オーセ -異世界召喚した勇者はお荷物-

シエンロック

はじめに

「これはこれは。遠路はるばるご苦労だったな」


 男は微笑みながら椅子から立ち上がった。その身を包む厳かな雰囲気と静かな立ち振る舞いは、つい自分が主人に仕える身であると錯覚してしまうほどだった。

 ただ、頭部に生えている2本の角と背中からのぞかせる漆黒の翼さえ無ければ。

 彼は魔王ディアボロ。人々から恐れ慄かれ、この世の魔を統べる存在『魔王』である。彼は今、自らの城にて招かれざる客人と対面していた。

 客人は3人。後方にいたエメラルドグリーンの色をした髪の少女―ウィンが一歩前に出た。


「我々はパーティ・トランシスターズ!人々の平和のためにあなたを倒します!」


 ウィンが言い終える前に先頭にいた赤髪の少女―フィータが一気にディアボロとの距離を縮めて剣で切りかかった。

 しかし、ディアボロは翼を体の前まで広げて斬撃を受け止めた。漆黒の翼には傷1つついていない。

 フィータはたまらず再び後方に距離を取った。ディアボロは片頬を上げて小さく笑った。


「それは困った。このあとアフタヌーンティーを飲むことができない」


 ディアボロが左手を軽く伸ばすと身の丈ほどの大きな杖が出現した。先端にはヤギの頭の装飾が施されている。


「死んでいただこう」


 ディアボロが杖を小さく振って床を叩くと彼を中心に黒い瘴気があふれ出した。それはすぐにディアボロを覆い隠し、やがて彼女たちの方にも広がってきた。

 それが人体を蝕む呪いの瘴気だといち早く気づいた青髪の少女―エルアはすぐさま浄化結界をパーティの周りに展開した。しかし瘴気は少しずつ結界を蝕んでいく。

 瘴気が彼女たちに及ぶのは時間の問題だった。目を合わせる3人。この場に長居するのは無謀だという結論を3人とも導き出していた。

 すかさずウィンとフィータはエルアの元に固まり肩に手を置いた。


「撤退します!」


 エルアが呪文を唱えると青い煙が3人を包んだ。その煙はすぐに晴れたが既に3人の姿はどこにも無かった。

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