第4話 天使側か、悪魔側か、岐路に立たされる男
紫の瞳を持つ彼女は自分の事をアモンと名乗った。
人違いをしているようだが俺の事をどうやら悪魔と勘違いしているようだ。
だが彼女の圧迫感から伝わってくる禍々しい不気味なオーラに押され返答次第では殺される可能性は高い。
「答えろ...お前は本当にバエルか...バエルなのか...?」
「あ、ああそうだ、俺バエル...お前の反応がどれだけ本気なのかを確かめるためにわざと演技をしたんだぞ」
「反応...?」
やってしまった、反応を確かめるためにわざと悪魔に陥るとは。
俺は心まで悪魔に売ってしまったのかもしれん。
「あ、あの...アモンさん...?」
「......フヒッ、フハハハハ!そっか、そうだよね!私も演技だよ〜ん、バエルが私を騙そうとしてたなんて最初から知ってたんだから!」
「あ...そう」
バエルという人物が奇跡的にもおちゃらけた性格で助かったようだ。
もし誤った回答をしたら今頃首が吹き飛んでいた処だろう。
「さておふざけはもう無しで本題に行こうか、ヴァレフールの伝言によると10年に一人単位で来る被験体をとっくに捕まえてるそうだ、またしても閻魔にばれずにね」
「10年に一人って誠にも聞いたあれのことか...」
「誠...? ああ、あの人間のことね、確かに人間と天使も薄っすら勘付いてるようだけど確信にまで至ってないわ、閻魔も私達にばれないよう言わなかったみたいだけどそれが裏目に出たみたいね」
彼女にはばれないでいるみたいだがそれも時間の問題だ。
頼むから早く誠かマスティマか、どっちでもいいから来てくれ...。
「何をそわそわしてるのかしら?」
「いや、別に...」
「そう、しかしこの子の体ってどうも動きにくいわね、胸も大きいし貧弱そうな腕で」
「え? あ、ああ、そうだな、ははは」
「何? あなたもしかして人間に移り変わってから魂も人間らしくなったんじゃない?こんな下品な体に興奮した訳じゃないわよね?」
「い、いやぁ〜...」
そりゃあそうだろ、さっきから自分の体をあちこちと揉み回していたら誰だって興奮するわい!
胸に至っては本当にでかく彼女が二の腕で胸を挟んだ時にはビックリ箱のように顔の近くに来て殴られるものかと思った。
まさに自分の胸に聞いてみろよ、という決め台詞を吐いてみたい処だね。
しかし一応悪魔の設定だ、興奮した素ぶりを見せればいつばれてもおかしくはない。
人間らしさは消した方がいいんじゃないだろうか。
「私があなたを呼び出したのは別にこういう話をしたいからって理由じゃないわ、二人になる時間がどうしても欲しかったのよ、いや別にあなたと二人になりたいとかそういう意味じゃなくて!いや、でもあなたと会いたくないとかそういう訳でもなくて!」
「そ...そすか...(めんどくさいから早くしてくれ)」
「念には念をよ、私達はいわばビギナーだから自由を極力縛ろうとしないように行動する許可を与えられるだろうけど、それでも向こうに私達が二人きりになる事を不都合と思っている奴がいるならこの作戦は前日に打ち合わせた複雑な伝言信号を手振りしながら行動しないといけないわ」
「え? 周りに俺たちを警戒してる人がいるの?」
「いたらこんなベラベラ話す訳ないわよ」
良かった〜不幸中の幸いとはまさにこの事だろう。
「とりあえず俺達はそろそろ戻ろうか、まこ...あの人間共が偶然こっちに来たらまずいし」
「人間如き殺せばいいじゃない?」
「殺すたってあいつ結構強いぜ...?」
「またまた、あんなゴミを片付けるのなんて片手でも十分だわ、問題はペネムよ、いざとなったらあなたが殺せばいいけど王の命令でしばらくは様子見ね」
「あ...あいつがね...ゴ、ゴミ以下の分際だよな...はははっ」
俺達二人はしばらく会話を続けた後、誠達が俺達の場所に来るのを待ち続けた。
時間を計るためだったらしいが1時間20分。
警戒心は無いので当たり前だが随分二人で一緒にいる事を天使さんサイドは許容してるみたいだ。
こうやって会話をしている上で一つだけ心境を変えざるを得ない事があった。
それは当たり前だと思っていた自分が天使側につくという事が、悪魔との戦力差を知り不安になったのである、勝ち目ははっきり言って絶望的だ。
被害者面をする女子高生のように話を持っただけなんじゃないかとも思ったが、彼女の殺気を肌で感じた俺には誠のような人間にこの悪魔を殺す事は不可能だと確信した。
天使側につくとなると自分も命はない。
当然ながらここで死ねば存在そのものが無くなるのだ。
人間らしく天使側につくか、それとも将来が安泰だとも言える悪魔側につくか。
俺は今運命を決める岐路に立たされているのであった。
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