第2話
その後男がどうなったのかはわからない。もちろん、ニュースにも載ってない。次の日にもう一度訪れたが、何の変哲もなかった。警察が『立ち入り禁止』の境界線を貼ることもなければ、以前と変わらぬ静けさを保っていた。
もしや、あれは夢だったのではないだろうか?と日が経つごとに思い始めた。
じりじりと肌を焦がす太陽の光と、空気中に含まれる水分を体にまとわりつかせてくる夏独特の気候に、頭がやられたのかもしれない。
だけど僕は、あれから色々な『初めて』を切り取っていった。
初めてナンパした、3秒。初めてのキス、1秒。裸は見た事あるからノーカウント。といった感じで。
そしてルールを決めた。犯罪はしない。人も動物も殺さない。別に死ぬところを見たくないし興味もない。血は苦手だ。
終わりも決めてある。あの男のように、初めて死のうとする。それでおしまい。
ふう、と一つ息を吐きながら、順番に電車に乗り込んだ。ほぼ定刻通りの電車に乗り、学校へ向かい授業を受け、また電車に乗って帰る。同じことの繰り返しだった。
就職したって変わらない。着ている服と向かう先が変わるだけだ。そう思っていた。
しかし、僕の中で一つだけ小さな変化があった。
それが、あの男が言っていた「初めてを数える」こと。変わらない日常の中で、それだけが違っていた。何が前と違うかを探すようになった。より多くのものを見ようとしている気がした。
何だか、少しだけわくわくしている自分がいた。
出入り口付近の手すりに寄りかかり、前なら見ようとも思わなかった景色を眺める。直線とカーブでは、雑草でも見え方が変わる。手前と奥では時間の流れすら変わって見えた。きっと、昼間と夜でも見え方は違うだろう。そんなことを考えた時だった。
黒い塊が揺れた。
長く、緩やかなカーブ。その終わりにある踏切だった。
パアーーーーーンという警告音と共に、電車は大きな力を乗客に加えた。
咄嗟にその力に抗うことのできなかった僕は、反対側の手すりまで吹き飛んだ。
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