後輩と異世界転生したのでイチャイチャしながら頑張って強くなろうと思います。

くも

プロローグ

第1話

「せ〜んぱいっ!帰りましょ〜」


「あぁ、今行く」


 ようやく長いホームルームが終わり今この瞬間から冬休みになった。

 何しようかな〜、なんて考えていたらいつものように後輩が迎えにきた。

 クラス中の男子共から怨嗟の目を向けられるが完全無視。もう慣れた。


 後輩と他愛のない話をしながら玄関を出ると冷たく乾燥した風が頬を撫でた。


「うっわ、風つよっ、寒っ」


「もう12月ですからね〜先輩と一緒に帰るようになってから半年ですよ?」


「そうだな…、はぁ…」


「何ですかそのため息!こんな美少女と毎日帰れるんだから感謝してくださいよね!!」


 そうなのだ。こいつは今年の5月ごろからなぜか部活にも入っておらずぼっt……友達が少ない俺に積極的に話しかけてきた。

 なぜかは今でも謎である。謎。


 それに加えて6月からは帰るときにも付いてきやがるようになって大変迷惑している。だってこいつのせいで毎日男子からの殺意がこもった目向けられるんだぜ? ぼっちの俺には地獄でしかない。


「それはともかく先輩」


「ん?」


「ん」


 後輩はちょうど信号が赤になったタイミングで手を出してきた。なんだ? 意味がわからない。

 考えても分からんかったから握った。


「っ!ちょっまっ!何してるんですか先輩!!」


「え?あ、ああ、すまん。手出されたからつい…」


「先輩は女子に手出されたら取り敢えず握るんですか!!ほんっとにもう…」


 後輩は赤みの抜けない顔をこちらに向けて半眼で睨んできた。なんそれかわいい。

 そして手をパンパンと払った。なんそれ傷つく…


「って、そんなことどうでもよくて!クリスマスプレゼントですよ、クリスマスプレゼント」


「は?クリスマスはもう少し先だぞ?」


「知ってますよ、そのくらい。けど私ちょうどクリスマス頃から祖母の家に行ってて先輩に会えないんですよねー」


 ほーん、そうなのか。


「で、その分のプレゼントを今出せと?」


「です。どうせ先輩のことだから会うかどうかもわからない冬休みより確実に会える今日渡すだろうなぁ、って思って」


「はぁ…」


 なんでそこまで俺の思考を読めるんだよ…


 そう、今日俺は確かにプレゼントを持ってきていたのだ。

 いや違うんだよ? いつも世話になってるし…なってないななってない。いやけど一応知り合いな訳だから用意した方がいいのかなぁって…

 あーもう! 誰に言い訳してんだか…。渡そう、いいから早く渡してしまおう。


 そう思ってカバンの中を漁っていると、


「え?本当にあるんですか?」


 驚いた様子でそう聞いてきた。


「あるぞ。お前が言った通りだこの野郎。ほら」


 そう言ってラッピングされた小包を渡してやると、しばらく呆然としてから急に顔を真っ赤に染めて、


「ま、まぁ?先輩をいつもお世話してあげてるわけですし?貰えるのは当たり前っていうか?先輩にしてはやるではないですか及第点をあげましょうというか?」


 そんなことを喚いて顔を明後日の方向に向けた後輩は最後に、


「…ありがとうございます。」


 と、付け加えた。

 あーもう、多分今の俺の顔はこいつと同じで真っ赤なんだろう。そうやって急にしおらしくなるの反則だと思います。


「…まぁ世話してもらった覚えは無いがな」


 かろうじて掠れた声でそう言うと、


「は?してあげてるじゃ無いですか!、いつもぼっちな先輩にこうやって甲斐甲斐しく話しかけてあげて…」


「うるせぇ、ほっとけ!頼んでねぇ!」


 その後、いつものように雑談していると、唐突に後輩が聞いてきた。


「先輩、これ今開けて見ていいですか?」


 信号はすでに青を通り過ぎ、再び赤になっていた。

 これ5周ぐらいしてるんじゃね? 俺らめっちゃ邪魔じゃん。

 まぁ赤だから袋を開けるのにはちょうどいいわけで、


「だが断る!」


「ほう、シュシュですか。なかなかいいセンスしてますね」


「開けてんのかよ!俺に聞いた意味!」


「うるさいですねぇ、女の子に嫌われますよ?」


「うわぁ、理不尽…」


 あまりの理不尽さに顔を顰めていると、一際強い風が吹いた。

 まるでそうするべき、そうあるべきだと言うように。


 風は後輩が眺めるために軽く握っていたシュシュを簡単に飛ばしてしまった。

 反射でそれを取ろうと駆け出した後輩は道路に飛び出した。


 ーーー赤信号の。


 しかも運悪く大型トラックなんてものが丁度後輩の飛び出す先を通ろうとしていた。

 ………考える前に体が動いていた。


 俺は轢かれた。トラックに、だ。



 いっ…たい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい!!!!!!!!!!!!



 あまりの痛覚に頭が働かなくなる。周りの音が遠くなる。見える景色が色褪せていく。なんとなく、ああ、死ぬんだなぁって思って…意識も…なくなって……あ………もっと……………色々……………したいことあったのになぁ……………………………………。


「先輩!」


 その声で手放しかけていた意識をなんとか手放すまいと手繰り寄せる。まだ死ねない。こいつの前でなんて。…だがまあすぐにカラダがダメになるなんてことは自分が1番分かっているが。


「先輩!やですよ!!返事…返事をしてくださいよ……」


 そう言って後輩はぼろぼろと涙を流し始めた。

 ああ…もったいねぇなぁ…笑ってた方が可愛いのに…

 なんて、決して今考えるようなことではないことを考えながら、もうほぼ動かない腕をなんとか動かし、後輩の手を握った。


「先輩!?」


 驚いて後輩が顔をあげる。さっきのように握った手が払われることは無い。

 …それだけでなにかが救われたような気がした。


 もう流石に無理だなーと思い、最後に俺の自慢の後輩に、一番の友達に笑いかけてやる。


「じゃあ、な。」


「先輩?先輩!!」


 声が遠くなっていく。























 ああけど、この後輩と友達以上の関係になってたら、どうなってたんだろうなぁ…



 俺は、意識を、手放した。

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