天使さん側につくか悪魔さん側につくか悩んでいます。
コルフーニャ
第1話 プロローグー悪魔降臨
後頭部に落ちた落雷に気づく事はない。
目が覚めた時には荒野に立っているという状況である。
ここは天国なのだろうか、雷に打たれて即死とはなんとも無様なものだ。
いやそもそも俺の人生そのものが無様というものだろう。
社畜生活を六か月続けた辺りで俺の精神は大分参っていた。
死ねば楽になると何度思った事だろうか。
だが死後の世界という実態があるという事は確信できる訳もない。
上司に逆らえず延々と働きアリのように脳死したような毎日を送っていたのだった。
だがそんな心配も束の間、こうして地に足が触れているだけで誰しもが気付くであろう。
死後の世界は本当にあったのだと。
「やっほおおおおおおおおおおおお!!!」
浮かれ過ぎた、しかし不思議な事に気分が良い。
死んでから死んでよかったと思う人間は多くないであろう。
それにしても誰もいないものだな、一人くらい死者を迎えに来てくれる天使なんかいてもいいはずなのだが……。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
気のせいか? 今何か地面が揺れたような気がした。
それに数人の叫び声が重なって薄っすらと耳に入ってきたような気もしたが。
「「「天使ぶっ殺す!!! 天使ぶっ殺す!!!」」」
なんだかもの凄い嫌な予感だ、まさか死後の世界でこんな物騒な言葉が聞こえてくるとは思わなかった。
幻聴としても不気味である。
ひょっとしてここは天国じゃないんじゃないかと疑う必要もない暴力的な言葉だ。
「「「いたぞ!!! 天使発見!!!」」」
今度は声が間近に聞こえてくるのが分かった。
そして遠目からでも肉眼で見える位置に不気味な姿をした真っ黒の生命体がこちらへ近づいてくるのが分かる。
奴らは複数、そして悪魔のような尻尾に神話に出てくるトライデントのような三叉槍さんさそうを複数人が持ち歩き宙に浮かび上がりながら明らかに俺の方へと向かってきていた。
馬鹿じゃなければここで逃げない人間はいない筈だ。
まさかとは思うがあのような化け物の姿をしながら物騒な発言をするような奴が自分の味方になりえる存在になると思う人間はいないだろう。
勿論そうあった方がこちらとしても都合がいいのだが社畜をしていた人間だ。
この世に生きているものがそんな蜜みたいな甘さをもったものとは限らないと死ぬ程目の当たりにしてきたのだ。
だとすれば足を蹴り上げ、悪魔が向かう場所とは90度方向が違った処へ走り抜けるしかあるまい。
しかし残念なお知らせである、悪魔も俺と同じで方向を変えて全く同じ場所にへと向かってくるのだ。
呆れた、こんな社畜を狙ってお前達は俺の上司になったつもりなのか? いつも変わりはいると言い張るじゃないか。
止むを得ず一度立ち止まって見るか。
三叉槍を持ちながら「「「うおおおおおおおお!!!」」」と一斉に叫んでいる様を見ているとそんな暇はないと本能的に身体が足を止める事を許してくれないのだった。
「「「「「悪魔がいた!!!」」」」」
今度は別の声だった。
先程よりしわがれた声を持った方向を見ると背中に白い羽を生やし、
頭に輪っかがついている一言でいうと天使的な見た目であり、
武器は何故か悪魔同様で三叉槍を複数の者が持っていた。
「「「その程度の数で我らに挑もうと思っているのか!!! とことん貴様らは舐め腐っているようだ!」」」
「「「「「何を言うか!我らは貴様らよりも数は上回っている、更には側近部隊Sクラス三人と残りは全てAクラスで構成されているのである!」」」」」
悪魔の姿をした者達が先に喧嘩口調でふっかけた後、天使の姿をした者達がその言葉に反論する。
ざっくり言えば確かに天使の姿をした者の方が倍近くいるように思える。
しかし逃げようとしないあの悪魔の態度からしてどこか違和感がある。
このまま激突して仲良しこよしという訳にもいかないだろう。
恐らく戦争が始まるのだ。
たった今殺し合いが始まった。
悪魔の兵は三叉相に何か黒いオーラを纏ったもので天使を次々とめった刺しにしてしまう。
容赦はないのは悪魔である。
俺が見た光景によれば死んだ悪魔はおらず三叉相によって傷ついた者だけが後ろに下がって治療を受けていた。
まるでこの光景は現実ではないみたいだ、魔術のようなものの戦争が混じりあったゲームでしかみない光景が今まさに俺のすぐ近くの場所で行われいるのであった。
今すぐにでも逃げ出したい。
このままいけばまず間違いなく天使サイドが殲滅されるであろう展開だ。
しかし足は動かないでいた。
今まで刺激が封殺されてきた社畜人生における中でこの光景は解放されたような空間だったからである。
血に染まった戦い、それがゲームで見たものであろうと現実で見たものであろうと俺にとってそれは関係がないようなものだ。
ふと地面には三叉槍が飛び込んでくる、何故か俺はそれを拾いあげた。
誰も見ていないのだ、俺は戦力とすら思われていないらしい。
まともな人生を歩んでこなかったため第二の人生は全うな人生を送りたいと思い続けていた。
だがそのためにも悪魔は駆逐せねばならない。
奴らがやっている事はまさに俺のような脆弱を痛めつけるだけの無慈悲な行為なのだから。
この世界に安穏など無いと言う訳だ。
「お前達! 俺の人生を無茶苦茶にしてんじゃねえ!」
「あ? なんだあいつ」
声は通ったようだ。さてここからどうするかだが素手じゃまずあいつらに勝ちようがない。
数百メートル先にある天使が使っていた三叉槍があちこちに落ちている。
あれを拾い上げて奴らと戦えば勝算は少しはあるだろうか。
生憎だが剣術など持ち合わせている訳は無い。
放課後に学校にある箒ほうきでチャンバラをした事があるくらいだ。
それでも何としてでも奴らと戦いたいという意志はあったのか。
地面を蹴り上げて三叉槍が落ちた場所にへと走って向かう。
ゲーマー魂がそうさせたのだろう、VR(仮想現実)でならいくらでもボスキャラと戦っていたため反射神経はずば抜けていい筈だ。
しかし運が悪い事に察しのいい悪魔の姿をした者が一体、走って三叉槍を構えこちらにへと走ってくる。
その姿は足を地面に付けず背中につけてある翼だけで宙を飛んでいた。
そして見かけだけではない人外とも思えるような速度で前方に槍を突き刺してくる。
その合間は一瞬だった、その突き刺す三叉槍は空を切り悪魔の姿をした人外は「おっとっと」と言いながら反動に逆らえずそのまま全身していた。
一方で安易とは決して言えないがその一瞬の攻撃を見逃さず紙一重で避けきった俺は再び足を止めず三叉槍を拾い上げる。
「っち! 運がいいやつめ、やっちまえ!!!」
声をあげたのはゲームで例えるならボスといっていいだろうか。
明らかに周りと比べて体格がでかく見た目も歪なオーラを纏っていた。
眼は薄黄色でありそれを埋め尽くさんばかりに目が充血し始めている。
見た目だけで迫力に気圧されそうではあったが、拾い上げた三叉槍を奴に向かって突き刺そうとした。
「っぐっ……ぐはっ」
しかし案の定だ、その三叉槍は化け物に刺さる訳もなく手元から滑り落ちた。
逆に三叉槍を刺されたのは自分であった、しかし不思議と驚きはしない。
チャンバラで磨き上げた腕で奴を圧倒する事が不可能など極必然の事なのである。
世の中そんなには甘くないといったがそれは万国共通、否、どの世界でもそうなのである。
死後の世界からの死、それは誰もが予想しない世界である、なんせ死後の世界自体で誰しもの常識はそこが終焉となって止まっている筈なのだから。
そこで意識は途絶えた、俺はまたしても死ぬのか。
ここで死ねばもう自分という存在は永遠に戻ってこないのだと悔み続けた。
しかし不思議と三叉槍に刺された後の心地は良かった。
これでようやく天国に行けるのだと思ったのだろうか。
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