15th contact すれちがうせいぎ

「コトちゃん……」


 私はコトちゃんを追って家の外に出ました。コトちゃんがどこに向かっているのかは分かっています。


「どうして……ねえ!」


 コトちゃんに対する怒りがこみ上げてきて、泣きたくなりました。


「私が頼りないから?それとも本当に――」


 私は頭を振ります。


 昨日見た、コトちゃんの傷。あの深さはコルトの傷と同じくらいの大きさがありました。つまり、きっと、もうすぐ、コトちゃんは――


「そんなこと――させないから!」


 もう、悲しいことなんてたくさんだから。


 誰も失いたくはないのだから。


「ドリーム・コンパクト!お願い!」


 私は魔法少女衣装に身を包みます。タイプ・ノーマルで魔力を節約します。


「キワムさんも、コトちゃんも守ってみせる!」


 私はスナップを利かせて手首を振ります。ポンッという音が響いて手には箒が現れました。私は箒に跨ります。


「全速力でコトちゃんのもとへ!そよぎ丘小学校へ!」


 私の通っていた学校がキワムさんの捕まっている場所でした。そこにコトちゃんも向かうはずです。小学校にたどりつくまでに合流できれば幸いです。


 それに、キワムさんを守っているのはあの謎の魔法天使たちです。コトちゃんでさえ勝てなかった存在ですので、コトちゃんと交戦することだけは避けなければなりません。


 箒は静かに宙に浮き、目にも止まらぬ速さで市街地を駆け巡りました。




「これはコトちゃんが――」


 市街地を通る国道の端は通勤通学の人々で溢れかえっていました。冬場ということもあって落ち着いた色の衣服が飛び交う中、少々浮いた色が斑点のように存在しています。


「あなた――魔法少女よね。助けて!」


 鎖で束縛された魔法少女たちが行き交う人々の中でとても目立っていました。コトちゃんが鎖で魔法少女たちを縛り上げたのでしょう。しかし、敵であるはずの私に助けを求めるなんて――


「仕方――ありませんよね」


 私はバトンを呼び出します。バトンの先に魔砲と変化系を使って光の刃を作り出しました。


「意外とやればできるものです」


「なに一人で納得してるの?」


 私よりも年の大きな魔法少女さんはしびれを切らしているようで、イライラとしながら私を睨みました。


「いえ」


 私はバトンの先の刃で鎖を切り裂きます。


 昨日戦った戦姫と呼ばれる魔法少女の一人が使っていたなぎなたの刃を真似してみました。恐らくはこのような構造なのだろうと思いつつ、鎖を簡単に断ち切ってしまうほどのキレ味に私は驚きを隠せませんでした。彼女の刃は私のものよりも洗練されているに違いありません。もし、少しでも当たっていたら――


「ありがとう。あなた、インカムをつけてないようだけれど、流しの魔法少女?」


「流しの魔法少女ってなんですかっ!」


 つい、いつもの癖でお姉さんに突っ込んでしまいました。


 すると、お姉さんはあはは、と笑います。


「まあ、偶然居合わせた魔法少女って意味だよ。ごめんな。変な言葉使っちゃって。君はこの辺りの魔法少女じゃないだろう?この辺りの魔法少女は全員召集されてインカムを渡されているはずだし」


 お姉さんは自分の耳のあたりを指さしました。そこにはインカムらしきものが見えます。


 ただ、そのインカムはすごくパステルカラーでふわふわのもふもふという感じなので、小学生が使うならともかく、中学生となると――


「なんだか失礼なことを考えていないかい?」


「いえ!私はどうも騒がしいなと思って様子を見に来ただけです!」


「なるほど」


 流石に正体がバレるのではないか、もしくは正体を知っていて表情を隠してりうのではないかと私は思い、お姉さんから逃げようと背を向けた時でした。


「ちょっと待ってくれ」


 私は体をびくりと大きく震わせます。


「君……」


「は、はい。なんでしょうか!」


 ガチガチの体で私は振り向きます。


「わたしはトラと言う。魔法少女トラだ。君は?」


「私はフ――」


 しまった、と思いました。誘導尋問です。さて、どうすれば――


「フバーハです。魔法少女フバーハ!」


「なかなか冒険で頼りになりそうな魔法少女だな」


 ふむふむ、とトラさんは頷いています。


「いや、フバーハ。本当に助かった。突然魔女に襲われてね。まだこの辺りにいるかもしれないから気を付けたまえ」


「その魔女はどこに行きましたか?」


 十中八九コトちゃんのことです。


「そのまま大通り沿いに南へと向かって行ったようだが――まさか、魔女と戦うつもりではあるまいな。魔女は君なんかよりも強いぞ。経験のある魔法少女が束になってもこのざまだ」


「戦うんじゃありません。その魔女は私のおともだちですから。助けに行くんです」


 うまくごまかしてしまえばいいのに、誤魔化してしまうのが辛くて、私はそう言ってしまっていました。


「まさか、君は――」


「私は急ぎますので!トラさん。ごきげんよう!」


 私は逃げるように箒に跨って空を飛び始めました。


「できればトラちゃんで頼むぞ!フーテンっぽくなってしまうからな!」


 トラさんは気付いていないかのように私に声をかけてくれました。


 私は魔砲で鎖に繋がれた魔法少女たちを開放しながら小学校に向かって行きました。




「親分。無事ですかい!?」


「親分と呼ぶなと言っているだろうがっ」


 トラは取り巻きの魔法少女の頭を小突く。


 周りにはフキに解放された魔法少女たちがトラの周りに集まっていた。


「しかし、奇妙なこともあるもんですね」


「何かあったのか?」


 トラは首をかしげる。


「何があったって、逃亡中の魔法少女が動けないあっしらを助けるんですから。あっしは呆気に取られてぼーっと見ているだけになりやしたぜ」


「逃亡中の魔法少女だと?」


 そう言われてトラは初めて気がつく。


「まさか、フバーハは逃亡中の魔法少女だったのか!?」


 なにかしらの想いがあってフキを逃したとばかり思っていた魔法少女たちはトラの言動に昭和のアニメよろしくとばかりにすっ転んでいた。




「待っていたぞ。魔法少女フキ」


「あなたは……」


 私は箒から降りて、その人物を見つめます。近未来的な装備で身を固めた戦姫の一人、なぎなたの子でした。


「お前をここから先に通すわけにはいかない」


「でも、大切な人たちが待っているから。助けないといけないから!それに、私たちは戦う必要があるんですか?一緒に世界の危機を救うことができるはずです――」


「お前と私、何が違ったというのだ」


「え?」


 うつむきがちだった女の子は顔を上げて私を見ます。その瞳は憎悪の光で輝いていました。思わず一歩後ずさりをしてしまいます。


「私は誰かを守るために戦ってきた。自分を犠牲にしてまでも守りたいものがあった。誇りたい正義があった。なのに――」


 女の子はなぎなたを構えました。


「今の私はお前が憎い。フキ。お前に味方する正義が。守るものの残っているお前が――憎くてたまらない!」


「待って――」


 かなり開いていた間合いが一瞬で詰められました。そして、私に向かって薙刀の先の光の刃が襲いかかります。私はバトンの先に光の刃を作り出し、対抗しました。


 ぶつかり合った刃は火花を散らします。そして、私の刃は簡単に折れてしまいました。折れた刃が深くコンクリートに突き刺さります。私を狙ってもう一度薙刀の刃が襲いかかってきます。


 私は咄嗟に騎士のような盾を作り出しながら、後ろに飛びます。盾は紙のように切れ落ちてしまいました。私はなんとか距離をとることに成功しました。


 でも、女の子は真っ直ぐ私に向かってきます。


 私はバトンを振って小さな魔砲をばら撒きます。けれど、女の子は素早く避けて、そして、私が放った瞬間の魔砲を横なぎにしました。剣を2本作り出して、強度を強化します。なんとか女の子の刃を受け止めました。


「言葉が届かないのなら――」


 弾ける火花に怖けず、女の子の目を見て言います。


「力づくでも届けて見せます!」

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