エルフは筋トレ本を拾った。 →聖書として崇めた。→筋力が上がった。
青桐
第1話
エルフでありながら、魔法の使えない少年・メロスは、瘴気の森を歩いていた。
本来エルフであれば信仰上、立ち入るこのないこの瘴気の森だが、メロスにとっては安息の地だ。
メロスはエルフの里ではいないものとして扱われている。
唯一面倒を見てくれているセリヌンティウス爺さん、通称セリ爺も、他のエルフがいる前では、メロスのことをいないものとして扱う。
だから、昼間は瘴気の森に篭るのがメロスの日課だった。
「なんだこれ?」
メロスがいつもの、何故か存在しているふかふかの草が生えそろった広場に来ると、中心に一冊の本が落ちていた。
その表紙では、とても精細に描かれた男性が、筋肉美をひけらかしている。
そしてその男性の上には、メロスには読めない字で『週刊 筋肉を作ろう 創刊号』と書かれていた。
メロスは本を手に取ると、中をペラペラとめくる。
書いてある字はまったく読めないが、細かく書かれた絵の通りに、体を動かしてみた。
「なんだこれ、体が、体が喜んでる⁉︎」
彼はその日から、本が落ちていた場所に毎日通い、描かれた通りに体を動かすことを日課にした。
本を拾ってから7日後、いつもの場所に行くと新しい本が落ちていた。
その本には『週刊 筋肉を作ろう vol.2』と書かれている。
もちろん、メロスには読めない字だが、新しいものであることはわかった。
彼は歓喜した。これらは神が自分に与えてくれたものだ。これこそが聖書だ。彼は2冊目に描かれている動きも日課に取り入れた。
そしてまた、7日後、『週刊 筋肉を作ろうvol.3』を拾う。
そうやって、7日ごとに拾うことのできる聖書の教えを、彼はひたすら繰り返し、364日が経った。
『週刊 筋肉を鍛えようvol.53(最終刊)』
なぜか物悲しさを感じた。筋肉が、この聖書を拾えるのは、最後だと伝えているような気がした。もちろん、最後の教えも実行する。それから7日後、やはりもう聖書は落ちていなかった。神は全てを伝えてくださったのだろう。あとは自分が実行するだけだ。そう考え、それからもそこで、53冊の聖書の教えをひたすら実行し続けた。そうして、100年が経った。
彼は全ての動きを瞬く間にできるようになった。言葉の意味は、筋肉が教えてくれたように思う。
腕立て、腹筋、スクワット。呪文のような響きを、筋肉が叫んでくれる。
この素晴らしい動きを教えて回らなければ、そして、聖書の言葉をより深く知らなければならない。
旅に出よう。そしてこの聖書の文字を読める者を見つけ出し、聖書の言葉についての教えを請うことを決意した。
聖地に神殿を建て、聖書を奉納する。すると、1人の女性がふわりと現れた。
「まさか、女神か⁉︎」
「いや、違うけど。……それ、コスプレ?」
「ふむ、コスプレの意味はわからないな。
貴方は、女神でないなら……侵入者か?」
「侵入も何も、ここがどこかもわからないんだけど」
本当に困惑した様子を、女性は見せた。
「ふむ、では自己紹介からしようか」
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