短ト短ト話ぃズ.

NPC(作家)

女神様は短気娘の夢を見るか?~Do Aphrodites Dream of Eccentric She temper?~


 女は、とても嫌な気分だった。


 スカスカの電車内で揺られながら、お気に入りの音楽を聴いて窓の外を見ていたのだが、ふと視線を感じその先を見ると、見知らぬ男がジッとこちらをいぶかしげに見ていたからである。

 髪はぼさぼさで、年は女と同じ頃だろうか、だらしない服装をした如何いかにも責任感がなさそうな男だった。それが、先ほどから何分もジィぃと、こちらを見ているのだ。その舐める様な視線に、しかし女は気丈であった。足を組み、右の人差し指で何度も左うでを叩き抗議を示した。

 だが男の熱視線は続き、車窓の太陽よりも目に悪く、裏腹にうすら寒さを感じさせた。

 女はそのあまりの気持ち悪さに耐えきれなくなり、眉間まゆまが縮むほどの声を出した。


「何よ!」


 対する男は女の声に一瞬眉間を開いたが、すぐに元の責任感なさ気な表情に戻ると、事も無げに口を開く。

「いや、いい女だなと思って」



 ――間。



 男のけろりとした回答に、女は何を言われたのかと言う顔をした。

 予想外の出来事に男の言葉が女の脳内で反復横飛びを始めたせいだ。

 しかし程なくして脳が意味を理解すると、先程までザラザラとした刷毛ハケで半透明の粘液を塗られたかような感覚を覚えていたものが、急に猫がなついてきたかのようにいとしく思えた。


 女はじゃれてくる猫を仰々ぎょうぎょうしい物腰でけておさめると、まるでハーブをかなでる女神アフロディーテのように自らの後ろ髪を何度もいじりながら、至極しごく当然とした態度で言った。女は男慣れしてなかチョロインだった。


「あら、そうでしょ? ……フフ」

「ああ……ただ、今の反応をみて「面白いやつだな」に感想が変わったけどな」



 今度こそ何を言われたのか分からなかった。



 脳内で猫をあやし、髪でハーブを奏でるこのうら若き乙女のどこが「面白い」のか。 この男は私の神々しさアフロディーテっぷりが全く理解できないほど感覚がおかしいようだ、その感覚がおかしい男に一瞬でもめられ、あまつさえその気になってしまった私は何者(アホウで痛ぇ)なのか。いや、そういうことではない。この男はそもそも私をジロジロ見つめていた“いやらしい男”だったのだ。いやらしい男のいやらしい言葉に翻弄された私は可哀想アフロディーテだし、アイツは罰を受けるべきだ。大体この前も禿げたオヤジが私をジロジロじろじろ……


 女はとにかく憤慨した。あまりの憤慨ぶりに唇は既に「な、」を5回ほど唱えてしまったほどだ。

 そしてようやくマグマのような怒りがボコボコと喉元まで登り詰めると、意味を持つ言葉となって男へと噴火した。


「何なのよあんた!」

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