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「今日はどうもありがとうございましたっ」

「ああ、いえいえ。俺もあいつらの敵だったので。今日はたまたまですよ」

「おかげさまで助かりました! 今日は好きなだけ頼んでください! お代はいただきませんので」



 軍との戦闘後、俺は窮地に追い込まれていた風俗店の連中に感謝――頼んでいないし、それこそ見返りなど求めていなかったのだが――された。炎を後ろ盾に偽物の武器を片手に持った少年が軍を殲滅したのだからきっと恐ろしかったのであろう。その場の空気というか、見えない権力に脅されるように彼らは俺を店に招き入れた。



「そんなことしていいの? まあ、俺もかねもってること少ないから助かるけど」

「今日の営業は、軍にめちゃめちゃにされましたから。もう店じまいです。好きにしちゃってください。店の女の子もみんな無事ですし。ほんと、良かったっす」

「ああ、じゃあ食べ物とコーラもらえる? 果物じゃなくて食べ物ね。着替えと休憩してからでいいから」

「了解しました!」



 小太りでも禿げでもあり、軍の尋問に涙目になりながらも全力で抵抗していたおっさんは、ガキ一人の襲撃に救われたとまたもや泣いて喜んでいた。軍の敵ではあるが、俺はこいつの味方になったつもりはない。今後の警備も泣いて頼まれたが、俺が守るのはこの街であって違法風俗店じゃねぇ。



「お客さん、私の膝枕きもちいいですか?」

「よくわからない、ってのが正直。初めての経験はこそばゆいものだな」



 軍の連中はあれから全員が俺に銃口を向けてきた。仕方がないからその銃口を全てへし折ってやった。武器と戦意を失った兵士はただの人間だ。おもちゃでしかない偽巨大中華包丁は戦車よりも脅威に思える。向こうは戦略的に撤退したのだろうが、こちらは戦略的に大勝利である。


 これで終わるような連中ではないだろうが、退けることに成功したことは大きい。二度とこの街に出入りしないことが確認できるまで俺は戦う。長くなるだろうが、必要なことだ。



「本当にありがとうね。私、まだこの仕事しないといけなかったから。あそこで引っ張り出されてたら駄目だった」

「そうかい」



 そいつは意外だったな。人を半殺しにして感謝されるとは思えないし。



 この街に正しさなど必要ない。軍による制圧も統治も、誰も求めていない。正義も合法もすべてが違法だ。なぜならここが裏街と呼ばれ、この俺が縦横無尽に飛び回るからである。



「お姉さんは着替えなくていいの? ドレス破けてるぜ」



 明るさをフォトショップした赤のドレスからはピンクの下着が見えている。思春期のガキに見せて刺激をそうそう与える者じゃないぜ? それに今は戦闘後の興奮状態だ。何をするとも分からない。



「あら、ほんとね」



 興味なさそうである。ただ子猫を撫でるように俺の頭をさする。俺はなんとなく癪に障ったので、起き上がる。そこでようやく彼女の遠い目が元に戻った。



「若いな。俺ほどじゃないが、未成年か」

「何歳だと思う?」

「……女性に年齢の話しをしちゃいけないんだったな。悪い。忘れてくれ」

「あら、紳士だこと」

「気障ってるだけだよ」



 そこで俺の前に机が用意され、卵チャーハンがでてきた。水もある。果物もなぜかある。俺はリンゴを何度かかじった。雑に芯だけ残して女子高生の膝に戻った。



「高校生だろ。理由を聞くほど野暮じゃねぇが、褒められた心掛けとは言えないな」

「あら、どうしてわかったの?」

「制服」



 俺は部屋の奥を言葉で指し示す。



「女子高生のコスプレに需要があるだけかもよ?」

「そうだな。ガキの俺には分からない世界だったな」



 「寝るの?」と聞かれたので「寝てもいいかい?」と許可を求めた。軍との第二衝突はこれで幕を閉じ、次が開幕する。


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