Draw Dream

平野真咲

Draw Dream 1

 日差しを遮る校舎内。吹奏楽部の演奏が遠くで聞こえる。もう夏休みなんだ、とひしひしと実感する。

 講義室を抜け出した私たちは、昇降口に向かった。

「まだ大事な話があったみたいだけど、よかったのかな」

「でも、昨日みたいなことが起こったら、まったく分からなくなっちゃうわよ。それに普段はこっちがメインの活動なのだし」

「それもそうだね」

 今日は少し抜け出しづらい雰囲気があった。今は夏休みで、部活がメインの活動だからトラブルなどはほとんどない。むしろ総合体育大会、つまり3年生は最後の大会のために必死で練習している。研究部は総合体育大会、略して総体のことをまとめた新聞を発行する話をしていたのだ。研究部というのは、生徒や先生からの相談事を解決するのが主な活動だ。部長の高瀬たかせ冬樹ふゆき先輩と研究部同級生の蓬莱ほうらい元気げんきを中心に、同じく同級生の城崎きざき篤志あつし牧羽まきば美緒みお、それから私、小倉おぐら澄香すみかの5人で活動してきた。

 今日は新聞の記事にする、総体の結果を聞きに行く分担を決めた。幸い、私はソフトテニス部とバスケットボール部、美緒ちゃんはバレー部と美術部、に担当がすんなり決まったので、トイレを口実に抜け出すことができた。未だに3人は議論しているかもしれない。

 他に何をするんだろう。普段の日ならこんなことを考えることなんてなかった。みんなは、この夏頑張っているというのに。

 2人揃って阿部倉あべくら透花とうかの靴箱を覗く。外靴があることを確認した。

「今日も来たんだ」

「まだいるわね」

 2人で指し示すと、すぐに美術室へ向かった。

 美術室の後ろのドアから中を覗く。阿部倉さんはちゃんと窓際の列の前から2番目の席にいた。今日も窓の外を見ては思い出したようにワークをやっていた。窓の外は中庭になっていて、ソフトテニス部が練習をしていた。

「何コソコソやってんだ」

「ひいっ」

 階段から城崎君が現れた。後ろには高瀬先輩の姿が見える。

「人の下駄箱覗いて何してるんだ?」

 元気も駆け寄ってくる。「どうしよう」と美緒ちゃんに耳打ちした。

「研究部に依頼があったの。女子限定のね」

 美緒ちゃんははっきりと言った。

「靴箱を覗くことか?」

 城崎君は疑わし気な目を向ける。

「入れ替わりで真知まちに来てもらうよう声をかけてくる」

 そう言って、美緒ちゃんが行ってしまった。

「美術部で何かあったの?」

 元気が聞いてくる。

「そう思うよ。牧羽さんが向かったのは3棟。ということは、美術室を使う美術部か、音楽室を使う吹奏楽部くらい。さらに、新聞のコメントをもらいに行くのに美術部は2人ともやると言ったけれど、吹奏楽部には手も挙げなかった。2人とも美術部に関心があるようで」

「2人が出て行ったあと、3人で話したんだよ。最近女子たちは何しているんだろうって」

 元気が近寄る。駆けつけてくれた金田かねだ真知さんに、静かにアイコンタクトを送った。

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