというのだ。
「そういうわけだ。行くぞ」
「うん」
ヴィオレットは、ルチアを連れて、モルガナイトエリアに向かった。
ヴァルキュリア候補達を探すために。
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