23rd contact ざうえる
ザウエルが浮かんでいる背後には次元の切れ目ができています。
まるで虚圏から現れた――
「そこまでにしておいた方がいいと我は思うぞ!」
ザウエルは慌てたように止めました。
次元の切れ目からは多くのワームが現れていました。
「何か用かな?ザウエル女史」
「それは作者が黒歴史にしたはずじゃなかったのか?」
キワムさんは立ち上がり堂々と宣言します。
「黒歴史さえ歴史だ!行った過ちはなくならない!大切なのは――」
「黒歴史について講釈を垂れられても困るね」
ザウエルは大きく手を上げます。
「魔法天使も無力化している今が最高のチャンスだ。さあ、魔法少女たち!世界の破壊者を生み出す生贄になってもらおうか!」
辺りから女の子たちの悲鳴が聞こえます。
これほど多くのワームを目にしたこともないでしょう。私もまた、ソラさんがやられてしまったときのことを思い出して――
拳を強く握りしめます。
「私がみんなを守る――」
「そうはさせんぞ」
ぽん、とキワムさんは私に頭に手を載せます。
「さあ!我らが同志たちよ!今こそ、そのくすぶった衝動を発散する時だ!」
うぉおぉおぉおぉ!
雄叫びとともに、どこからともなくおじさんたちが現れます。昔の3Dメガネのような赤と青のレンズがそれぞれ片方についたメガネが――
「さあ!魔法少女を救う時だ!行くぞ!」
おぉおぉおぉおぉ!
そう言って男の人たちはワームに向かって走り出しました。
「ワームが見えている?そうじゃなくて、危ない!」
男の人たちはワームの柔らかい体を殴りつけます。すると、ワームは少し吹き飛んでいきました。
「彼らには鷺宮家直伝のウルトラ拳法を教えている。ワームに対して威力を与えられるような、俺のオリジナルを、な」
キワムさんは大声で叫び、訴えます。
「俺が大罪人かどうか!フキが敵かどうか!そんなこと、今はどうでもいいではないか!今、重要なのは、目の前に人々を脅かす脅威が迫っているということ!今こそ、力を合わせる時ではないのか!」
キワムさんの言葉に魔法少女たちはみんな注目していました。
「お前たちはなんのために魔法少女になった!何にも代えても守りたいものがあったのだろう!」
ともだち。
家族。
大好きな人。
きっと、それぞれに守りたいものがあるから。叶えたい夢もあるから。だから、女の子は魔法少女になるんです。
「ウチも隠れとらんと戦わんとあかんな」
マリちゃんがワームと魔法少女たちの間に割って入ります。
「誰にだって怖いもんはある。でも、みてみ?あそこのいじめられっ子みたいなやつはアンタらみたいにふぬけとらへん。誰よりも怖がりなはずや。でも、誰にでもええところはあるもんやな。ウチは初め、アイツと敵やった。直接戦うこともなかったけど、みとって、ウチも頑張らんとあかんって思った。あんなんに負けてられへんってな。怖がるんも逃げ出すんも自由や。でも、ああやってがんばっとるヤツもおることを忘れんときや」
トラちゃんが立ち上がります。
「色々と胸のうちで納得できないものや恐れているものもいるだろう。でも、今は忘れようではないか。それぞれの覚悟を讃えるために!」
トラちゃんの言葉に魔法少女たちは立ち上がります。そして――一斉に魔法少女たちはワームに抵抗し始めました。
「全ては無駄だ。直、ロストが世界を滅ぼすんだ!なら、今のうちにやられておいた方が絶望せずに済むというのに!」
ザウエルは魔砲を放ち、おじさんたちや魔法少女の邪魔をします。
「フキ。お前はザウエル女史の相手を頼む」
「キワムさんは?」
キワムさんは私を真剣な眼差しで見つめて言います。
「世界中の少女から魔法少女にならなければならないという運命を奪うつもりだった。大事な、いや、大好きな女の子を救いたかったという悔恨から生まれた夢。それが『魔法少女になりたい』ということだった」
私はむくれます。
「俺はその夢を諦めてはいない。でも、そのためには世界がなければな」
「キワムさんは、まだ、その女の子のことが好きなんですか?」
私は拗ねたように唇の先をとがらせました。
「好きだ!」
私はキワムさんの頬を思いっきり殴ります。
「キワムさんのバカ!大っ嫌い!」
今度ははっきりと振られました。
私は空を飛んでザウエルに向かって行きます。
「ザウエル!あなたを八つ当たりでボコボコにします!」
「何故、我は八つ当たりされなければならない!」
私は作り出した剣でザウエルを切りつけます。ザウエルもまた、剣を作り出して攻撃を防ぎました。
「まあ、いい。キミにはそうとう痛手を被ったのでね。丁度良かった。キミを絶望的な世界へと導こうじゃないか」
ザウエルの背後から黒い布のようなものが飛び出してきて、それが空と地面とを遮りました。そして、完全に私の周りを包み込んで――
気がついたときには、そこは鷺宮家の時のような赤黒い空間が広がっています。
「ここは――」
「我の結界の中。我の心の世界」
ザウエルは高らかに笑います。
「さあ!楽しい殺し合いを始めようか!」
「戦う前に、いいかな」
私はザウエルに問いかけます。
「あなたはどうして世界を壊そうとしているの?一体何があったの?」
「ウザい」
「え?」
「ウザいんだよ、キミは」
ザウエルは私に向けて何かを投げてきます。それはカラカラと音を立てて、私の足元に転がってきました。
「これは――」
私は手に取って眺めます。
蒼い色のコンパクト。アオちゃんのものです。
「どうしてあなたが――」
「当然さ。我がそいつを魔女にしたのさ」
ぎゃははははは、とザウエルは愉快そうに笑います。
「どうだい?魔法少女。我が憎いだろう?そんな奴と話しあおうなど――」
「どうしてそんなことをするの?なにか苦しいことがあったの?」
ザウエルは私を睨みつけます。
「愚かな。では、どうだ。お前の両親は殺されている。すでに、な。妖精が魔法少女の両親を殺すんだ。後戻りできないように。帰るべき日常に戻さないように。どうだ?ショックだろう?怒りがこみ上げてくるだろう?悲しいだろう?」
「どうしてあなたは――」
「我のことなどどうでもいい!お前はどう思っているんだ!」
私はザウエルの言葉に答えます。
「アオちゃんにひどいことをしたのは許せません。私の両親が殺されてしまったことも――分かっていたつもりでしたが、悲しいし、怒りだって湧いてきます。でも、それを含めてあなたを理解したい。ザウエル」
「滑稽だ!」
ザウエルは腹を抱えて笑います。
「滑稽すぎるぞ!魔法少女!」
ザウエルの目は血走ってしました。
「どこまで愚かなんだ。バカらしい。我を理解するだと?お前に、お前ごときガキに何が分かると言うんだ!」
「悲しかったよね」
私は一歩ザウエルに近づきます。
「苦しかったんだよね。そうだよね」
「うるさい!それ以上……近づくな!」
ザウエルは魔砲を放ちます。それは私のすぐそばを通り抜けます。
「女の子にとって失恋は、何よりもつらいことだから」
「だ!ま!れぇえぇえぇえぇえぇ!」
放たれた球の魔砲を私は受け止めます。
「あなたは一人じゃない。私がいる。だから――」
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ねぇえぇえぇえぇ!」
幾つもの魔砲を手ではじき返します。
すごく痛くて、腕が吹き飛びそうでした。けれど、ザウエルの気持ちを受け入れてあげなきゃいけない。そんな気がして――
「殺す殺す殺す殺す殺すぅうぅうぅうぅうぅ!」
幾つもの剣がザウエルの前から私の方へと一直線に向かってきます。
私ははじき返しますが――
「うっ」
いくらかが私の体を刻み、剣を弾いた手からは赤い血が流れています。
そして、お腹には一本の剣が突き刺さり、白い衣服を赤く染め始めていました。
「もう、私には何も要らないぃいぃいぃいぃ!あの人に愛されないのならぁあぁあぁあぁ!アイツが私を利用していただけなのならぁあぁあぁあぁぁ!私の気持ちを裏切ったのならぁあぁあぁあぁぁ!」
無数の光の矢が私に向けられています。
「世界なんて要らないんだあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」
光の矢が私の体を貫きました。
痛みが体中に走って、辛くて辛くて。
でも、それよりも辛い痛みをザウエルはずっと長い間耐え続けていて――
「そんなこと、言わないで」
体に力は入らない。でも、きっとこの声は届くから!この気持ちはもう、ザウエルのもとに届くから!
「世界は楽しいくとばかりじゃない!ずっと辛いことの方が多い。でも。ううん。だからこそ、美しくあって欲しいと私は、私たちは願うから!だから――」
もう、痛みはなくなっていました。
あるのは届いて欲しい願いだけ――
「夢を諦めないで!」
最後の光の矢が私の顔めがけて飛んできます。
そして――
「うがっはっはっは!今までで一番笑った!一番愉快だったぞ!魔法少女!」
ザウエルは目の前に作られた奇妙なオブジェを見つめていた。
それはかつて人だったもの。そして、命を失い物と化した者。
「エボルワームへの餌としてやろうと思ったが、仕方がない。他の餌を探そう。生憎大量にエサはうろついているからな」
ザウエルはきびすを返し、新たなる餌を探しに行こうとした。
笑っていたザウエルは背後から音がしたので、急いで振り返る。
そこには死んだはずの魔法少女が、立っていた。
顔には光の矢が突き刺さり、赤色にひしゃげている。体中には剣でできた傷がはびこっており、右腕に至ってはどこかに吹き飛ばされていた。
どうみても生きているはずはなかった。
なのに――
「幻術か――」
少女は自らの顔に刺さった矢を残った左腕で引き抜いた。
「奇跡、です」
少女の腰についていたコンパクトから五つの光が浮かび上がる。
それはそれぞれ5人の魔法少女の持っていたコンパクトだった。
そのコンパクトは少女の周りをぐるぐると旋回する。
そして――
「夢を諦めないで。そうすれば――必ず奇跡は起こるから!」
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