第9話 学校の新たなルール
夜、か。
北中先輩と軽く話をした後体を休めるために寝たが、俺は一体どれだけ寝てたんだ。
俺はそう思いながら上体を起こす。
「おはようって時間じゃないけど、おはよう悠椰君。もしかして起こした?」
「いぇ、大丈夫です」
俺はそう答えながら、好川の方に視線をやる。
すると好川はスクールバックの中身を出して何やら吟味していた。
「あぁ、これ? 今ちょっと選別してたとこ」
「選別ですか?」
「そ! 今後使えそうなものと、今後使うものに分けてるんだ」
俺は好川の言葉に訝しげな表情を浮かべる。
今後使えそうなものと、今後使うものに分ける?
今後使うものではなく、使わないものに分けるならまだわかるが、どういうことだ?
両方結局使う事に変わりはないんじゃないか。
「まぁその反応はわからなくもないよ。けど今後元の世界の物は恐らく新たに手に入れるのは不可能だから、必然的に価値が上がるんだよ。一応悠椰君のカバンと机の中に合ったものは一緒に持ってきたけど、もし他にも何かあるなら急いでとってきた方がいいよ。行くなら一緒に行くし」
「態々ありがとうございます。ですが急ぐ必要がるってのはどういうことですか?」
「誰かに盗られたり勝手に使われるかもしれないからだよ。他の生徒が全員この状況で正常な判断を出来るとは思えないから」
今この学校はそんな世紀末な事になってるのかと一瞬思ったが、言われてみればそうだ。
特に変に頭が回る人間等はそうだろう。
もう二度と手に入らないかもしれないものなんて、想像しただけでも価値は相当のものだ。
しかもそれが今まで慣れ親しんだものなら尚の事。
それに自暴自棄になる人間が居たっておかしくない。
そんな人間が何をするかなんて予想するのはほぼ無理に等しい。
これは想像以上に面倒な事になってそうだな。
「悠椰君も起きた事だし選別はこのぐらいにして、俺達の今後について話をしようか」
「自分達のですか? 自分と好川さんの今後ではなく?」
「そう。俺と悠椰君じゃなくて、俺達の今後について」
好川は笑みを浮かべながら俺に向かってそう言った。
その言い方ではまるで、俺と好川が一緒に行動するかのような言い方だ。
正直そのニュアンスが込められている気かがしたから聞き返したが、その印象はより強くなってしまった。
「だけどその前に、お互いの認識にズレがないように統一しておこう。そのせいで誤解が生まれているかもしれないから。で、まずは悠椰君が意識を失っていた間に色々と決まった事があるからその話をしようと思うけど、どうだろう?」
「……わかりました、それでお願いします」
笑顔でそう言ってくる好川に俺はそう答える。
あからさまに話題をそらされた気はするが、仕方ない。
俺が倒れている間に決まった事がとても重要な事である可能性は十分にある。
それを知らずに行動してしまった場合どういう扱いを受けるかわからないからな。
しかもそれを知らないという事はと、色々根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だ。
ならわかっていても話をそらされてその内容を聞くべきだろう。
「主に決まった事は、学校敷地内の移動についてと敷地外に出るときに関して。先に学校敷地内の移動についてだけど、これは最低でも二人以上で行動する事を強制された。一応気配感知系のスキル持っている人が交代で外からの侵入に対して警戒する事になったけど、それも絶対じゃないという事で安全の為にそうなった感じかな」
「なるほど」
感知系スキルを持っている人間が交代で……
確かにこの状況で感知系スキルを持っていない人間が見張りをした所で、簡単に抜けられてしまう事は容易に想像できる。
なにせこの学校にそう言った訓練を受けた事のある人間がまとまった数居るわけがないからな。
しかしその感知系スキルを持った人間のと言うのは、恐らく教師陣だけでは足りないはず。
全員が全員持っているスキルじゃない事は体育館での情報収集でわかっている。
現に俺も持っていない訳だからな。
休息なしで回せば教師陣だけで足りるかもしれないが、それは物理的に不可能だろう。
つまり生徒の中から感知系スキルを持つ人間を募るという事だろう。
しかしその人間に対して何らかの報酬を与えなければ不満が出てくることは容易に想像できる。
最初は状況が状況だけにそれを気にする人間は少ないかもしれないが、徐々に心のゆとりが出てくればその不満は絶対に出てくる。
その時何を対価とするかが問題だろうな。
今のこの状況では元の世界のお金は記念品ぐらいの価値しかないだろう。
勿論そのお金を調達すること自体が不可能だろうが……
それに敷地内は最低でも二人行動を強制。
ある程度安全を考えるなら理解できなくはないが、俺にとってはかなりキツイ。
なにせ一緒に行動する相手が居ないのもあるが、一番問題なのは行動が制限されることだ。
二人以上で行動させるのは無論安全の為ではあるだろうが、それ以上に監視の意味が強いのではないだろうか?
側に必ず自分以外の誰かが居る。
そうすればある程度はルールを守らせる抑止力になるだろう。
それでも勿論守らない奴は出てくるだろうが、恐らくそう言う奴は感知系スキルを持った人間達によってすぐに何らかの罰が下されるのではないだろうか?
感知系スキルをかいくぐれるスキル又は人間が居れば別だが、大抵はそこまで考えが及ばない人間だろうからな。
「次に敷地外に出るときの決まりについて。まず敷地外に出るには、最低でも三人以上の先生に出ても大丈夫だというお墨付きを貰わなければならない。その上でお墨付きを貰った人間三人以上七人未満でパーティを組み、戦える先生一人に付き添いとして同行してもらう事で初めて学校の敷地から外に出る事が出来る」
三人以上の教員のお墨付き……
お墨付きってのは外に出ても問題ない人間かつ、あのゴブリンと戦い倒したとしても平気な人間だと認められるという事だろうな。
俺の場合そのお墨付きを三人以上の教員からもらうこと自体はそれ程難しい事ではないだろう。
ただ問題は次だ。
お墨付きを貰った人間三人以上七人未満でパーティを組む。
これは飛躍的に難易度が上がる。
校内を移動する同行者すら居ないのにお墨付きを貰った人間を二人も見つけパーティを組むなど、俺にとっては不可能に近い。
仮にパーティを組む事が出来たとしても、俺の場合戦い方をあまり人に見られるのは好ましくない。
何せ俺は頻繁に[
職業を変更すれば、恐らく戦い方もこれまでの物とは大きく異なってくるだろう。
前は武器を使って戦ってたのに、今日は拳で戦ってる。
前は遠距離から弓を射ってたのに、今日は魔法を使ってる。
そんな事になれば不審に思われてしまうのは当然……
そうなれば次に発生するのは疑問だ。
どうしてあの人は昨日までと違う戦い方をしているんだろう?
どうしてあの人は昨日までやってなかったことをしているんだろう?
どうしてあの人は昨日まで使ってなかったスキルを使っているんだろう?
そう言った疑問は俺にとって危険であり、非常に面倒なものだ。
つまり俺はこのままいけば、例え新たにスキルを獲得しようとそれを試す事はほぼできないという事だ。
それにもし最初にある程度戦い方を決めるために職業を開示しなければならないとなれば、俺はその時に申告した職業通りの動きをこの先強いられてしまう。
結局俺にとってこの決まりは、メリットよりもデメリットの方が大きいんだ。
にしても教師陣はえらく思い切った決定を下したものだ。
勿論この話が教師と生徒間での話し合いで決まったモノなのか、教師陣だけの話し合いで決まったモノなのかはわからない。
だが結局のところこれを決定したのは教師陣だろう。
坂口先生が口走ったことからの推測にはなるが、やはり教師陣だけではこの学校の守りは回せないという判断に至ったのだろう。
一体何人の教師陣が戦えなくなったのかはわからないが、それでも尚生徒達を守る為の苦肉の策といったところか……
「ここまでの説明で気になった事やわからなかったことはある?」
「大丈夫です」
「それは良かった! で、ここからはより真剣な話になるんだけど……悠椰君。俺とパーティを組まない? それもこの先解散する事のない一蓮托生のパーティを」
好川は先程までの笑みではなく、真剣な表情でそう言ってきた。
それが今言った事の真剣さを物語っていた。
一蓮托生のパーティ!?
コイツいきなり何言い始めるんだ!
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