荒地からの使者・後編
この様な緊急時は初動対応が何よりも大事だがもうある程度立ってしまっている。
なら次にするのは万全な体制の支援になる。
とりあえず状況の確認が優先だな。
「さて、力を貸すと言っても状況が分からないとどうしようもありませんのでとりあえず洞窟が埋まった以外の状況を教えて頂けますか?」
俺が質問をするとネフェルさんはしぶしぶと言った風に答えてくれた。
まぁ、気持ちは分かるけどちゃんと協力するから機嫌治してくれないかな…
「そうですね…集落には殆ど被害はありませんでした。ただ洞窟の入り口周辺だけが崩れてしまっている状態です。…そういえば、村の男衆が岩山のいたるところにくり抜かれた痕を発見しましてそのせいで岩山が脆くなっていたんじゃないかって言ってましたわね。」
「くり抜かれた?荒地では岩山をくり抜くような生き物がいるんですか?」
「イヤ、そんなヤツは聞いたことがナイ。そもそも岩山をくり抜く利点が分からないナ。」
気になるが今回は捨て置こう、とりあえず集落に被害が無いのは好都合だな。
とりあえず塩不足を解消できたら最低限大丈夫そうだな。
「残りの塩はどれぐらい量ですか?結構切羽詰まってる感じですか?」
「節約して使っていれば2か月ぐらい残っているはずです。しかし、集落近くは暑い地域ですのでうまく節約出来ているかどうか…」
そういえばこの国というか大陸は北の方が暑いらしい。
元の世界で言う所の南半球的な感じなんだろうか、まぁ外国いった事がないからよく解らんが。
「2か月か、ちょっと厳しいかもしれんな。」
「どういうことですかロダンさん?」
「北部の街に行くにも馬で1か月はかかるのだ。それを馬車で、しかも荷物を大量にいれるとなると倍以上の日程は見ておくべきだ。」
ロダンさんの言葉に青ざめるリーサさんとネフェルさん。
だが、それとは対照的に特に気にも留めていない俺達オオイリ商店の面々。
俺なんて、そんな遠い所と知らずに『領地まで石畳敷けばイイじゃん』って言った事を反省している状態だ。
「なんというかイサナ君たちは余裕だね。何か秘策はあるのかい?」
「あ~秘策って言うほどでもないんですけど、ねぇ。」
「そうだね、主。2か月って言われてもねぇ。」
「主様のセキトならどれだけ遠い距離でもあっという間です!」
俺とヴィオラがなんとなく言葉を濁していたのをメイちゃんがズバッと言い切った。
まぁ、言葉を濁した理由は信じて貰えなさそうだったからだけど、ここはメイちゃんに倣って俺もズバッと言い切ってしまおう、そうすればリーサさんとネフェルさんの不安もちょっとはマシになるだろう。
「1か月です。この街を出発してから1か月で到着出来ます。」
「1か月だって!?イサナ君、北部はきっと君が思ってる以上に遠いんだよ。」
「大丈夫ですよダニエルさん。うちのセキトはこの世で一番凄い馬ですから。1日に千里を駆けるぐらい走れますよ。」
「まぁ、いつもイサナ殿には驚かされているからここは信じるしかありませんな。ところでどのような行程でを考えておるつもりで?」
「そうですね、塩に関しては手持ちでも十分ありますのでそれ以外の物を1か月後の到着を前提に道中の村々に立ち寄っていろいろ仕入れながら向かうことを考えています。」
「コチラが言えた事では無いかもしれないがそんな寄り道をせずに集落に向かってくれないダロウカ?やはり早く着いた方皆も喜ぶと思うノダ。」
「リーサさんの皆を気にする気持ちはよく解りますが、足らない物だけを持って行くだけでは足らないのです。今、集落にいる人たちは塩が採れた唯一の洞窟に入れなくなって心身ともに追いつめられているでしょう。ですので水や食料、衣服に雑貨など豊富な物資を一度に届けることで心に余裕を持たせるんです。そうすれば復旧作業も捗りますしね。」
「…確かに商人の言う通りダ。助けに行くコチラが焦っていてはダメダナ。ムムム、なんというか年長者として形無しダナ、商人は本当に子供ナノカ?」
リーサさんの言葉に俺以外全員肯いた。
まぁ、前世を足したら彼女よりは年上だろうが心はいつだって少年時代ダヨ。
「ゴホン、まぁその辺は別にいいじゃないですか。それよりも出発までの準備が大変ですよ。リーサさんの学校への休学届の処理と借金奴隷の契約がありますからね。コレが終わらないと出発できませんよ。」
「それについてはワシが手を貸そう、伝手を頼ればすぐに出来るからの。恐らく3日後には出立できるぞ。」
「ありがとうございますロダンさん。では、3日後の出発を目指して動きましょう。こちらもお世話になった方々に挨拶をして来ますので。」
「お爺様、僕たちもお世話になりましたしリーサとイサナ君の為にパーティーでも開きませんか?」
「おお、ダニエルそれはいいのぉ。なら、2日後の晩に我が家で盛大にやろうではないか。ダニエルは学友に声をかけて来るんじゃ、ワシはワシで動くからの。イサナ殿も世話になった人に声をかけてくるといい何人呼んでも問題ないからの。」
「え、いや、自分なんかの為にそこまでして貰わなくとも。」
「遠慮しなくていいよイサナ君。君は君が思ってる以上にいろんな人の為に動いてくれたんだから大人しく受け取ってくれなきゃ。」
ダニエルさんの言葉にリーサさんもロダンさんも笑顔で頷いてくれた。
「そうですか。なら、その、ありがたく受け取ります。」
俺は真っ赤な顔を下に向けて返事をした。
だって俺の為のパーティーとかメッチャ恥ずかしいじゃん、照れるじゃん。
とりあえず3日後の出発に向けて頑張るとしよう。
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