先輩と後輩②


「あづい」


「言うと暑くなるので言わないでください。それにしても暑いですね」


「理不尽…」


 時期は7月中旬、じりじりと太陽が俺たちを照りつけている。

 ……兎にも角にも暑い。まだ7月じゃねぇかと思うかもしれないが、ここら辺の地域はこの時期が一番暑いのだ。

 なんとうちの県が最近の日ごとの最高気温ベスト5を総なめにしている。


 こんなに嬉しくねぇランキング独占は初めてだ…。


「もうここら辺って人が住むべきじゃないのかもな」


「あー…ありますねー。山とか森とか多いくせにこの暑さですし…」


「あーー!他県行きてぇ…」


「他の県はこれから暑くなりますよー」


「あーーー寒帯行きてぇ!」


「勝手に行ってきて凍え死んできてください」


「ひでぇ……」



 もう暑さで頭がやられている気がする。自分で何言ってるかよくわからん。





「そういえばもうすぐ夏休みですよ!夏季休暇!!」


 後輩は無理矢理話を楽しい方向へ変えようと急に元気になる。


 俺もいつまでも暑がっていたいわけではないし、話に乗っておく。


「そうだな!夏休みだ!クーラーの効いた部屋でずっとゲームができるぞ!!」


「あー…そうですよね、先輩はそういう人ですよねー」


 後輩のテンションが一瞬で下がった。


「いやだってそうじゃねぇか。わざわざ外に出るとか愚者の選択すぎるだろ。てか、お前もやるだろ?」


「まぁそうなんですけどねー…。いやけど海やらプールやらなら涼しいですし、普通はそういうとこ出て来ません?」


「行くまでがだるい。てかそんなん夏イベで十分堪能できる」


 最近のゲームの技術はすごいもんで。

 俺と後輩はVRMMOをやっているんだが、本当にリアルなんじゃねぇかって思うほど感覚すごいもんな。(語彙力崩壊)


 それにあの世界には強い奴らが多いからいい腕試しになる。


 ちなみに後輩はめちゃつよい。基本PvEだがたまにPvPもやるのだ。

 後輩は理論型の天才って感じでこっちの行動先読みしてバンバン魔法打ってくる。なんとか今は勝ち越しているがいつこれがひっくり返るか分からない。


 そんなことを考えていると、後輩が頬を膨らませていた。なんだそれ、あざとい。



「先輩はそんなんだからコミュ症ぼっt「おいそれ以上は言うんじゃねぇ」コミュ症ぼっちなんですよ!「言うなっつってんだろこのやろおぉ!!!」」


 人は本当のこと言われた時に一番腹立つんだよ…!


 俺が拗ねた仕草をしていると、後輩が急に(無い)胸を張って、ドヤ顔をしながらこう言ってきた。



「もう〜先輩はしょうがないですね〜。しょうがないから!私が先輩のコミュ症を直すために一緒にプールに行ってあげましょう!」


「いや、大丈夫です」


「なるほど、予定はいつでも空いてるから大丈夫、と。それにしてもがっついてきましたね〜。そんなに楽しみなんですか???」


「俺が言った方の大丈夫の意味わかってんだろ。行かないからな」


「じゃあ日程とかは後ほど連絡しますね!ではではー」


「は?ちょっ!だからいかねぇって!」


 あ、家の中入っていきやがった! …ぜってーいかねぇからな!!










 7月某日、俺はプールの前にいた。


 ……………………………………………。




 待ってくれ!俺は悪く無いんだ!いやだってさぁ!


「プールの件ですが夏休み始まった次の日で。あ、あとプールに来たらこの前ドロップしたレア素材あげます。来なかったら今度のボス戦の時嫌がらせ魔法と名高い『吐き気』をかけまくりますからねっ♡」


 って言われたら来るしかねぇだろ!!

 いやな、言っとくけど吐き気魔法ってやばいんだからな! リアルに戻ってからも効力続いてるんじゃねぇかって思うほどだから!!


 決してレア素材に釣られた訳じゃ無い。あと一緒に送られてきた水着の写真なんかにつられてない。ちょっとだけ可愛いかもしれないと思っただけだ。うむ。



 まぁ、こんなこと言ってるが、あの後輩の魂胆はわかってる。

 あいつの姉と弟を連れて来るつもりなんだろう。


 あの憎たらしい後輩は案外テンプレ状況とやらに弱い。2人でプールなんてテンプレ中のテンプレだろ?

 つまり、何があっても自分の弱さをさらけ出してまで一人で来るわけがないのだ。










 ーーーーと、思っていた時期が俺にもありました。


 目の前の後輩は顔を真っ赤に染めて言った。


「その…弟と姉も呼んだんですけど…見事にドタキャンされまして…今日は二人です……はい…」


 ……………………………やばい。


 いや何がやばいって俺の緊張がやばい。

 だって! 誰か別のやつらが来るってわかってんなら俺だって仮面貼り付けてやり過ごせるんだよ!!けど男女二人ってこんなんまるっきり…


「…………ト」


「え?」


「………デート、なんですかね、これって」


 後輩はそう上目遣いで言ってきた。いやそれはやばいやばいやば3.14159265358………



「あははははっ!どんだけ動揺してんですか先輩!流石に耐性なさすぎますよ!もう、そんな挙動不審になってないでさっさとはいりましょー!」



 …………お前の顔も赤くなってるとこ、ちゃんと見てんだからな。









 その後は特に特筆すべきことはなかった。ふつうにプールで遊んだだけだ。



 ただ…ただ、言うことがあるとすれば、


 いや、その、誰とは言わないが、

 初めは緊張してたのに徐々に解けてきて最終的にめっちゃ無邪気に遊ぶ女の子はめっちゃかわいいと思いました。


 あと、俺はプールは全く楽しめませんでした。いい目の保養にはなりましたが。はい。



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