第31話
「マスター、今度こそ、ワンコと遊びたーい!」
却下。奈江の言うことに付き合っている暇はない。早く天活の内容を決めなくてはいけないのだ。そうでなくても最近サボりすぎなのだから。そんな時、父の会社の電話が鳴った。俺は恐る恐る、その電話に出た。
ー岩場さん、助けてください。お願いです!ー
またしても、顧客からだった。いきなり物騒なことを言われたが、話は近所のベーカリーの社長からだった。契約があるらしいから、助けに行かなければいけないのだが、力になれるかどうか心配である。
「いやー、お父さんが留守なのをすっかり忘れていたよ」
俺は悪意さえ感じた。父の会社の顧客はみんなして厄介ごとを持ち込む。契約だから仕方がないのだが。
「わんこ蕎麦大会の配信見てたら、つい発注ミスしてしまって」
多過ぎるだろ、発注ミス。だが、配信見てくれたなら文句は言えまい。契約もあるし。俺は真剣に解決策を考えた。
「マスター、またお仕事なんだ。奈江、ドッグとプレイしたいのに」
奈江の一言に、俺は閃いた。
「社長、コッペパンを焼きはじめて下さい。売りまくりますよ!」
「あっ、あぁ。分かった。直ぐにはじめます」
「あおいちゃんとキャサリンは、配信の準備をして」
「分かったわ」
「合点デス」
「それから、羽衣は、エプロンを7着用意して」
「了解!」
俺の企画はこうだ。金魚達に配信で店を宣伝してもらい、売り捌く。ただそれだけなのだが、そこに奈江の一言をスパイスした。名付けて、『ホットドッグ大食い選手権』である。金魚達の配信は好評、社長のパン焼きも順調。羽衣もグッジョブで、用意してくれたエプロンを皆に着てもらうと、思った以上によく似合っている。みんなかわいい。
「そういうことなら、みんな、これを掛けて」
羽衣のアイデアで前掛けをかけると、さらに雰囲気が増した。後は11時のオープンを待つのみだ。今日は、ホットドッグを売りまくるぞー!
開店と同時に数百人がエントリー。皆が懸命に働いてくれたお陰で延べ2万5千人がエントリーしてくれて、企画は大成功。支払いも余裕で済ませることが出来た。
「コッペパンは見るだけでも嫌ね」
「シバラクハ、ブレッドハ全てキャンセルデス」
疲労困憊のようでいて、皆の顔にはどこか達成感があった。
「いやー、本当に助かりました。ありがとうございます」
パン屋の社長は恐縮しきりだった。本当のところ俺は大して働いていない。皆を適当に励ましていただけである。だから、そんなに感謝されるなんて、俺の方も恐縮してしまった。
「良いんですよ、力になれて嬉しいです!」
俺はパン屋の社長を事業部長ということにして、自らは社長となった。契約だから仕方がないのだ。
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