第9話

酒場に戻ってきたテイはバルトが用意した少し遅い昼飯を食べていた。


「これなんて名前のスープ?!」

「これはな、ヴィシソワーズっていうんだ。芋の冷製ポタージュだな。芋だけはたくさんあるからな。それに暑いと冷たいスープもいいだろ?」


一口食べると口の中に幸せが広がり、冷たくのど越しもよい。

日中暑い中暖かいスープを飲むのは嫌になるが、バルトはそれを見越して冷たいスープを出してくれた。


「冷たくておいしいよ! でも材料たくさん使ってそうだけど。」

「芋ならどこでも売ってるからな。」


保存がきく芋は町の主食になっている。

そのため収穫不足になっている今でも備蓄された芋だけは安く売られていた。

そして、このスープの冷たさにテイは疑問に思った。

井戸水や川の冷たさより、どうして冷たいのか?


「今の時期にどうやってこんな冷えたスープだせるの?」

「ふふふ、実は魔法だ。」


バルトは得意げに言ってくる。

一度、フリーズしたテイは驚嘆し聞いてくる。


「え? バルトも魔法覚えたの?!」

「も?っておまえ、ダスクからもらったスクロール本当に使えたのか? 俺は少し変わり者の貴族から魔道具をもらったんだよ。おまえの腕にはこれくらいの道具は必要だって言って押し付けられたんだ。」


そういうと、バルトは店の奥から鍋が一つくらい入りそうな鉄製の箱を持ってきて見せてくれた。


「これが魔道具?」

「そうだ。仕組みはわからないが、ここに魔石をいれると動いて、このダイヤルで温度を調節するんだ。せっかく良いものをもらったからな、最近はこの道具を使って何かできないか研究してるんだ。」

「やっぱり、酒場やめたほうがいいんじゃない?」

「そんなわけあるか!! それより、おまえ本当に魔法を覚えたのか?」


実はテイがスクロールを手に入れた日、テイは知らないがダスクからスクロールは一度バルトに渡り、バルトはその場で目を通したが読むことができなくてバルトは自分に才能がない事を知った。

そんなバルトはテイが本当に魔法を覚えたのかが気になった。


「『水滴』、どう? これしか覚えてないけど。」


バルトの目の前でテイはすぐさま魔法を唱えた。


「お、.....おお。....使えるんだな。」


バルトも魔法自体は見たことがなく、おとぎ話に聞く魔法や酒場にくる冒険者から聞くような攻撃的なものが魔法だと思い込んでいた。

そのため、テイの魔法を見るとどうしても、これだけか?と思ってしまう。

だが、これすらできなかった自分の事も思いだし、その言葉をどうにか口に出さず飲み込んだ。


「魔法を覚えるための魔法でこの魔法を使えば使うほど魔力が上がるらしいんだ。」

「そりゃ、すごいな! いつかおまえは大魔導士でもなれるかもしれないな!」


テイもバルトの何とも言えない表情と雰囲気を察し魔法の説明をした。

バルトも自分の対応がまずかったと思い直し、わざとらしいが手放しで喜んだ。


「すまんな、話し込んで食べるのを止めさせて。ほら、そっちのフィッシュフライ食べてみてくれ。油は高いが、酒のあてにはいいと思ってな。水位が下がって魚だけは大量に獲れらしく、そのおかげでうちでも安くだせるんだ。」


大人の常套句の困ったら話題を変えるという手を使ったバルトはテイにフィッシュフライを勧める。

勧められるがままテイはフィッシュフライを食べると、サクッと香ばしく、川魚特有の臭いや味はハーブを上手く使い食べやすく、尚且つおいしく料理されていた。


「どうだ? 悪くないだろ? 今回はソースより塩がいいと思ってな。そこの岩塩をかけて食べてみてくれ。」

「うん! 最高だよ!」


語彙が多くないテイは精一杯感情を込めて言った。


「そうかそうか、それは良かった。まぁ魚が大量に獲れるのもあと数日で終わりになるらしいがな。」

「なんで?」


雨が降らず、日に日に川の水位が下がって今その言葉はおかしいとテイは思った。


「中央の公園の祭壇は見たか?」

「うん、みたみた。あそこ少し混んでたよ。」

「どうやらな、近々祈祷師を呼んで雨乞いをするらしいぞ。」

「魔法?」


雨乞いと聞き、テイは魔法を連想した。


「いやいや、魔法と祈祷は違うらしいぞ。貴族の話だと祈りを神に捧げ、願いが届けば雨が降るらしい。」

「へぇ、そうなんだ。雨が降るなら嬉しいね。」

「そうだな。2か月以上降ってないからな。そのせいで何かと物価が上がって困ってる奴も多い。雨さえ降れば庶民は救われるぜ。」


近日中に雨が降る情報はとてもテイにとってもありがたかった。

ため池の水もそろそろ干上がりそうで、水がなければ当然野菜は育たなくなり、枯れる。

そうすればテイの収入はなくなる。


「ありがとう。今日も美味しかったよ。次は来週に野菜持ってくるよ。」

「ああ、頼んだぞ。」


酒場から出たテイは出店で夕飯用にやきとりを買い、テイは家に向かって歩きはじめた。

検問ではまたスクロールを持っている時注意された門番に遭遇し、テイの持ち物はしっかりと確認される事になったが町から出るのを許された。

荷車を引きテイは家を目指した。



いつもなら何もない道中、今日は町と村のちょうど半分当たりでテイは倒れた人を発見した。

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