ふぃなーれ!

カウント 10

 魔法天使は16枚の翼をはためかせる。


 パラパラと粉雪のように白い翅が飛び散っていった。


「そんなに翅をつけたら動きにくいんじゃないかしら。普通の天使でも8枚が限界なのに」


 魔法天使の翅は数のくせに大きく、一枚で人の手足くらいは簡単に覆い隠せてしまう。


「それよりも、ウィッチマジカル。これまでの経過を読者に説明するべきではないか?」


「月影の末裔?ウィッチマジカルとか呼ばないで。名乗って今さらだけれど、すっごく恥ずかしいの」


 ならば名乗らなければと思うかもしれないけれど、なんというか、そういう雰囲気だったわけだし、もう魔女という汚名を自分自身で振り払うという意味もあって――


「名前を変えただけでは、私の罪は消えたりしないけれど――ね」


「ところで、あらすじを説明するべきではないかな?」


 魔法天使が強くなったつもりのあの傲慢そうな態度で言う。


 第二形態とかになった敵って、意外とあっさり倒される噛ませ犬なのだけれど。


「ホント、世話が焼けるというか、作者でさえ一週間以上ブランクがあって忘れかけているものね」


 私は溜息を吐いた。




 私の幼なじみで女ったらしを救うため、愛しのフキちゃんと私こと魔女ピースメイカーはその女ったらしを救いに行った。


 そこには今ちょっとポンコツになっているけれど、そこそこ強敵キャラだった月影家のセラとかの戦姫と呼ばれる魔法少女と魔法天使というクソたちが待ち構えていた。


 私は魔法天使の一人、幹と。


 フキちゃんは女ったらしを救うついでにすっごくヤバい兵器を私に内緒でどっかにかくしやがった雑魚魔女ザウエルと戦っている。


「フキがザウエルと戦っているのは分からないんじゃないのか?」


「私の愛の力が告げているの。こう、思わず体中が熱く燃え盛るように――」


「いいから進めてくれないか」


 ま、大方話は終わったけれど、戦姫はほとんど私たちの味方となり、その他数多の魔法天使につき従ってきた魔法少女は魔法天使の『魔法少女は使い捨ての道具』発言に目を覚ましているでしょう。




「とまあ、ここまででいいかしら」


「ちなみに私はある程度魔法を弾くことができるリフレクターが故障している」


「本当にポンコツね」


 私はどっかの関西弁が持ってきたあの子の所持物のはずのガラパゴス携帯のおもちゃで変身し、魔法少女ウィッチマジカルとかいうものになっている。


「ちなみに、第三形態になるんじゃないかしら。昔なら最強フォーム――アギトから微妙――いや、それを言うなら平成初代からもう――」


 なんとなく自己嫌悪に陥る。


 私はもう22歳だ。そこはよく分かっている。12歳から体はなくなって、姿は12歳のままなのだけれど、やっぱり普通の22歳と同じくらいは時間を経ているわけで――とどのつまり、22歳のオバサンが魔法少女なんて名乗るのは一体全体どうなのだろうとか――


「魔法少女なんてもういいですから!」


 私は魔方陣を6つ、自分の周りに展開する。陣の面は魔法天使の方に向いている。


「着火ふぉいあ!」


 私の掛け声とともに魔方陣から光の帯が放たれる。空間を染め上げる光の帯――魔砲が魔法天使に直撃する。


 私は魔砲を放った瞬間、前へと進んでいた。


 魔法天使如きがこんな魔砲くらいでやられるわけがない。


 それに噛ませ犬かもしれないけれど、ちょっと前まで戦っていた時でも苦戦していたのだ。変身した後の戦闘力は計り知れない。


 魔方陣を手の先に作り出し、剣を具現化する。作り出すのは日本刀。一瞬で全てを切り伏せるにはちょうどいい。


 鞘の中に納まっている刀身に強化系の魔法をかける。


 日本刀の中の概念――切り裂くという概念を強化する。


 光の刃でもなく、直接魔砲を叩き込むでもなく、わざわざ日本刀を具現化して物理攻撃を加えようとすることにはきちんとした理由がある。


 具現化系と具現化系は干渉しあうことはまずない。あったとして使用者が同時に複数のものを具現化しようとしてイメージがバラバラになって具現化できないというものだった。


 強化系の魔法は干渉しあうというより相乗効果に対象の概念が崩壊する可能性があるのだが、まさかわざわざ相手の攻撃を強化しようとはしないだろう。


 魔砲の直撃を受け、煙で魔法天使の体が隠れる中、私は影に向かい刀を素早く滑らせる。


 居合斬り。


 新本の文化が生み出した、もっとも新本人の体に合った殺人術――


 シュパリ――


 と、魔法天使の体が引き裂かれる音よりも早く、しっかりと刀を受け止める感触と、バキンと刀の刃を折り曲げる音がした。


「だから舐めるなと言っただろう」


 怒りに満ち満ちた、悪魔のような声で魔法天使は言葉を紡いだ。


 背後からセラが魔法天使に切りかかる。


 音もなく忍び寄りセラは魔法天使の体を切り裂いた。


 しかし、切り裂いたにもかかわらず、音一つない。血肉の噴き出す聞きたくもない音が。


「それは残像さ」


 魔法天使は一瞬で私の背後に回っていた。そして、私の背中に優しく触れる。


「全て消し飛べ蛆虫ども」


 私の魔砲を遥かに超える高火力の砲火が私の体とセラとを包み込んだ――




「何度この展開を続けるのかしら」


 私は諦めたように呟く。


 何度も死にました――っぽい描写からの生存はやってきたからだ。


「大丈夫か?ウィッチマジカル!」


 セラが私のもとに駆け寄ってくる。


「だから、そんな恥ずかしい名前で呼ばないでって言っているでしょう?」


 私はなんとか言葉を吐きだす。


 ただでさえ、ちょっと辛いのだから――


「あなたに心配されるほどのものではないわ」


 私は笑顔を作り、無理矢理立ち上がった。


「見た目ほどボロボロではないから」


 魔法少女衣装は背中からほとんどが消失してしまっていた。


 なんとなくおしりのあたりがスース―するのだけれど、それは魔女だったころに慣れている。あの時は常に背中が開いていたもの。体はとうになくなってしまっているので寒さは感じなかった。


 前の方も辛うじて大事な部分を隠しているようだった。強い風でも吹けばたちどころに見えてはいけない場所がさらけ出されるだろう。


 胸は全く成長してない?


 いいのよ。多分、そういうさくらんぼの方が需要があるかもしれないのに。


 あの女たらしは一体どっちが好みかしら――


 アイツは昔からムッツリだったもの――


「どこが大丈夫、だ。見た目以上にダメージを食らっているじゃないか!」


 倒れかけた私をセラは支える。


 さらけ出された肌がセラの鎧に触れる。


 どうもかなり熱いようで、私は思わずセラの体から離れる。


 そのおかげで目が覚めた気がする。


「頑張って守ったつもりだったけれど、どうも守り切れていなかったみたいね」


 セラの鎧が熱を持っているということは、魔法天使の魔砲を相殺しきれなかったということだ。


 私とセラが魔法天使の魔砲を浴びる直前、私も魔砲を放って、魔法天使を相殺するように身を守ったのだけれど、セラの方にも魔力を回したおかげで私は少しダメージを負ってしまったようだった。


「どうして私を守る」


「バカ……ね」


 私はセラの頭に手を載せる。


「いい?あなたは今、自分の身を自分で守れないのよ?なら、守るのは当たり前じゃない」


「でも、お前は魔女で――」


 私ははぁ、と溜息を吐く。


 そういうところは、ホント、フキちゃんとそっくり。


「そんなの、人間として当たり前だわ。胸糞悪いのは嫌だし、なにより、本当はそんな感情論じゃないから」


 私は空を睨む。


 そこには大層な翅を丁寧に羽繕いしている魔法天使がいた。


「全く、文量を稼いぐ手伝いをしているのだから、感謝して欲しいものだ」


 魔法天使は私たちの姿を見ることもなく、丁寧に翅のチェックをしている。


 私は小さな声でセラに告げる。


「アイツは私の攻撃を受け止めた。余裕の表情で。でも、セラ。あなたの攻撃は避けたわ。戦姫のシステムはアイツ自身が作り上げたと言っていたわ。だから、性能はよく分かっているはず――」


「――つまりは、私の攻撃は今のアイツにとって脅威だと」


 結界系を用いて他の魔法の干渉を防ぐ能力が戦姫にはある。他の系統の能力を犠牲にする代わりに得た能力。それはどうも魔法天使にも有効であるらしい。


「まだ希望はあるということか」


「ふふっ」


 私は思わず笑ってしまう。


 私もそうであるように、セラもまた、満身創痍のはずだった。


 数話離れて忘れている読者も多いと思うけれど、最初のチャンスが最初で最後のチャンスだった。後一回、攻撃を受ければ私もセラもどうなるか分からない。


 そんな状況なのに――私は笑ってしまった。


 そんな状況だからこそ――セラの言葉に笑ってしまったのだ。


「そんなに軽々しく希望はあるなんて言ってしまうなんて。あなたはそんな子だとは思わなかったわ」


 別に嫌味ではないけれど、どうも魔女の時の口癖は治らないみたい。


「そりゃあ、私は星空セラだからな。それに――」


 月影星空は笑顔で言う。


「夜空お姉ちゃんが言っていたんだ。月の影はツキの光のこと。ツキの光の前では星はあかるさを失ってしまう。でも、月の影に負けないように精一杯輝いて勝っちゃいなさいって。そう言われた気がしたんだ」


「言われた気がしたって、なによ、それ」


 私はついぞ溜息を吐く。


「アイツと――フキと戦っている時に、お姉ちゃんに出会ってそう言われた気がしたんだよっ!お姉ちゃんはやっぱり強かったな。顔だけで、うん。そう思った」


「なるほど、ね」


 ホント、こんな時に大好きなフキちゃんのお話をするだなんて。


 そうよね。なんだかセラがフキちゃんみたいに思えたから、つい、笑ってしまったのね。少なくとも、フキちゃんに浮気をするわけがないもの。


「すっかり、この作品の主人公を忘れていたわ。フキちゃんの名に恥じないように、サギノミヤの、そして、鷺宮の因縁の相手を倒してしまいましょう!」

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