音学解
詩一
LOVEはじめました
第一回目の音学解はMr,Childrenの「LOVEはじめました」です。
有名どころという安全牌を打たせていただきました。
さて、私がこの歌を聞いた時、まずはじめに思ったのは「冷やし中華はじめました」みたいな感じのタイトルだなという事。次に歌詞の内容が凄く暗いなという事。最後に、早口に喋る様に歌い上げられているけど、歌詞の内容は物凄く深いのではないか? という事。
私がこの歌詞から感じた事、また自分なりの解釈を、歌詞と合わせて紹介させていただきます。
「相変わらずだね」って 昔付き合ってた女にそう言われた
良く取っていいのか悪い意味なのか?
良く分からずしばらくヘラヘラ笑ってた
昔付き合っていた女性と今でも交流がある主人公(以下A君)。その女性に「相変わらず」と言われて、どういう意味で言っているのかわからないというところからスタートします。この時A君は恍けているわけではなく、本当に分からずへらへら笑っているわけですが、ここでスポットライトが当たっているのはその事象そのものというよりは、彼らが抱えている背景にあると思います。
女性が言った意味が良くわからず受け身になってしまうA君は、果たして付き合っていた時はどうだったのか。恐らく同じような行動を取っているのでしょう。であれば、彼らの関係性というのは確かに男と女の関係であったには違いないが、それでいて軽薄な関係だったともとられます。
友達としての延長線上からなんとなく体の関係を持って、それで付き合ってみたけど、お互い合わない部分を見つけてしまって、まあいいや別れようなどという、別れ方をしたものと見受けられます。もしも劇的な別れ方をしたのなら、別れた後に会う事もないでしょうし、へらへらもしないと思いますので。
不意に視線を上げれば 極彩色 ネオン街の光だ
おやじに買われて ホテルで刺される
少女を描いた 映画を思い出した
ここで唐突に情景描写が入ります。ここは都会でしかも今は夜である事が窺えます。
そしてそんな煌びやかな風景を見たのに、思い浮かんだのは暗い映画の凄惨なシーンです。A君の憂鬱な心理の描写がされています。
同時に、一見華やかに見える都会も、一歩路地を裏手に入れば、排煙で黒く煤けた壁や、回収される前の生ごみが入った大きなゴミ袋が、物憂げな表情を浮かべてこちらを見ている。そんな情景も浮かんできます。
路肩に止まった車で売ってる 何たらケバブーをほおばる
屍 回してあぶって 切り裂き 小さくなった そのお肉をほおばる
ケバブーの料理方法が書かれているだけなのですが、その詳細の言葉を変えただけで、ここまで不味そうなものに見えるという事が分かります。
つまり、みんなが美味しそうに貪っている食べ物全部、見方を変えれば全部ゲテモノだとも取れます。
更に、屍という言葉を使う事によって生命を殺した事によって得たものだという事が伝わってきます。生命をただ食べるだけでは飽き足らず、回して炙って切り裂いて、ようやく口に運ぶ。これは人間だけに見られる行為です。こういう残忍な行いをしなければ生きていけない人間の愚かさが伝わってきます。
LOVE はじめました
そいつで大きくなりました
LOVE はじめました
あぁ お口に合いましたか?
秀逸な導入だと思います。先程までケバブーという食べ物の話をしていたわけですから、ここで「LOVEはじめました」と言われれば、もう冷やし中華にしか聞こえないわけです。
冷やし中華から連想されるのは夏ですが、もっと限定的に言葉を選ぶなら「期間限定」もしくは「一過性のもの」とも取れます。
時期が来たから始めただけで、また飽きる頃には終わっているよ。恋愛とはその程度の物だよ。と言われている気がします。
そいつで大きくなりました。というのは、恋愛をして人として大きくなりました。という意味にも取れますが、この場合は「恋愛」は「食事」と大差なく、単に体重が増えるみたいに、悪い意味としても取れるようになっています。
また、お口に合いましたか。という問いかけ。これは貴方が満足するようなコイバナ、或いは創作物(ドラマ、小説、歌など)でしたか。と問われているのだと思います。
殺人現場にやじうま達が暇潰しで群がる
中高生達が携帯片手にカメラに向かってピースサインを送る
犯人はともかく まずはお前らが死刑になりゃいいんだ
でも このあとニュースで中田のインタビューがあるから
それ見てから考えるとしようか
人が死んでいるのにお構いなしに自分が目立つことばかり考えて、本当に不謹慎極まりない奴らだ。犯人も死刑だけど、まずお前らが死んでしまえよ。と、A君はニュースを見て憤っています。被害者の事を思えば、行き過ぎだと思われるA君の思想も正義と見て取れます。
しかしここでよくよく考えてみると、A君にとっては中田のインタビューの方が優先順位が上な事に気が付きます。
そう。つまりA君も憎むべき彼らと何ら変わりない野次馬の一人に過ぎないのです。
それは私たちにも同じことが言えるわけです。凄惨なニュースの後に、コーヒーなんか飲んで、先のニュースなどなかったかのような振る舞いでゲームをやったりするのです。一人の死に心から向き合えない現代人の薄弱な仲間意識を揶揄しているのだと思われます。
LOVE よく冷えております
時代の向かい風も受けて
LOVE よく冷えております
あぁ イッキに飲み干せたらな
これも冷やし中華になぞらえています。そしてそれは良くない事だというのが、二文目の「時代の向かい風を受けて」と言うところで表現されています。
しかし次の「イッキに飲み干せたらな」という言葉で、A君の諦観が見て取れます。
どうせ恋も食い物なのだ。どうせいつか終わるのだ。どうせ初めから冷えていて、最後まで温まることはないのだ。ならばいっそのこと、さっさと終わってしまえばいい。と言うA君の声が聞こえてきそうです。
この街の中で押し合いへし合い 僕らは歩いてく
多少の摩擦があっても 擦れずに
心を磨いて行くなんて出来るかなぁ
ここはほぼほぼ歌詞の通りのままの解釈をしました。ここで急にストレートな歌詞が入ってくるのにも意味がある様に感じました。
これは変換点なのではないかと。
今までのネガティヴな発想から、ややポジティヴ目に移行していくポイントなのではないかと。
坊主が屏風に上手に坊主の絵を書くと言うだろう
なら僕は愛してる人に 愛してるという ひねりのない歌を歌おう
意味なんかないさ 深くもないし 韻だって踏んでない
ただ 偽りなく 飾りもない
まぎれもない 想いだけがそこにはあるんだ
ここもほぼ歌詞の通りの解釈をしました。
ただ、いったい今までの諦観や絶望はどこに行ったのだろうという感じはあります。
しかし捉えようによっては、A君は一度そういう目を見たからこそ、失意の先にある自分が思う本物の「愛」を実現したいという願望があるというようにも見れます。
そう言った視点から見ると、綺麗事ばかりでくだらないお遊びみたいな恋愛が蔓延るこの世の中だけど、自分だけは真実の愛を探そう。そしてその為に唄おう。という覚悟みたいな思いがあるのではと感じます。
LOVE はじめました
毎度毎度のことですが
LOVE はじめました
去年よりおいしくできました
LOVE はじめました
そいつで大人になりました
LOVE はじめました
あぁ お口に合いましたか?
毎度毎度性懲りもなく真実とは程遠い恋愛ばかりを重ねている。
でも前の時より少しだけ真実の愛に近づけたと思う。
そうやって積み重ねて大人になって行って、きっといつかは真実に辿り着けるのではないか。
ああ、この曲はどうでしたか?
最後のサビはそう捉えました。
この曲を自分なりに解釈してみて分かったことは、やっぱミスチル深いなあという事。後、個人的に最後の大サビ前のCメロは他の解釈があるのではないかという事。
私が考えるこの曲が持つメッセージは
「醜い人間が行う行為は等しく醜く、それは恋愛も同じだ。しかしながらそんな掃いて捨てる程ある偽りの愛の中からいつかは真実の愛を見つけ出すことができるのではないか。だから諦めないように唄い続けよう」
です。長っ!
無理矢理まとめた感じですが、いかがでしょうか。
私は桜井さんではないので、この解釈が正解であるとは言えません。しかしながら自分なりに「こうではないか」という事を考えるのはとても意味のある事だと思います。
折角世の中にはいろんな名曲があるのですから、ただ聴くだけでは勿体無いと思います。とは言え、名曲全てをいちいち解釈して言ったら膨大な時間が掛かるので、好きな曲に限定はされますが。
もしも私の解釈とは違うという方がいらしたら、教えて頂ければ幸いです。
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