第18話
俺は過去何度か味わったことのある浮遊感に身を任せながら思考をめぐらせる。
これは…転移魔法!?
ということはルドかシオンか…?
…いや、《そんなわけが無い。》
ということはこの世界での何者かが魔法で俺たちを転移させたのか? 一体なんのために?
クソっ、考えても分からない。とにかく今はこいつらを守らないと!
着地するような感覚と同時に身を屈め周りを確認する。
「…誰もいない?」
そこは薄暗い洞窟のような場所で、辺りに転移魔導士らしき人物は居ないようだ。それどころか、人影1つ見当たらない。
「っ、ソフィア!レイ!」
……返事がない。まさか別の場所に!?
「…う〜、ちょっと酔いました…。今の転移雑すぎですよ〜」
「………………ん。目がぐるぐるする…」
と、そんな気の抜けた声が聞こえ、安堵の息を漏らす。
声がした岩の方へ向かうと、その裏でソフィアとレイが下を向いてうーうー唸っていた。
はい、デコピンの刑。
「あいだっ!」
「…………ぃだい」
「お前らもうちょっと警戒心を持て。ここがどこかも分かってないんだぞ」
「しょうがないじゃないですか!酔ったんだから!」
「ミアを助けようと息巻いてた奴が酔いごときに振り回されるなよな…」
「う、それは……すみません」
「………………うん、ごめん」
「うむ、分かればよろしい。…で、ここは一体どこなんだ?」
「洞窟…ですね。それも天然ではなく人工の」
人工の?…なるほど本当だ。よく見ると俺たちが今いる空間だけ不自然に広がっているし、地面が踏み固められている。
それに、洞窟内が奇妙に薄暗い。具体的には、ギリギリ視界が確保出来るくらいには明るいのだ。恐らく何らかの仕掛けがあるのだろう。
「さて、どうしたもんかね………!?」
「どうしたんで…!」
急に警戒レベルを上げた俺を怪訝に思って話しかけてきたソフィアの口を急いで抑える。
ついでにレイにも静かにするようにとハンドサインを送り、先程ソフィアとレイが居た岩裏に身を潜める。
洞窟の岩肌を伝って聞こえてくるのだ、ひたひたと裸足でこちらへ向かってくる足音が。
二人もその足音に気がついたのか、黙って息を殺している。
だんだんと近づいてくる足音に、レイは涙目になっている。そんなレイの手をソフィアが優しく握り、俺は「大丈夫だ」と囁き、笑顔を作る。作り物の笑顔にソフィアが眉をひそめるが、許せ、と肩をすくめると、はぁ…、と、大きなため息を一つついた。
しっかしこんな時でも気になるとはどれだけ俺のコレが嫌いなんだよこいつ。
そんなことをしているうちにも足音は少しずつ近づき、とうとうこの空間まで入ってきたようだ。すると、足音がピタリと止み、音で情報を得られなくなった。
少し危険だが、実際に目で確認しようとすると、
ダァァァン!!!!
と、思いっきり何かで地面を打ち付ける音が耳を打った。
その音に流石に堪えきれなかったレイが小さな、本当に小さな声を漏らした。
その声に気がついたのか、ギギギ…と、錆び付いた歯車が回るような音を立てながら足音はこちらへと向かってくる。
…仕方ない。逆にこの音で小さな声しか出さなかったレイを褒めてやりたいくらいだ。どの道ミアを助けるならば対峙しなければいけない相手だっただろう。
そう思い、勢いよく飛び出そうとした瞬間、重心が少し後ろに傾く。後ろを見るとソフィアとレイが服の裾を引っ張っていた。
ソフィアは不安げな目で、レイは「ごめん…ごめんなさい…」と泣きながら。
俺はそんなふたりに小さく溜息をつき、
「俺がそう簡単にやられると思うか?」
と、不敵な笑みを浮かべる。
それだけでソフィアは「そうですね」と、安心したような表情を浮かべ、レイをぎゅっと抱きしめる。
ふぅ、やるか。
幸いまだあちらはこちらの正確な位置までは把握していないようで俺たちの岩の方までは来ていない。
まばたき一つと深呼吸。
それと同時に俺は勢いよく岩を飛び出す。相手を観察する時間を少しでも長くする目的とソフィアとレイから少しでも遠くに注意を向けさせるためだ。
そして相手をかん…さ………つ…………?
そこには確かに「敵」が居た。
そう、「敵」だ。
ただし、人間ではない。
緑の肌に長い耳、ギョロリと少しとび出た目に高い鼻。そして手には大きい棍棒を持った、小さい体……ではない。
それは俺が知っている、ゲームの世界でいわゆる初心者向けのモンスターとして出てくる魔物ではなかった。
2mほどの巨躯を持ち、筋肉隆々の体は決して初心者向けではなく中級者向けのモンスター。
いわゆるホブゴブリンと呼ばれる魔物だった。
===========================
お久しぶりです!
長期休暇の間はあまり更新できないですすみません…。
やっぱりストック必要ですね(;-ω-)
物語の方は最近ようやく動き始めましたね!このキャラ達は勝手に動いてくれるので自分でも今後が楽しみです!
ではまた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます