異世界と猫と私

白田吾作

第1話

 とある夏の日。


 日陰のほとんどない帰り道を、照りつく陽の光を浴びながら歩く。足取りは重く、汗で張り付いた前髪が鬱陶しい。暑さと煩わしさで、思わず呻き声が漏れた。


 夏休みの少し前の数日間、夏風邪を拗らせて試験を休み、追試にも落ちてしまった。友人には「夏風邪を引いて試験休むとか馬鹿かよ」と笑われ、教師には「残念だけど......」と補習の宣告をされた。おまけに、教室のクーラーが故障したようで、蒸し風呂のような暑さの中で補習を受ける羽目になったのだ。散々である。私の厄年のうち一つは間違いなく今年だろう。


「厄祓いにでも行こうかな......」


 そうぽつりと漏らしたところで、コンビニの看板が目に入った。まさに砂漠の中のオアシス。九死に一生を得た思いで、半ば走りながら店内に入った。


 快適な空間を進み、手早くアイスを購入する。スパウトパックのものにした。

手のひらに冷たい感触が伝わってくる。快適だ。ずっとここに居たいとさえ思えた。

しかしながら、私の目的地はオアシスではない。

名残惜しく思いつつ、店を後にした。


 買ったアイスを喉に流し込みながら、また重い足を進める。

アイスがちょうどなくなった所で、見慣れない道を見つけた。もうすっかり花の枯れた紫陽花が植わっている。

毎日通っている通学路の筈なのに、なぜ今初めて見つけたのだろう。ゆらゆらと揺れる陽炎のせいで、細い横道はなんだか不気味に見えた。

娯楽施設の少ない田舎にこんな道があって、好奇心が刺激されたのだろうか。空のアイスの容器をポケットに入れて、鞄の紐を握り直して、ゆっくりと道に入っていった。


 華やかさのない紫陽花に挟まれた道を、二回回ほど右に曲がる。そこにあったのは、

「......なぁんだ」

 何の変哲も無い、ただの行き止まりだった。相も変わらず、陽炎が揺れて、景色が歪んでいる。

なんだか拍子抜けして、ため息をつきながら戻ろうと踵を返したところで、


 __ぐにゃり。

 歪んでいた景色が、一層歪んだ。

足取りがおぼつかなくなって、その場に倒れるようにして蹲った。何分も息を止めていたかのように、呼吸が苦しい。乱れた自分の息の音を聞きながら、段々と頭の中がぼんやりとしてくる。

意識がなくなる寸前、白い波のようなものが迫ってくるのが見えた。

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