ふぁみりあ!~魔王が退場したこの世界で平和を謳歌します~

赤里キツネ

第1話 優しき少年

-- 真治


真治しんじ、意識を集中して」


深紅の鎧を纏った騎士・・・僕のファミリア、ニクスが語りかける。

重厚な見た目からは想像できない、可愛い声だ。


今は、ニクスに特訓をつけて貰っている。

都会での就学・・・田舎者と笑われないようにしないと。


木刀の先に、魔力を集める。

人間が扱える魔力は、微々たるものだ。

だが、完全にファミリアに任せれば良い、と言う訳ではない。

ファミリアは、寄り添う者。

本当に必要な時だけ、力を借りるのだ。


木刀の先に力が集まった。


「スラッシュ!」


剣を岩に叩きつける!


ガッ


数センチめり込んだところで止まる。

く・・・


ガシャ


ニクスが、ヘルムの前面を上げる。

可愛い・・・困った様な顔が露出する。


「真治・・・魔力に無駄が多いよ。もっと硬くするイメージで」


止まっている間はある程度固着出来るのだけど・・・動かすとどうしても。


「次は気をつけるよ・・・田舎者と馬鹿にされないようにしないと」


ヒュンッ ヒュンッ


魔力を纏わせた木刀を振り回す。

聞くところによると、街はマナが極めて少ないらしい。

今より遥かに大気の魔力を集めるのが難しくなる。

とはいえ、体内の魔力だけで長時間は魔法の行使は出来無い。

息を止めて走る様なものだ。


「夜はお勉強にあてるんだから。・・・魔法の練習は?」


魔法。

魔力による身体や物質の強化だけではなく、奇跡の行使。

これは、純粋な才能による。

長老とかは色々使えるけど、基本的には1種類だけだ。


僕の発現した魔法は、ヒーリング。

あきらの様な、エレメントを使いたかった。


「そうだね。練習しておこう」


僕のヒーリングは、所詮人間が行使出来る程度。

ファミリアが扱うものに比べると、圧倒的に威力が低い。

死者の蘇生は出来ないし、欠損して消失した部位の修復等は相当な時間がかかる。


もっとも、ヒーリングは個人的な魔力の色が反映されるらしく、僕のヒーリングはファミリアにとって心地良いらしい。

個人差は有るのだろうけど、ニクスは僕のヒーリングがお気に入りだ。

ニクスが僕と契約したのも、魔力譲渡がきっかけだし・・・二人の絆の様なものだ。


意識を集中する。

魔法の行使は、魔力による強化とは比べ物にならないくらい消費が激しい。

真面目に魔力を集める。

自分というろ過装置を通し・・・手のひらに魔法を構築していく・・・


ボッ


別に傷ついてはいないのだけど、対象はニクス。


ほうっ


ニクスが蕩けるような顔をする。


「あ〜、やっぱり真治のヒーリングは気持ちいい」


温泉に浸かっているかのような声で言う。

軽い威力なら長時間行使も可能だが、それでは負荷がかからない。

徐々に出力を上げ・・・1時間程で、魔力疲労が起きた。

僕のヒーリングは、長時間使用可能なので、魔力に満ちた場所だと身体に負荷をかけ辛い。


「あら、敵ね」


ニクスが視線をやった先。

☆3の魔精霊、フレイムタイガーだ。

黄金色に光る美しい獅子。


野良精霊は、食べられはしないが、経験値や魔石を稼げる。

未契約ならファミリアとして契約も可能だが、友好的な精霊の方が良いので、敵対的な精霊は討伐対象だ・・・家畜とかに被害が出る事もあるし。


普段なら何とかなるが・・・ヒーリングを使い続けて魔力が枯渇しているので、きつい。

まあ、何とかなるだろう。


「真治、私が倒そうか?」


ニクスが尋ねるが、


「何とかしてみる」


そう言うと、僕は木刀を構えた。

周囲から魔力を集め、剣に・・・全身に纏わせる。


タッ


敵に向かって駆ける。


「小僧、人の身で我に歯向かうか!」


敵が叫ぶ。


敵の眼前で身体を沈ませ、敵の爪を回避。

そして・・・


サンッ


剣を振り抜き、上半身を切り飛ばす。


「馬鹿・・・な・・・」


精霊が消える。

実体を失い、精霊界に強制送還されたのだ。

霊鎧れいがいも纏っていない雑魚だ。


黄色い☆3魔石・・・フレームハートと・・・


「ラッキー、ドロップだ」


火虎の毛皮。

☆3のレア素材で、軽くて防火防寒効果が高い。

高く売れる。


「相変わらず運が良いなあ!」


シャラン


ニクスが鎧を鳴らす。

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