6th contact かくれが

 私はコトちゃんのもとに向かいます。


「あら。あいつら、フキちゃんを逃がしたの?」


「一時休戦ということです」


「そう」


 私は魔砲を放ちます。なるべくあの子たちのおともだちを傷付けないように撃ちます。でも、双剣の子は私が攻撃を当てる気がないと知っているように怖がることなく迫ってきます。


「アイツは生半可な覚悟では倒せないわ。なんというか、野生の勘みたいなものなのかしら。ともかく、危険よ。私一人では多分倒すのは難しかった。協力者もできてありがたいわ。フキちゃん」


「でも、あの子を傷付けないようにしたいの。あの子はあの子たちのおともだちだから――」


 あの子ばかりでなんだか頭がおかしくなりそうでした。きちんとお名前を聞いておけばよかったです。


「ふふ。フキちゃんらしい答えね。とにかく、私たちは囮ってことなのね。なるべく傷付けずに頑張るけど、危なかったら、フキちゃんが守ってあげてね。それと――」


 双剣の女の子がサッと剣を振るいます。少し離れた位置からの抜刀。つまりそれは、魔法による攻撃を意味します。


「変化系――」


 私は同じく変化系で対応しようとしました。


「ダメよ、フキちゃん!」


 コトちゃんは私を抱えて攻撃から逃れます。


「どうしてですか?まさか、複合効果――」


「いいえ、ある意味はそうだけど、今回はちょっと厄介なのよ。簡単に言うとね、彼女たち新型の攻撃は魔法で干渉ができない。つまり、基本的に防ぐことができないわ」


 私は納得してしまいます。コトちゃんは相手を傷付けないようにと気を配っていたのもありますが、それにしても戦い辛そうだと感じていました。それは回避による無駄な動きが増えていたからに違いありません。


「御名答よ。フキちゃん。もう、100点あげちゃう」


「惚気はそのくらいにしろ!」


 きりっとした薙刀の女の子に叱られます。


 双剣の女の子は変化系の攻撃の後、すぐさま双剣で切りかかってきます。先ほどまではナイフのように短かったですが、カチャカチャと空中で双剣は組変わり、今度はかなり長めの剣になりました。


 私はロッドを具現化させます。ついでに保険としてロッドと自分自身の筋力とを強化しました。


「なかなか同時使用はきついです!」


 タイプ・ソーサラーの力を得て、なんとなく魔法の系統というのを理解してきました。それと同時に、普通の魔法少女はかなりの安全装置がつけられていたことを思い知らされます。あまり魔力を消費しないように持久力を高めたのが通常の魔法少女のようでした。逆にタイプ・ソーサラーはそのあたりも自由に設定できますが、システムがストップをかけないので下手をすれば根こそぎ持って行かれます。


「くっ」


 長剣を受け止めた腕がしびれます。双剣の子もまた、強化系を使っているようです。


 また、空気を刃に変化させた変化系も使っているようで、私の肩のあたりが少し切れて血が滲みます。


「フキちゃん!?」


「大丈夫だから。コトちゃん!」


 私は双剣の女の子の目を見ます。その目は何かをずっと睨んでいるようで何も視てはいないようでした。


 魔弾を撃ち、最後の力を振り絞っていたコルトと似た目をしていました。


「まさか、この力は――」


 双剣の子は私を押し返します。私は急いで魔方陣を展開し、魔砲を撃ちます。魔砲は女の子に向かって行きますが、女の子は双剣で魔砲を切り裂きます。


「フキちゃん!危ない!」


「任せろ!」


 コトちゃんが現れるより早く、薙刀の子が双剣の子の前に立ちはだかります。


「それ以上無理をすれば体が潰れる。もう腱も切れかかっているだろう――!」


 薙刀の女の子はすっと横に移動します。それと同時に薙刀の女の子の立っていた場所から色のついたスプレーのようなものが双剣の女の子に向かって行きました。


「ホンマ、色々と叱られるやろなぁ。でも、こんなことにした奴らをウチは許さへんで――!」


 赤い色のスプレーが双剣の女の子に降りかかります。そして、関西弁の女の子はパチンと指を鳴らしました。


「あっ」


 双剣の女の子は一瞬で炎に包まれます。その女の子に薙刀の女の子が向かって行きました。そして、二人は炎に包まれながら、森の中へと落ちていきます。


「ったく、しゃーないわな」


 関西弁の女の子は腰のホルダーから水色のボトルを取り出します。


「振れば振るほど効果が上がるフルボトルってな。その設定どこにいったとか、死ぬほど振れば簡単に勝てたんやないかとか思うけど、まあいいわ。というか、ベストマッチがえらい効果を出すってのはなんでか今一説明されんかったな」


 関西弁の女の子はボトルを銃に装着すると二人の落ちた森のあたりに吹きかけます。


「はあ。ここでアンタらのこと堪忍したる。色々と大変やしな。これからどうやってアンタらと戦っていくか、やけど、まあ、手がないこともないんか。ま、今度はコテンパンにしたるさかい、芋洗って待っとき」


「首を洗ってじゃないかしら」


 関西弁の女の子は何も言わずに二人の落ちた先へと向かいます。


「私たちも早く逃げましょうか。あの薬中三人組はもう追ってこないでしょうけど、他の魔法少女が現れたら面倒だわ。大分力を消費してしまったし」


「コトちゃん。大丈夫?」


 コトちゃんは私の頬に手を添えます。


「大丈夫よ。伊達に10年間力を使わず過ごしてきたんだから。フキちゃんに会うまでに消えてしまうわけにはいかなかったもの。そうして、全ての決着をつけて欲しかったのだけれど」


 コトちゃんはどっと私に向かって倒れ込んできます。魔女の衣装も解けていました。


「でも、嬉しいわ。フキちゃん。まさか、こんな答えが出るだなんて思っていなかったもの。きっとどちらかが消えてしまう運命だと思っていた。だって、魔女と魔法少女はそういうものだから。そういう運命なのだから。でも、フキちゃんは私に運命に抗うということを教えてくれたの。だから、大好きよ。フキちゃん」


 なんだか照れますが、細かく熱っぽい呼吸をしているコトちゃんが心配で私は地上に降りて変身を解きます。


「これからどうしよう」


 コトちゃんは動ける体ではなさそうでした。でも、このままこの場にいてはあの子たちに捕まってしまいます。


「名前くらい聞いておけばよかったかな」


 私はコトちゃんを負ぶって再び商店街の方に足を運びます。隠れ家に戻らなければなりません。


「あの子たちと戦わないといけないのかな。悪い子たちじゃないと思うのに――」


 すぐには難しいかもしれません。けれど、いつか仲良くなれる日が来ると私は信じたいと思いました。




 商店街を突き抜け、少し賑わっているところから離れた場所に隠れ家はありました。


「薫さん。いますか?」


「いやあ、あんまり下の名前で呼ばないで欲しいかな?」


「しもの名前?」


「シタ、だからね!した!それと、女の子があんまりしもとか言ったらダメだよ?」


「しもきたざわ?」


「ごめん、僕が悪かったよ。僕の言葉の後だとなんでもいけない言葉に思えてきてしまう」


 ともあれ、私たちは薫さんの住んでいる道場に足を運びます。


「大分お疲れのようだね。なにがあったの?」


 私はどれほどのことを話せばいいのか悩みます。魔法少女のことはまだ言っていません。とにかく家出少女として私たちは振舞っていました。確かに、家出少女を向かい入れるなんて危ない人だなとは思いますが――


「うん。その目は僕をロリコンだと疑っている目だね。確かに、僕は世間的にはロリコンとなるかもしれない!」


 私はキンチョールを構えます。


「どうしてキンチョールを構えるのかな?」


「汚物は消毒です」


「なるほど。ゴキブリどころか汚物にまで降格しちゃったんだね!?」


「ある意味昇格じゃないですか?」


「僕の存在意義は一体――」


 なんだかたれ目のおじさんは落ち込んでいました。


「それよりも、なにがあったんだい?危険なことにでも巻き込まれたとか」


 熱っぽく唸っているコトちゃんを薫さんは見つめます。


「病院に行った方がいいんじゃない?」


「いえ、その、これは――」


 病院に行けばすぐに通報される可能性もあります。さて、どうしたものか――


「その、不良グループに私たち、喧嘩を売っていて。それで、あまり病院とかにはいけないといいますか――」


「それは大変じゃないか!?それこそ、警察に行って保護してもらった方が――」


 なんだか、すごくややこしいことになりました!


「その、ですね。悪いのは私たちの方といいますか、実は私たち、夢はギャングスターなんです」


「な、なんだって!?」


 マスオさんもかくやという驚きを薫さんは見せます。


「まさか、あなたはあの伝説のでぃお様の息子の――」


「後にたくさん出て来ましたけど!」


 ただ、意外と石仮面は好きでした。


「まあ、色々事情があるのはわかったよ。ただ、あまり無理はしてほしくないかな。僕にも君たちと同じくらいの子どもがいたから」


「……そうなんですか」


 私は気まずくなって、視線を逸らします。薫さんの干からびたような顔を見て、ある程度の事情を察したからです。


「いつものように床は作っておくから、コトちゃんを寝かせておくといい。他になにか必要なものはあるかい?お腹は空いてない?」


「私は大丈夫ですが――」


 私はコトちゃんを見ます。苦しそうな姿を見て、意識があるのかないのか、あっても私たちの声が聞こえているのかは分かりません。


「そうか。とりあえずいつもの時間でご飯を作るよ。コトちゃんにはおかゆを。アツアツじゃなくても冷めてからでもいいからしっかりと食べるんだ。いいね?」


 コトちゃんは返事をしませんでした。


 私はコトちゃんを寝室に運びました。




 リナは目を覚ました。


「無事か。リナ」


「ここは――」


 私たちは私の家に戻ってきている。変身の強制解除後、目を覚まさなかったリナをこうして見守っていた。


「逃亡者は倒しましたの?」


 私は首を横に振る。


「どうして?」


 リナは私たちを鋭い視線で睨む。


「どうして倒さなかったの?わたくしなら倒せたはずですの。なのに、あなたたちはそうしなかった」


「なあ、それはこういうことか?自分の意思で暴走しとったと」


「ええ」


 すると、マリは思い切りリナの頬を叩いた。


「ええ加減にせえ!」


 怒鳴られたリナは目に涙を浮かべながら驚いた顔でマリを見つめる。


「別にウチは甘い人間やないからな。願いを叶えるためにはどんな手でも使う。でもな、あんときの自分の戦い方、覚えとるんやったら考え直してみ?あれはな、自分だけやのうて他の人間も傷つけるようなやりかたや。そして、一番助かる見込みも低い。そんなやつとウチはチームを組めへん」


 マリはうつむきがちに立ち上がる。


「それに、恐らく今度はそれぞれ別々に戦うことになるんとちゃかな」


「それはつまり――」


「ああ。戦鬼を使うっちゅーことや。そうせんとあいつらには勝てんてウチはそう思た」


 だが、戦鬼を使うということは、ほとんど死を意味する。それだけ捨て身の作戦なのだ。


「そもそも、連携するよりそっちの方が本来のウチらの戦い方やろ?」


 そう言ってマリはどこかに消えていく。


 私はリナを見た。リナもまた、目を伏せている。


「なあ、あの暴走は本当に自分で起こしたのか?」


 リナは首を横に振った。


「そうではありません。でも、きっと自分の意思で何とかなる問題ですの。わたくしは我が身を復讐の炎で焼いていますから」


「そんな精神論――」


「御迷惑をおかけしたのは申し訳ないと思いますわ。でも、わたくしも戦鬼を使用しなければならないと感じました。逃亡者たちの連携はわたくしたち三人の能力を超えるものですわ。まだ向こうに戦う意思がないので何とかなっておりますけれど、いつか大きな事故が起こると思います」


「だが、戦鬼を使うということは危険が伴う」


「そうですわね。だから、わたくしだけが使いますわ」


「ふざけるな!」


 私は思わずマリと同じようにリナに手を上げようとした。だが、リナの赤くはれた頬を見て、手を止める。


「自分が犠牲になればいいとか、そういうことを言うんじゃない!私たちはそんな関係でもないだろう?ただ、利用し合うだけの仲間とさえ呼べないものだ。そのはずだっただろ」


 じゃあ、なんで私もマリもリナに対して怒っているのだろうか。


 どうでもいい存在なら、勝手に自滅しようが関係ないというのに――


「そうではありませんの。わたくしの3型はかなり特殊ですわ。もとより少し戦鬼の力を取り込んでいますの。故に通常時でも十分な戦闘力を得られますわ」


 私はリナの恐るべき速さを思い出していた。確かに、戦鬼の力を用いているとすれば暴走と身体能力の向上の理由がつく。


「ただ、その分戦鬼の力を開放しても通常時より飛躍的に効果を発揮するということはありませんの。だから、簡単に言うと、わたくしの3型は戦鬼の使用コストが低いのですわ」


 私は思わず正座していた自分の太ももを殴りつけてしまった。


「それは、通常の戦姫のコストが高い、ということだろう?むしろ、変身するたびに戦鬼を使っているものだと。そういうことじゃないのか!」


「そうですわね」


 いつものように言ってのけるリナが私には怪物のように思えた。自分の命をなんとも思っていない姿は恐ろしくてたまらない。


「どうして、なんだ」


 私の声は震えていた。


「どうしてお前はそれほどまでに自分を犠牲にしようとする」


「それは、わたくしがもうすでに終わっているはずの存在だったからですわ」


 結局、私はリナのことをよく知らない。そして、マリのことだって。そして、自分のことを二人にも伝えていない。聞く勇気も伝える勇気も私は持ち得ていなかった。


「この戦いは失うことを覚悟して臨まなければならない戦いですわ。セラもそのことは承知しているはず。しっかりしなさいな」


 リナは私を元気づけるように肩をパンパンと叩いてくる。けれど、元気が出ようはずもなかった。




 私は目を覚ます。


「帰ってきたのね」


 実家に似た雰囲気の場所。でも、鷺宮の屋敷はもうない。


「残された時間はまだまだある。けれど、魔女の本質が私を拒絶している」


 私は手を握ったり開いたりする。感覚が鈍く、また、時折痛みが走る。


 私は妖精を、魔法少女の運命を壊すために魔女になった。けれど、今はそれを阻止しようとしている。魔女として残った心の粒が、私の心の核が時折それを拒んでしまう。だから、能力を十分に出せていない。本質に抗う故に消耗もまた激しい。


「そうね。堕ちてしまっていた時は楽だった」


 でも、心は常に苦しかった。復讐を胸に戦っていたというのに、そのことが私を苦しめていた。そんな自分の弱さを私は常に嘲っていた。そして、自分自身を傷付け続けていた。


 けれど、それを優しさだと言ってくれた子がいた。それだけで私は救われた。


「ホント、不思議な子ね。フキちゃんは」


 月が私を照らす。そして、私の傍でうずくまっている子の端正な顔を映し出す。


「あなたがいなければ再び研磨とも出会うことはなかったのでしょう。私の、そして研磨の心をあなたは取り戻していった。決して戻るはずのないものだと思っていたのに」


 だから、それは奇跡だ。あり得ないことをフキちゃんは起こして、けれど本人はそのことに気付いてない。


「あなた一人に期待を込めるのは間違いなのかもしれない。けれど、私たちはあなたにすがるしかなくなっている。あなたの起こす奇跡に期待しているの」


「入っていいかな?」


 部屋の外から静かに声がかかる。


「ええ。勝手に入ってきたら」


 師範がおかゆを持って部屋に入って来た。


「体調はどうかな?琴音ちゃん」


「馴れ馴れしく呼ばないでくれるかしら。私のことなんて知らないくせに」


 ただ、この男が私のことを覚えているのは驚きだった。


「いや、一応君が赤ちゃんの時に出会ってるんだけどね!」


「知らない人っていっつもそう言うわよね。それで部屋に連れ込もうと?」


「ち、違うよ!?流石に色々危ないからね。年齢はあれでも、体があれだったらあれだしさ」


「なるほど。あなたは私を合法ロリとして見ていたのね」


 私の実年齢は本来ならば22歳ということになる。ただ、魔女となった時点で時間は止まるので私の体はあの時のままだった。


「そんなことないから!確かに僕はロリコンってことになるかもしれないけど、大丈夫だから!」


 私は興味もないので軽くため息を吐く。


「ねえ、薫。あなたは恨んでいないの?この町を破壊してしまった魔女のことを」


 実際に壊したのは魔女ではなくエボルワームの蛹であったが、原因を作ったのはあの雑魚魔女だった。


「そりゃあね。許せないよ」


 薫は珍しく手をきつく握り拳を作っていた。


「でも、もう最愛の人は帰ってこない。それにさ。彼女も彼女の娘も、きっと復讐なんて望まないからね。誰かを恨むことなんてできない人たちだったから」


「あなたは、あなたの娘がどうなったのか知ってるの?」


 私は静かに薫の目を覗き込む。薫の薄い瞼が少し開いた。


「ああ。知っている。その末路さえもね。力のない僕には何もできなかった。魔法少女になりたいと願った研磨くんの気持ちがよく分かったよ。でも、何もかも捨てることが僕にはできなかった。それだけ僕は弱い人間だったんだ」


「それが普通よ」


 別に慰めるつもりもない。ただ、キワムとなった後の研磨は普通じゃなかった。何もかも犠牲にして物事を達成しようとする魔女と同じ存在だった。


「そうだね。でも、僕より弱いはずの女の子が彼女の娘を救った。例え灰に消えてもあの子は救われていたんだと思う。2年間、誰も救うことができなかった彼女たち3人をフキちゃんは救ってしまった。例えそれが死という結末でも、満足していいんじゃないかな」


「それは決してフキちゃんには言わないで。言ったら殺すわ」


 はいはい、と薫は笑ってみせる。でも、私にとっては笑い事ではない。


 フキちゃんの心は誰よりも傷付きやすい。その傷を乗り越える力を持っていても、傷がなくなることはない。


 死というのは世界で一番明快な答えだ。全ての結末だ。そして、それが故に現実の代名詞とも言える存在なのだ。


「僕も君たちに協力したいけど、今の僕にできることは、こうやって隠れ家を提供することくらいかな。下手に探ると面倒だしね。一応鷺宮の関係者だから、下手に動けば気付かれるし」


「あなたには期待していないけれどね」


 この男は立花の名を有しているものの、立花家との関りは薄い。ただ、魔法少女や妖精を見ることができるといった体質と月影家との関りによって事情を知っているだけなのだろう。何度かワームに襲われた可能性も高い。


「ま、ぶっちゃけここって星空ちゃんの家と目と鼻の先なんだけどね!」


 あの新型魔法少女たちのことを指しているのだと私は分かった。




「お世話になりました、というよりはお世話しましたって感じかしら」


「いや、それを言うと僕がとんでもない人間になっちゃうからね!例えろりばばぁでも」


「そう言えば、こんなところに拳銃が――」


「申し訳ございませんでした!」


 薫は私たちに向かって土下座をした。


「フキちゃん。起きてるかしら?」


「ふえぇ?起きてるよぉ」


 フキちゃんはふらふらとしながら言う。


「くっ。可愛いわ。可愛すぎるわ!」


 私は抑えがたい衝動をどうにかして抑えようとする。


 ううん。もうダメ。


 寝ボケ眼のフキちゃんを襲いたい!


「いや、抑えて抑えて。それも魔女の性質って言っても僕は信じないよ」


「ええ。これは私の性癖だもの!」


「はっきりと言ったね!」


 別に恥ずかしいことでもないのだからハッキリ言ってもいいと思うけれど。


「これからこの町を出るんだね」


「ええ。どこに行くのかは決めていないけれど、あの雑魚を放っておくわけにもいかないから」


 私たちが道場を去ろうとしている時だった。


「師範。いますか?」


 ばったりと新型たちに出会ってしまう。


「お前たちは――まさか――」


「いいえ。人違いよ」


 無理に顔を隠して言い逃れをする。


「だが、とても似ている人物を知っているんだが」


「いいえ。きっと生き別れた双子の姉なの。うん。そうに違いないわ」


「どうして私の知っているのが女だと分かった」


 おおっと、大ピンチ!でも、私たち、女にしか見えないでしょう?


「ほわぁ。久しぶり。元気だった?フキだよぉ」


「フキちゃん!?」


 寝ぼけてるのは分かるけど、空気読んで!


「なるほど。言い逃れはできないな」


 新型は首のチョーカーに手を伸ばす。


「さっさと捕まれ。逃亡者!」


「そしたらウチらのバカンスが待っとるさかいな!」


「それは頑張らないと」


「今は戦闘に集中しろ!」

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