第10話 好川の提案
「……どういうことですか?」
「言葉通りの意味……ただ過程と仮説の説明不足だったせいで、誤解を招いているんだと思う。だから今から俺が悠椰と一蓮托生のパーティを組もうと考えた理由について、順を追って説明する」
そう言った好川は、滝本先生に質問を投げかけていた時のような雰囲気へと変わっていた。
仮面を外したという事か……
「まずは何故通常のパーティではなく、解散する事のない一蓮托生のパーティなのかについて。それは先程話した、お墨付きを貰った人間三人以上七人未満でパーティを組むというのが大きな理由だ」
俺はその言葉に首を傾げる。
その三人以上七人未満のパーティのどこから一蓮托生のパーティを組むという発想が出てくるんだ?
「まず初めに、これを考えた人間は現状においてほぼ最適の答えを出した。どう考えても大人だけではこの人数の長期間にわたる身の安全と生活の保障は不可能だ。それに生徒の中にはすぐにでも外の森に出て自身の力を試したい奴が何人もいる。そんな奴等に対して学校の敷地内から出るななどと言えば、不満が溜まり勝手に敷地外に出ていくことなど容易に想像できる。そうならないよう教師監視のもとガス抜きさせるというのは仕方ない妥協点だろう」
そこまではわかるし理解できる。
この状況がいつまで続くかわからない以上、教師陣だけで全てを回すというのは絶対に不可能だと断言できる。
それに力を試したい……
それも俺はわからなくもない。
理由は違えど、皆それぞれ自身の力を知りたいのだ。
現に俺もそうだ。
己の力の限界を知らなければ出来ない事もあるからな。
「ただそれは現状においては、だ。先を見据えるならこれは愚策としか言いようがない」
「愚策、ですか?」
「そう、愚策だ。何故ならこの決まりは派閥の形成を急速に加速させてしまう。いくらパーティを組むのは自由で教師が一人ついてくれると言っても、絶対に安全で危険が存在しない訳じゃない。ならその危険を出来るだけなくすためにどうするか? 手っ取り早いところだと強い人間をパーティに入れ助けてもらう事。だがそうなれば強い人間が徐々に幅を利かせ始めるだろう。勿論そいつをパーティに入れた人間達はそいつに対して強く反発する事は出来ないだろうな。何せそうすれば助けてもらえなくなるかもしれないんだから」
「確かにそうですが、それでも……」
「それでもそんな奴に対して異を唱える人間は居るだろうって? そう。それが問題なんだ。幅を利かせている強い人間に対して異を唱え、その意見をきかせられる人間……それはつまりその強い人間よりも強い人間だという事だ。そして強力な力を手にしても尚まともな人間。そんな人間が現れたら悠椰はどっちにつく? 強いが自分勝手な人間か、そいつよりも強くまともな人間?」
「それは……」
「そう。これは言うまでもなく後者だ。百人に聞けば百人がそう答えるだろう」
好川が言った事は理解できる。
誰しも死にたくはないだろう。
例えそれが自身で戦う事を選んだ人間だろうと同じ事。
余程自分の力に自惚れている人間以外はある程度事前に準備を行うだろう。
一度でもあのゴブリンと戦った人間なら尚更だ。
「そしてそうなったが最後、その人間を中心とした集団が形成されはじめる。その集団が一つならまだいいが、それは絶対にないと断言できる」
「派閥……つまりその人間を中心とした集団が形成されるのはわかりました。ですがそれのどこが愚策なんですか?」
「教職員達がこんな決まりを出したのは何故だと思う?」
「それは先程言われた通り、生徒のガス抜きや人員不足を補う為じゃないんですか?」
「勿論それもあるけど、一番の理由は行動の制御だ。全校生徒が勝手に行動すれば教職員達は手に負えなくなる。未成熟な学生の手綱を握ろうと早急に決まりを決めた結果、逆に将来的にその手綱を変えなければならない事態となった」
未成熟な学生……
その言葉が妙にしっくりきた。
つまりは未熟な子供を成熟した大人として導かなければ、と……
確かにその迅速な対応によって助かったのは事実だからあまり文句は言えないが、それでも子供は大人が導かなければならないという考え方はあまり好きじゃない。
にしても話が見えてこない。
確かに今好川が話している内容は、十分に起こり得る可能がある未来の話だ。
否定はしないが確実に起きるとは断言できない。
けれどどこか好川の中には確信があるように感じられる。
ただ確信があったとしても、俺と一蓮托生のパーティを組む事と今の話は繋がらないのだ。
どうしても何かが足りない。
まるで俺が重要なピースを見逃しているかのような、そんな気がしてならない。
「まるで話が繋がらないって顔だね?」
「……はい。正直今の話は理解できますし、そうなる可能性があるのもわかりました。ですがだからこそわからないんです。そこからどうして自分と一蓮托生のパーティを組もうと言ったのかが」
「その謎の鍵は、派閥の中心人物だ」
「それはまだ誰がなるのかわからないと思うのですが?」
「いや、二人は確実に決まっている」
「二人?」
「そう。生徒会長の
「確かにその二人にはカリスマ性があり人を惹きつけるのかもしれませんが、それでも必ずと断言できる理由がわかりません。それに彼等が強いとは限らないじゃないですか?」
「…………それはない。彼等は間違いなく台頭してくる。何故なら大光寺の職業は勇者で、龍美の職業は英雄だからだ」
好川は少し悩んだ後、ゆっくりとした口調でそうった。
待て!
今何と言った!?
大光寺の職業が勇者で龍美の職業が英雄!?
何を言っているんだ……
と言うか何故そうだとわかった?
まさか!!
俺はそう思い、好川を警戒するように咄嗟に距離を少しとりながら睨みつける。
「心配しなくても大丈夫。悠椰の職業はわからないから。俺に見えるのは?が十三個だけだから」
?が十三個……
つまり好川には俺の職業も見えており、その職業は?????????????こう見えているという事か。
?????????????……職業変更(チュートリアル)。
同じ文字数……
推測や勘で当てられる文字数じゃない。
となると本当に見えているのか!?
クソ!
俺が見逃していた大事なピースはこれだったのか!
俺と好川では見えている世界に違いがあったのだ。
俺には他者の職業は見えない。
だが好川にはそれが見える。
いや、もしかしたらステータス全てが見えている可能性は十分に考えられる。
他者のステータスを看破する力……
少し考えればそう言ったものがある可能性は十人に考えられたのに、どうして俺はその可能性に至れなかった……
クソ……
悔やんでも悔やみきれない。
俺の職業に関しての糸口を与えてしまったのは、俺の油断が招いた結果だ。
「滝本先生の前でも言ったけど、俺は人を見る眼は人一倍だと自負してるからな。それにそんなに思い詰めなくても大丈夫。俺に見えるのは本当に?だけだから」
?だけ……
つまりはステータスを確認は出来るが全てが?になっているという事だろうか。
だがこればっかりは諦めるしかない。
今の俺にはステータスを見られる事を防ぐ術がない。
仮にわかっていても対策できないのだ。
しかし大光寺が勇者で龍美が英雄か……
ピッタリな職業と言われればそんな気がしなくもないが……
それでもどこか職業に負けている気がしてしまう。
だが二人はかなり強そうな職業を持っているのか。
なら台頭してくる可能性はかなり高いだろう。
元々二人は対極の人間に支持されていたわけだからな。
にしてもこれが鍵だと。
全く分からん。
恐らく中心人物が大光寺と龍美になれば反発するのは火を見るよりも明らかだ。
大光寺は既存のルールを守るタイプなのに対し、龍美は我が道を行くタイプ。
そんな二人が手を取り合って仲良く何て到底不可能だ。
けれどだからと言ってそれが俺に関係するかと言われれば全く持って無関係だ。
別に俺は二人と仲が良い訳でも、ましてや日常会話をする仲ですらないのだからな。
「ただ言えるのは大光寺 勇人や龍美 丈裕より、朝倉 悠椰……君の方が特別で強くなる可能性があるという事だ」
「……何故そうなるんでしょうか?」
「言ったじゃないか。全てが?で表示されると。そして?で表示されるのは俺の職業と同等の存在か、あるいはそれ以上の存在だという事が俺にはわかっている。大光寺や龍美は職業以外が全て?で表示されており、悠椰は職業を含めた全てが?になっている。つまりこれの意味するところは……」
「自分の方が二人よりも上の職業だと、そう言いたいんですね」
「その通り」
これは非常に面倒だ。
恐らく好川の言う通り、俺の職業は大光寺の勇者や龍美の英雄よりも特別なもので、その二つ以上に強くなる可能性を秘めているだろう。
そしてこれ程頭がキレる相手にそれを知られてしまったのが問題だ。
勿論軽率な馬鹿に知られるよりはかなりましだが、それでも十分脅威になり得る。
言わば今好川は俺の弱みを握っているんのだ。
その弱みに付け込めば、俺を思い通りに動かせるだろう。
俺としてはこれ以上他の人間に知られたくないからな。
一蓮托生のパーティ……
あながちこれも一種の一蓮托生になるのか……
「なんだか諦めたような表情をしてるけど、勘違いしないでくれよ? 俺は別に君を脅して言う事を聞かせようなんて考えていない。これは単なる提案。もし嫌なら断ってくれて全然かまわない。勿論俺としてはそれは非常に困る訳だが、強制して務まる様なものじゃないからな」
「ならどうしてですか?」
「俺が悠椰、君に求めるものはただ一つ……何者も寄せ付けない強さだ。今いる人間の中で誰よりも圧倒的に強く、他者を寄せ付けない存在。それを俺は悠椰に対して求めている」
「待ってください。何故俺に強さを求めるんですか?」
「抑止力の為さ。先にも言った通り、大光寺と龍美が必ず台頭してくる。そうなれば衝突するのは言わなくてもわかるはずだ。本人達が望もうと望まないと、それは必ず起きてしまうだろう。そうなれば巻き込まれるのは弱者達だ。抵抗する力のない者達は否応なしに淘汰もしくは争いに巻き込まれるだろう。俺はそれを事前に防ぎたいんだ。だから二人よりも強くなれる可能性がある悠椰につく事にしたんだ。誰一人死なせることなく、平和的に解決できる可能性にかけて」
驚いた。
正直好川がここまで正義感の強い人間だとは思わなかった。
客観的に物事を見て冷静に判断していたことから、もっと冷めている人間なのかと考えていた。
だがどうする?
ここで好川の提案を受け入れるという事は、真っ向から全校生徒に対して自分は特別だと宣言する事になりかねない。
そうなれば否応なく負の感情を向けられる事だろう。
それに対して俺は耐えられるのか?
中学時代、善意が負の感情としてかえってきた事に耐えられなかった俺に……
「……一つ聞かせてください」
「構わない。なんだ?」
「もしかしたら今言われたことが起こらない可能性も十分にあると思います。その時はどうされるつもりですか?」
「仮にそうなったとしても抑止力は必要だ。俺達はまだまだ子供で、ほとんどが他者に優っている部分を誇りたい年頃だ。暴走する人間は必ず出てくる。それを抑え付ける存在となり得るのは、先程から言っている大光寺・龍美・悠椰の三人だけだろう」
ほとんど……
まるで自分や俺は違うと言ってるようだな。
まぁ現に好川はわざと侮られるような仮面を被る程だからそうなんだろうが、よく俺もそうだと断言できるな。
もしかしたら俺も力を誇示したい人間かもしれないのに……
いや、仮にそうだったらそれすらもうまく制御してしまいそうだな、コイツなら。
それに実際俺自身もっと力を付けなければならない。
そしてその為には協力者が必要なのもまた事実。
どうしても[
宝の持ち腐れで居て、争いに巻き込まれるのは負の感情を向けられるより面倒だ。
それに巻き込まれてから力を付けれいれば……と後悔するぐらいなら、真っ向から負の感情を向けられた方が断然ましだろう。
「……わかりました。一蓮托生のパーティ……いや、対等な仲間として協力していってもいいです。ただし、一つだけ条件を付けさせてください」
「条件とは?」
「俺の職業やステータスに関して、誰にも口外しないと約束してください」
「……それだけでいいの?」
「はい」
「わかった、約束しよう。これからよろしく、悠椰」
「こちらこそ、宜しくお願いします。好川さん」
俺は笑顔でそう言いながら握手するように手を前に出してきた好川に対して、そう答えながら握手に応じる。
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