第十一羽 今日から俺は魔法少女のヒモ!
第十一羽 今日から俺は魔法少女のヒモ!
「やっとお待ちかね、コロネちゃんの登場だぞ!」
物語は三時間前に遡る。
「ちょっと待て。もっとワタシを引き立てろよ!」
***********
「みなさん、こんにちは。みんなのアイドルキワムです」
「どうしたんですか?キワムさん」
「いや、ちょっと新キャラに触発されてな」
朝食が終わり、俺たちはやることもなくのんびりとしていた。
そろそろトレーニングにでも入ろうかと思っていた時である。
「お姉さま。通帳を見ましたか!?」
アオが身を乗り出して言ってくる。
完全に俺を邪魔もの扱いせんと押しのけて。
「ああ、そういえば、給料日だったわね」
「給料日、ですか?」
「そっか。フキは知らないんだ」
「お姉さま。ひどいです。ボクというものがありながら、こんなちんちくりんと仲良くするなんて」
「アオちゃんが大きいだけです」
「誰が大きいだと?」
「静かにしてくれない?」
ミワが静かに緑茶を啜る。
「おにいちゃんの呼吸が聞こえないじゃない」
「何言ってるの?ミワ」
「なに?おにいちゃんの呼吸の音を聞いて休日を楽しんでいるんだけど?ああ。耳福」
一同、唖然としていた。
「ま、まあ、気を取り直して、お給料のことだったかしら?それともキュビズムについての解説?」
「お、お姉さま。絵画については今はいいと思いますよ。それよりも、デュアーとモルについてを!」
「ふ、二人とも、完全にテンパってます」
何を朝からテンパっているのか分からない。
三人はミワを見習ってお茶を飲み、一段落する。
「さて。落ち着いたところで。実は魔法少女ってお金がもらえるの」
「そうなんですか!?」
授業でやった気がするのだが、まあいい。
「ええ。魔法少女だけ法律で認められてるの。基本的に月給で、初任給20万かしら。手取りで15万ほど?」
「よく分からないですけど、上手い棒が一万個ほど買えるんですね!」
「ちなみに、お姉さま。うまい棒のあのキャラクターに妹がいるのを知っていますか?」
「うまみちゃんね。とってもかわいいわよ」
「竹内緋色はうまみちゃんを応援しています」
竹内緋色はうまみちゃんを応援しています。
「どうしたんですか?キワムさん」
「きっと作者の怨霊でも憑りついたのよ。さっさと話を進めましょう」
「事務所からお金は振り込まれるが、大卒の平均くらいの給料をもらえる」
「そういえば、アオ。あなた、事務所って一緒だっけ?」
「先日お姉さまと同じ事務所に移籍しましたぁ!」
「あ……そう……」
ソラは頭に手を置く。
頭痛でもするのだろうか。
「で、昨日が給料日だったみたい。きっとフキの通帳にも入ってると思うわよ」
「通帳って、どうするんですか?」
「それはね、銀行に行って――って感じだけど、先生。一緒に行ってあげたら?」
「何故俺が」
「先生も給料入ってるでしょうし」
「なるほどな」
しばらくして銀行から帰ってきた。
「これはどういうことだ!」
俺は憤慨する。
「どうしたんだ。ブリキ。頭のねじでも緩んだか?」
アオはバカにしたように言う。
だが、今はそれどころではない。
「俺には一切給料が入っていないぞ!」
「私にははいってました」
フキが嬉しそうなのが気に食わない。
俺は学校に電話した。
「先生、どうだった?」
「俺は今までボランティア扱いだそうだ」
「あら……」
ソラはなんとなくこうなることを予想していたようだ。
「妖精どもならやりかねないわね。ロリコンだもの」
「妖精さんたちってロリコンだったんですか?」
「……」
フキ以外には知れ渡っている常識であるようだった。
「ちなみにミワはどうなってるの?」
ソラがミワに聞く。
「うちは事務所と契約してないから入らないけど、本家の方に手当てが行くんじゃないかしら」
「くそっ。どうして魔法少女だけ手当てが豊富なんだ」
俺は未だ無職扱いであるということに絶望した!
「納得がいかない。妖精どもに問いただしてくる」
「今日はなんだか妙にやる気ですね。ブリキは」
「そりゃあ、給料がなければ生きて行けないから。でも、わたしたちのお金でなんとかなるけど」
「ボクたちのヒモになるなんて――最高ですね」
「アオ。アンタ、先生を奴隷にしようとか考えてるでしょ」
「(*´σ-`)エヘヘ」
**********
事務所に乗り込んだ俺を待ち構えていたのは二匹の妖精だった。
「一匹はパフィー。もう一匹は――」
「いいところに来たパフ」
白い妖精はきままに長い尾を振っている。
「インキュベーターじゃないからね」
「俺に給料が少しも払われていないとはどういうことだ!」
俺は怒鳴り散らす。
「きみがそこまで怒るなんて珍しい。いや、不思議はないのか」
不思議も糞もある訳がない。
「ライたちは魔法少女にお金を支払っているザウルス。その分お金がなくなっているザウルス」
「ま、全て政府から金を絞り出しているわけだけれど」
「クソだな」
パフィーは相変わらずしっぽを揺らす。
「それより、パフィーたちは行方不明になった妖精を探さないといけないパフ」
「それを俺にしろというんじゃないよな」
嫌な予感がする。
「それは、ないパフ。ただ、代わりに――」
「言うな。聞きたくない」
妖精探しというだけでも煩雑であるのにそれを妖精が引き受けると言っている。
とどのつまり、俺に押し付けられるのは絶対にそれ以上の厄介ごとだ。
「なにを!?ワタシの出番がなくなるじゃないか」
事務所の扉を突如として何者かが開ける。
金色のツインテールの小学生――
「せっかく1クール12羽の中に入り込めたというのに!」
「なんだ、このぶっとびガールは……」
「ハッハーン!コロネちゃんだ!」
「なんなんだ、この(頭)ぶっとびガールは」
「ガールフレンド(頭)?」
「最悪な想像しかできないザウルス。なにザウルスか?(頭)って」
「コロネちゃん(頭)」
「悪ノリするな。ガキ」
「コロネちゃん(美)」
「自慢か」
「コロネちゃん(神)」
「自分で神を名乗り始めたザウルス」
無茶苦茶なのには慣れ始めたが、これほどまでとは、骨が折れる。
「こら。逃げるんじゃないパフ」
ちっ。見つかったか。
「彼女はコロネちゃんザウルス。ライが育ててきた魔法少女ザウルス」
「それだけだな。じゃあ」
「待つザウルス。コロネちゃんを頼んだザウルス」
「いや、すまないな。持病の幼女恐怖症でな」
「小学生も幼女か!ストライクゾーン広いな!」
「お前、何を言っているのか分かっているのか?」
「コロネちゃんは天才だぞ」
「そうだな。すまない。コロネちゃん(笑)」
「バカにされていることくらいコロネちゃんにも分かるぞ。ドヤァ」
「どうしてこうなるのか」
**********
俺はコロネちゃんを引き連れ、町を歩いていた。
「コロネちゃんは俺たちと暮すことになって、いいのか?」
「別に構わないぞ。そんなことより……」
コロネちゃんは子どものように俺の服の袖を引っ張る。
「むふふ。今までのヒロインたちを差し置いて、速攻でデートだ。いや、もうこの話で主役(仮)ともおさらばしようか」
「考えていることがゲスいな。コロネちゃん(悪)」
コロネちゃんはむはっはと奇妙に笑った。
「あまり金がないんだから、高いものはダメだぞ」
「ああ。分かってる」
コロネちゃんは喫茶店に入って行くので俺も仕方がなく入る。
オープンテラスが特徴的な喫茶店だった。
「いつものを」
「かしこまりました」
コロネちゃんはこの店に慣れているようだった。
「何度か来たことがあるのか?」
「スタジオから近いからな」
「なんの」
「収録スタジオだ。ワタシは声優だからな」
「ほう」
珍しいものだ、と思った。思ったのだが――
「送り迎えは――」
「当然キワムの仕事だ。ちなみに、朝早いぞ」
「俺は魔法少女に志望したはずなのだがな」
いつのまにか完全なるマネージャーとなっている。
「ま、気にするな!」
何を気楽に、と俺は奥歯を噛みしめる。
「おまたせいたしました」
俺が頼んだコーヒーとともにコロネちゃんの頼んだものが運ばれてくる。
「なんだ、それは」
皿に乗っているのは色とりどりのなにか。
いや、これはよく知るものなのだが……
「なにって、ジェリービーンズパンケーキだが?」
パンケーキ、と言われて大量のカラフルなジェリービーンズに覆われた皿の辺りを見ると、申し分程度にパンケーキが乗っている。
「ジェリービーンズってさ、和訳すると寒天豆だよね」
「そこはせめてゼリー豆のほうがいいんじゃないか?」
「可愛くないぞ、それは」
豆の時点でどうなのかとも思うが、和訳するとそうである。
おつまみに出て来そうな名になる。
「人生きっと色々あるが、なんとかなるものぞ」
「別に悩んでもいないが」
魔法少女になれていないというのは常に付きまとうなやみではあるが。
「ジェリービーンズでも食べて元気を出せ」
「いや、いい」
そんなカラフルなものを食べると頭の中までカラフルになりそうだった。
「次はどこに行くんだ?」
収入のない俺は幼女を一日中遊ばせる金もない。
というか、コロネちゃんの方が金持ちなのではないだろうか。
「まだまだコロネちゃんの魅力を読者諸君に伝えたいところだが、そろそろ時間の様だ」
「は?」
コロネちゃんはそっと空を見上げる。
すると、そこにはワームが現れていた。
「最近戦闘シーンがなくて、読者はなんの物語か分からなくなっているが、努力(仮)、友情、勝利(?)の物語だ」
「確かに、王道とは言い難いが――」
コロネちゃんはコンパクトを使い、変身する。
「マジカルコンパクト!ドリーム・イン!」
全身が黄色い光に包まれ、まだ幼いボディラインが浮かび上がる。
「どうだ。ないすばでーだろ」
「変身中にしゃべる魔法少女があるか」
コンパクトから伸びたリボンがコロネちゃんの体を包んでいく。
「おお!なんだかエロイな!」
「幼女に欲情するなよ」
「そういえば、某日曜のアニメでは最近露出を増やしてほしいという電話があるという都市伝説があってだな――」
光が弾け、身体、足、腕、と魔法少女の衣服が現れる。
「フリルは正義!甘いは最高!超絶美少女戦士、コロネ。爆誕!」
「今まで見てきた中で一番魔法少女の変身台詞らしいが、なんだか残念だな」
やはりツッコミ役は疲れる。こういう雑用はフキに任せるべきだ。
「他の女のことを考えるな!」
「よそ見していてもいいのか?」
ワームはコロネちゃんに向かって突進してくる。
ビルよりも大きな巨体である。
ぶつかったらひとたまりもないのだが――
「今は重要な話の途中なんだ。邪魔するな!」
コロネちゃんは細腕一本でそれを受け止める。
そうでなければ俺もやられていたに違いない。
「キワム。お前はワタシだけを見ていろ」
「まずはさっさと倒してしまえ」
俺は今のうちに避難する。
「ちっ。この害虫が!」
コロネちゃんはワームを蹴り上げる。
それだけでワームは簡単に飛ばされてしまう。
「強化系の技か」
すると、コロネちゃんはバトンを取り出し、天高く掲げる。
「現れろ!超絶合体ロボ!コロネ3!」
ヒュー、という風切り音とともに、頭上に三つの飛行機が現れる。
戦闘機にしては大きすぎる。
それらが今、一つに合体し、ロボットに変形していく。
「一般的にはあまり知られていないが、アクエリオンには三タイプのフォームがあるんだぞ!」
一々余談が多い。
その間にワームは起き上がる。
(合体させる意味はあったのだろうか)
俺はふと疑問に思った。
「そっちの方が強そうに思えるだろう!?」
魔法少女の魔法の力はそういう気分的なものに左右されるので悪くはない。
ロボとワームは取っ組み合いの喧嘩を始める。
「ロボじゃなくてコロネリオンだ!」
「名前が変わっているじゃないか」
こだわる癖に、である。
このロボは具現化系の力か。
「一気に畳みかけるぞ、スーパーコロネオット」
またも名前が変わる。
パカリ、とロボの腹部が開く。
「必殺!スーパーエンチャントクロストータリングセキュリティ水鉄砲!」
「水鉄砲かよ」
だが、ネーミングの割りに威力はすさまじかった。
大地を割る光線がロボから発せられ、ワームは一瞬にして消し炭となってしまう。
「どうだ!コロネちゃんの活躍は!」
先ほどのは砲出系か。
だが、威力は尋常ではない。
「おい!無視するな!」
「こら。魔砲を撃つな」
「無視するからだ!」
俺は溜息を吐く。
「闘ったのはロボだがな」
「はっ!」
今さらになってコロネちゃんは気がついたようである。
「まさか、そんなところに落とし穴が……」
「いや、それは墓穴というんだ」
**********
「幼女をテイクオフなさいますか?」
「お姉さま。それを言うなら、テイクアウトですよ」
「そんなこと、どうでもいいの。アオ。問題なのは、どうしてわたしより若い女ばかりがこの家に住み着くのかということよ」
「年齢だけは勝てませんもんね」
「フキ。あんた、時々テロを起こすわね」
「や、止めてください。そういうどうでもいいセリフから綽名が幻影のテロリスト的なものになるんですよ」
「自分でつけてるじゃない」
俺はフキが差し出してきたお茶を飲む。
「で、この子は一体?」
「コロネちゃんだ」
「ああ。コロネちゃんだ。よろしく」
「キワムさんがちゃんづけするなんて」
一同は何故か唖然とする。
「彼女は現時点で最強の魔法少女ザウルス。だから、仲良くして欲しいザウルス」
「いつの間に」
「もっと驚いてもいいザウルス」
ライという妖精は残念がっているようであった。
「ライはこれから忙しくなるザウルス。だから、頼むザウルス」
そう言って妖精は消えていった。
**********
「とうとう、始まるぜ」
パイソンは口を歪めて笑う。
「だから、コルトだっつってんだろーが」
コルトが見つめる先にはキワムたちの家がある。
「次の話に全く関係ないことになるとかないよな。ここまで意味ありげなんだからよ」
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