第18話 魔法と結界
「ここら辺でいいかな……」
俺は小声でそう言いながら、森の中の少し開けた場所で足を止める。
「ま、待って、ください」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには息も絶え絶えな様子でそう訴えかける佐護さんの姿があった。
佐護さんを助けて面倒を見ろと好川に言われた翌日。
俺はとりあえず佐護さんの能力を確認する為に森の中に来ていた。
勿論佐護さんに気を遣ってゆっくりとこの場所まで来たつもりだったのだが、どうも単なるつもりでしかなかったみたいだ。
ステータスの上昇が体に馴染むと同時に、力の制御が難しくなってきている。
と言うのも、これまでの感覚で行動しても結果が予想を遥かに超えてくるのだ。
例えば最たるものに物を掴むという行為があるのだが、これはほとんどの人が何も考えずに行っている行為だろう。
だが今の俺はその行為に細心の注意を払わなければならない。
今まで通りの感覚で物を掴めば、力が入り過ぎて掴んだものが壊れてしまうのだ。
特に戦いとなると力んでしまい、それが如実に表れる。
そのせいで今までゴブリンから奪った武器を全てダメにしてしまったからな……
力の制御が無意識下で出来るようになるまでは魔法と拳で戦うしかないだろう。
同じ理由で人との接触も極力避けている。
些細な事で傷つける可能性があるからな。
今回みたいにスタミナや歩く速度等でもな……
「すみません、少し急ぎ過ぎました。場所はここでいいので落ち着くまで休憩しましょう」
「こちら、こそ……すみま、せん」
佐護さんは途切れ途切れそう言いながら、その場にへたり込む。
当分は無理だろうな。
最近は一人で森を散策していたからつい忘れてしまっていた。
これからは誰かと行動する時は、こまめに後ろを見る癖をつけておいた方が良いかもな。
とは言え佐護さんが動けるようになるまでただ待って居るのも時間がもったいないし、もう一つの目的を進めておくか。
「少し体を動かしますが、気にせずそこでゆっくりしていてください」
俺は佐護さんにそう伝え、佐護さんから少し距離をとる。
そして右手を前に出し、意識を集中する。
…………出ろ。
俺が心の中でそう念じると、手のひらにテニスボール程の大きさの火の玉が出現した。
これは勿論俺が持つスキル、[火魔法]によるものだ。
[火魔法]は火を出す事をイメージすれば、魔力を消費して対価として火を出す事が出来る。
そして出した火は投げたり、物を燃やしたりすることが可能……
と、スキル説明を見てもその程度の事しか書いていなかったのだ。
[火魔法]を獲得したのが昨日なのだが、昨日は佐護さんを助けたりと色々あり試す事が出来なかった。
これが火ではなく水や氷なら実戦で確認できたのだが、森の中で[火魔法]が暴発して森が炎上なんて事になったら洒落にならないからな。
その点ここなら森の中ではあるが開けており、周囲に木がない事から試すには持って来いの場所だろう。
さて、とりあえず出す事は出来たが……これどうやって扱えば良いんだ?
手のひらに熱を感じる事から直接触るのはNGだとして、それ以外に飛ばす方法……
俺はそう考えながら無意識に火の玉の出ている右手を軽く左右に動かしていた。
するとまるで火の玉もその動きに合わせるかのように左右へと動く。
これは……
俺はそう思った直後、空中に右手で大きな円を描く。
すると手のひらの火の玉も右手の動きに合わせるかのように空中に大きな円を描いた。
これは俺の右手とこの火の玉が連動していると考えていいだろう。
それに動かしたことで更にわかったことがある。
いや、わかったというよりは感じる事が出来たという方が正しいだろう。
この火の玉と俺の右手とをつなぐ太い線のようなものがある事に。
ただこの線は目には見えず、自身で火の玉との繋がりを意識しなければ感じとる事が出来ない程希薄ものだ。
だが例えばこの希薄な線を断ち切るようイメージすればどうなるんだ?
俺はふとそんな事を思い、それを行動に移してみた。
すると、先程まで手のひらと一定の間隔をあけて浮いていた火の玉が突如として重力に従うがごとく下へと落ち始めた。
俺は咄嗟に右手を引き、すんでのところで火の玉をかわしなんを逃れる。
俺がかわした火の玉はそのまま地面に落ちると、その場で少し燃えた後何事もなかったかのように跡形もなく消えた。
多少地面は焦げているがそれだけだ。
燃えカス等は見受けられない。
危なかった……
もう少しで火傷するところだった。
自分の出した魔法で火傷とか、笑い話にすらならない。
それにしても本当に魔力で燃焼していたのか……
つまり先程切った線が魔力を供給し、火の玉を制御していたという事か?
これは他にも試さないとわからないな。
……
…………
………………
……………………
「ふぅー」
俺は大きく息を吐きながら肩の力を抜く。
色々と試したことでこの力についてかなりわかった。
まず俺の予想はおおよそ当たっており、あの線が魔力を供給し制御する為の物だった。
そしてあの線は[魔力感知]を発動することでより確かに感じる事が出来るようになったことから、魔法と同じく魔力によるものだと考えている。
更に[魔力操作]を使う事で火自体を造形、操作できる事もわかった。
だたそれには十分な魔力と経験が必要だという事もわかってしまった。
まず魔力に関してだが、普通に火の玉を出すだけで魔力を5消費する。
更にそれを維持するために三十秒毎に1消費する。
造形に関しては大きさや構造の複雑さによって魔力の消費量が異なってくる。
例えばテニスボール大の火の玉をサッカーボール大に変えるなら魔力を追加で2消費してしまう。
逆にゴルフボール大に小さく凝縮するとしても、魔力は追加で1消費する事になる。
形を変えるにはどんな形であろうと魔力を消費してしまうのだ。
これだけでも十分わかるが、魔法はかなり効率が悪い。
通常の魔法ですら魔力を5消費する。
それなのに威力はそれ程期待できず、威力を上げようと思えば更に追加で魔力を消費しなければならないのだ。
つまりは何をするにしても魔力を消費してしまう上に、非常に燃費が悪い印象を受ける。
勿論下位職業なのも影響しているかもしれないが、それでも持久戦には到底向かない。
今の魔力量ならある程度自由に戦う事も出来るだろうが、乱発して戦うには不安がある。
もう少し軽く使えるモノだと考えていたのだが……当てが外れてしまった。
「あ、あの」
「……あ」
後ろから佐護さんに声をかけられて、俺はここに来た最初の目的を思い出した。
あまりにも魔法に関して興味が出過ぎて佐護さんの事をすっかり忘れてしまっていた。
「すみません長々と。体の方はもう大丈夫ですか?」
「は、はい」
「ではお話しした通り佐護さんの能力について確認していきましょう。佐護さんの今後の為にも」
「わ、わかり、ました」
佐護さんは少し俯きながら、自信なさげにそう答える。
一応能力の確認に関しては佐護さんの了承を得ている。
と言っても、多少強引に好川が話を通した感じではあったが……
「それで、私は何をすれば……」
「そうですね……とりあえず、結界を創ってもらってもいいですか?」
「え、えっと……こんな、感じでいいですか?」
佐護さんはそう言いながら、手を前にかざす。
直後、青白い四角い箱が現れた。
なんと言うか……わかりやすい。
俺の中ではこれ程わかりやすいものではなく、半透明で確認できないものじゃないかと思っていた。
そう思いながら手を伸ばしてみると触れる事が出来た。
触れるのか!
感触はまるでゴムみたいだ。
なんと言うか、衝撃を吸収するかのような印象を受ける。
「これは一体どういう結界なんですか?」
「すみません!! すみません!!」
俺がそう言ったと同時に、佐護さんが凄い勢いで頭を下げ力強く謝罪してきた。
俺はそれを見て動揺してしまう。
「待ってください! 急にどうしたんですか!?」
「すみません! ご期待の力を使えず、すみません!!」
ご期待の力……
もしかして佐護さんは、俺が怒っていると思っているのか?
そんなつもりは一切無かったのだが……
「大丈夫です! 決してそう言うつもりで言った訳では無いので! ただこの結界の効果がわからなかったので、どういうものなのか聞いただけです」
俺は怒っていないという事を強く強調してから、出来るだけ優しくそう言った。
その言葉に、佐護さんは俺の表情を伺うかのような視線を向けてきた。
俺はそれに対して、出来るだけ自然な笑顔を浮かべる。
「この、結界は……ただの結界です」
佐護さんは恐る恐ると言う感じでそう言ってきた。
待て!
まるで俺が結界に関して精通しているかのように言われても困る!
ただの結界ってなんだよ!
結界の違いなんて分かる訳ないだろ!
標準的な結界の効果を知ってたら聞かないよ!!
「すみません。そのただの結界って言うのは、どれぐらいの攻撃に耐えられるんですか?」
俺は心の中でそう思いながらも、一切表情に出さずにそう言った。
「わかりません」
「わからない?」
「す、すみません!!」
「大丈夫です! 怒ってませんから気にしないでください!!」
そうは言ったものの、おかしい。
佐護さんがこの結界を創造したはずだから効果がわからないはずがない。
とは言え佐護さんが嘘をついているようには見えない。
ならまさか……
「一つお聞きしたいんですが、結界を発動する時何を考えていますか?」
「? 特に、何も考えていません」
やっぱり。
創造出来るのに想像していないんだ。
だから能力が不足部分を補填し、本人には効果や性能がわからないんだ。
なら細部まで想像し、創造した場合どうなるのか……
これはかなりヤバいかもしれない!!
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