第7話

桜の胸筋に興味を示していた男たちに、我が胸筋の方が素晴らしいことを理解させた。

あまりの素晴らしさに、気絶してしまったが。

するとなぜか、メイたちが呆れたように喋り出した。


「メロス殿は、やっぱりエルフらしくないな。

普通、魔法で沈めそうなものだが」


「凄いですね、あの人たちを締め上げるなんて」


「文字通り締め上げたね……。

まあ、驚くだけアホらしいから、慣れた方がいいよ。

それにしても、ギルドで問題がおきたのに、誰も来なかったね」


桜が呟く。


「申し訳ありません。

手を出そうとした時には、そこの、エルフ? の方が締め上げてしまったので」


桜に答えたのは、突然現れた女性だった。


「シエラさん」


女性は、どうやらシエラというらしい。

赤い髪の美人だ。

なぜか、エルフと同格くらいの美女ばかりに出会っているな。

どうでもいいが。

胸は、ミリーとメイの間くらいの大きさだ。

やはり、桜がシエラの胸に視線を送っていた。

その視線を少し訝しげにシエラは見た後、口を開いた。


「まず、本ギルド所属の冒険者が、一般人であるお二人に迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます」


ギルド職員のシエラが頭を下げた。


「彼らの今回成功した報酬の全てと、ギルドからの迷惑料を合わせてお渡しいたします。

今回のことをそれで流していただけると、幸いです。

いかがでしょうか」


このシエラという女。

素晴らしい筋肉だ。

しなやかで、無駄のない、引き締まっている。

我が領域にはまだまだ達していないが、それでもよく鍛えているようだ。


「あの、聞いてます?」


「あっ、そこの筋肉は、シエラさんの筋肉に興奮してるんだと思います。

無視して大丈夫ですよ。私が対応します。

その条件で大丈夫ですよ」


「興奮している?

それはそれで身の危険を感じるのですが、納得していただいたなら、よかったです」


シエラが微妙な顔で笑った。


「少々お待ちください。そこの狼藉者たちを捕縛するので。

『土将の檻』」


その言葉と共に酔っ払いを、土で出来た格子状の檻が覆った。


「ではカウンターへ。

こちらです」


シエラがついてくるように促した。

言われるまま、ついていく。


「それではこちらを」


シエラが、桜の顔より大きい袋を、机の上に置いた。

僅かに見える中には、金貨がたっぷり詰まっているようだ。


「うわっ。すごいお金」


「メイ、はしたないぞ。

……よかったな、桜、メロス殿。

数年は遊んで暮らせる金額だぞ。

彼らは、なんの依頼を達成したんだ?」


「中位の地竜の討伐です」


「それはすごいな。

騒ぐのも無理はないか」


「そんな人たちを、相手が酔っ払ってたとはいえ、瞬殺したんですね。

メロスさん」


どこか引いたような顔で、ミリーとメイは我を見ている。

なぜだ?


「とりあえず、メイとミリーさんもどうぞ」


桜が、適当に2人に金貨を渡した。

思わずという感じで、2人は受け取った後、慌て始めた。


「なぜ、私たちに⁉︎」


「こんなのもらえませんよ」


「2人も彼らに迷惑をかけられたでしょ?」


「しかし、メロス殿はいいのか?」


「構わない」


我が筋肉は、金よりも価値がある。

いや、我が筋肉の前では、金など紙切れ同然だ。


「うーん。

わかった。

本当にありがとう」


「ありがとうございます。

あっそうだ。

シエラさん。

サマーさんからの依頼ってありますか?」


「今は、まずこちらの手続きをさせてください。

それでは、えっと、メロスさん、桜さん、でよろしいですか?」


「あっ、すみません。

そういえば名乗っていませんでしたね。

そうです。私が桜で、こっちがメロスです」


桜がシエラに答える。

シエラはそれに笑って頷いた。


「それでは、こちらの書類をご覧ください。

受け取りのサインと、これ以上の賠償を行わないことの承諾書になります。

ご一読いただいて、納得していただきましたら、サインをお願いします」


一読したところ、全く問題はなさそうだった。

さらっとサインをする。

桜もサインをした。

我が教えた読み書きが、早速役になってよかった。


「ありがとうございます。

所で、メイさん。

なぜ、この場でサマーさんの依頼について聞かれたのですか?」


「そちらのお二人が、サマーさんの依頼を受けたいそうなんです」


「ということは、お二人とも冒険者登録をするということで、よろしいでしょうか?」


「ああ」


「よろしくお願いします」

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