おあずけ
violet
1
校門の前で幹は待っていた。桜の花びらを浴びながら通り過ぎていく生徒達を見送っていた。
「ごめん、待った?」
葵がおかっぱの黒髪を揺らし歩いてやってきた。その声につられて幹は顔を上げると、自身が大好きで堪らない葵の顔が間近にあって、つい目が合う。
「あ……」
幹は葵の顔が徐々に紅くなっていくことに気付いた。しかし自分の頬も何だかこそばゆくて、きっと紅潮しているのだろうな、と思うのだった。
「お願い、考えてきた?」
「う、うん」
付き合って一か月の二人は、お互いの仲を深める為に、月曜と水曜と金曜にそれぞれのお願いを聞いてあげる、ということをしていた。今日は葵のお願いを聞いてあげる日である。
「じゃあ、葵のお願いは?」
「うん、とね」
葵は手を組んでモジモジとした。夕日の所為か頬は一段と紅く見えた。
「幹のお布団で寝たい」
「え?」
葵のお願いがいまいちピンと来ない幹は首を傾げた。
「と、とりあえず歩きながら話そ」
葵は照れ隠しも含めてそう言うと、さっさと行ってしまう。幹は慌ててその後を追って、葵に尋ねる。
「僕の布団で寝たいって、どういうこと?」
「え、えとね。そのままの意味なんだけど」
葵はそう言うと、鞄からおもむろにパジャマを取り出した。花柄のパジャマで、葵が来たら可愛いのだろうなと幹は思った。
「幹の家に着いたらね、シャワーを浴びてこれに着替えて、幹のお布団で寝たいの」
「え、うち泊まるの?」
「泊まらないよ!ほんの二時間だけ」
まあそれなら良いか、と幹は短い前髪を弄りながら了承した。
やがて幹の家に着いた。親は居ない様だ。二人は上がって、葵はシャワーに、幹は部屋に向かった。
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