第42話 退院
リハビリと検査を繰り返しとうとう退院の日になった
病室を出た所で声をかけられた
「退院おめでとうございます。浩二さん!」
「ありがとう、愛衣」
わざわざ退院の日に来てくれたのだ。しかし来たのは愛衣だけじゃなかった
「元気になったようだね、ブックマーカー」
「ああ、やっと物作りが再開できるよ。製本屋」
製本屋こと本郷友子も来てくれていたのだ
「今夜のパーティー楽しみですね」
「退院を祝ってくれるんだよな」
「はい!なんか母上が凄く張り切ってました」
「そ、そっか。なんか嬉しいな」
「え~っと、お二人さん?」
本郷は申し訳なさそうに二人の会話に割って入る
「なんだ?」
「多分なんだけどさ……」
「どうかしたの?本郷さん」
「二人の専属契約のお祝いでもあるんじゃないかな~って」
「え?そうなのか?」
「……あ!」
愛衣が何か思い当たったみたいだ
「専属契約をすると小さなお祝いをするって聞いた事ありますね……」
「……ただの快気祝いじゃなかったのか……困ったな」
「どうして、困るの?」
愛衣が不安そうに聞いてくる
「着ていく服がない……」
「あ~~、それは困ったね。どうする?ブックマーカー」
「そういう本郷は?」
「私は黒坂さんのお母さんが用意してくれるらしいから大丈夫!」
前に黒坂家に行った時にドレスを着てたから愛衣は問題ないんだろうな
「てことは、俺だけか」
参ったなぁ……ただの快気祝いだと思ってたからな
そんなキッチリした服なんてないぞ……あるとしたら随分袖を通してないスーツが1着だけだな
でもクリーニング出しても間に合わないしな……
そんな話しをしながら病院から出て俺の家に向かう一行
市営の製作者向けの集合住宅前に着くと、そこには一台の車が止まっていた
「お嬢様、塩谷様、本郷様。お待ちしておりました」
「あら、佐藤さん。迎えに来てくれたのですか?」
「はい。お嬢様と本郷様をお迎えにあがりました」
「えっと、俺は?」
「塩谷様はご自宅で少しお休みなさってお待ちください。改めて私がお迎えにあがります」
「そうですか。わかりました」
「では、本日17時ころにお迎えにあがります」
「ありがとうございます。では待ってますね」
「また後でね、ブックマーカー」
「浩二さん、また後で」
「ああ、後でな」
「それと、奥様からお預かりした物がございます。こちらをどうぞ」
佐藤さんが真っ白い箱の入った紙袋を俺に渡す
「紫さんが、俺に?なんだろう」
「お部屋にお戻りになってからお開けくださいと奥様は仰っていました」
「わ、わかりました」
「では、後ほどお迎えにあがります」
佐藤さんの運転する車で愛衣たちは帰っていった
さてと、俺も帰るか
とりあえず、帰ったら部屋の掃除しないとダメかな
3か月も空けてたからな……頑張って掃除しないとな!
気合を入れて玄関をくぐると、部屋は俺が出掛けた3か月前と何ら変わらぬ状態だった
あれ?もっと埃っぽいと予想してたんだけど……
おかしなことに部屋の中はどこもかしこも綺麗だった
各部屋を見て回ったが3か月も放置されていたとは思えない
「てことは、誰かが俺のいない間定期的に掃除してくれていたって事か……」
でも誰が?
考え込んでいると電話が鳴った
「はい。もしもし」
「無事帰宅されたようですね。塩谷様」
「その声は…市長?」
「はい。そうでございます」
「どうしたんですか?それにその口調止めてほしいんですが」
「そうですか?では、そうさせてもらいましょう。電話したのは部屋に何か不備は無いかの確認のためです」
「いえ、寧ろ誰かが掃除してくれてたみたいで……」
「ああ、伝え忘れてましたね。私が掃除しておきました」
「え!?市長が?」
「はい。何か?」
「……なんで市長自ら?」
「Ms.ブラック様と専属契約を交わされたので、私が奉仕させていただきました」
「……」
マジかよ……俺って市長から奉仕される立場になったのか?違和感が半端ないな
「何か不都合が?」
「いえ、とんでもない!ありがとうございます」
「そうですか。では、申し訳ないですが公務がありますのでこれにて」
「あ、はい」
通話を終了し、一息つく
「まさか、市長より上の立場になるなんてなぁ……」
あ、そうだ。紫さんから貰ったの開けてみよう
白の無地の紙袋から取り出したのは大小の真っ白な箱が一つずつと、メッセージカード?
『塩谷 浩二様
本日のパーティーへはこちらを着用してご参加ください。
黒坂 紫』
着用ってことは、もしかして⁉
大きい方の白い箱を開けると中に入っていたのは高そうな白いスーツ一式だった
やっぱり!パーティー用の礼服を用意してくれたんだ!
因みに小さい方には革靴が入っていた
でも、これ……まるで結婚式で着る服みたいだな
俺がコレを着るってことは愛衣は……まさか、な
とりあえずハンガーに吊るしておいて、後で着替えよう
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