第2章 クーデター
回想 紅崎リコとの出会い
――――1年ほど前。
その日はひどく雨が降っていた。
ふらふらとした足取りでセレスティア・ヴァレンタインは自宅に向かう。
その顔はひどく憔悴しきっており、今にも事切れてしまいそうだった。
実際、不死身でなければ彼女は今すぐにでも自決しただろう。
セラは男物のコートを羽織っていた。その中身は全て血で汚れている。
『目覚めて』しまったのだ。突如、殺人衝動が増幅し抑えきれなかった。この時の記憶をセラは封じ込めてしまったが、連続で九人も殺害してしまった。事情を把握しているエルメラド国軍は架空の人物を犯人として報道し、国内の混乱を収めた。
再び殺人を犯してしまったセラは「わたしが死なないなら投獄してくれ」とせがんだが、軍からは『利用価値がある』と判断され、半ば強制的に帰らされた。
「…………お酒」
深い絶望と精神的疲弊、そして自死できない諦観から
この国では十六歳からの飲酒が法で許されている。セラも十六を過ぎたので特に問題はない。
別にセラは酒好きというわけでもなく普段は嗜む程度なのだが、今日は違った。単純に酒に溺れたかったのだ。酒は傷を癒せないが、一時の痛みを忘れさせてくれる。
そんなことを考えながら自宅の前に着いた時だった。
「……?」
普段にはない光景にセラが眉をひそめる。
玄関の前に一人の少女が座っていた。
壁に寄りかかり
正直心身ともに疲れきっていて相手にするのが多少面倒だったが、かと言って目の前で少女が一人きりで震えているのを放っておけるほどセラは非情ではない。むしろ、困っている人を見かけたら思わず助けたくなってしまうのがセラの性分だった。
「どうしたの? こんな夜遅くに傘もささずに一人でいたら危ないじゃない。おうちは?」
セラは精一杯の笑顔を
セラの言葉にぴくり、と肩を震わせて少女が顔を上げる。その顔を見たセラの表情が凍った。
恐怖。絶望。悲哀。あらゆる負の感情が、少女にはあった。
そしてようやくセラは少女の有様に気付く。服はボロボロで、合間から見える肌も傷と痣だらけだ。宝石のように綺麗な赤い瞳も腫れている。頬には涙の跡があった。
――――いったい、何が起きたらこの子がこんなに傷付くのだろうか。
気が付いた時には少女を抱きしめていた。
「っ!? ああ、あああああああ!!」
直後、少女が暴れだす。
その表情には強い恐怖があった。他人と関わるのをひどく恐れているように見えた。
「大丈夫、大丈夫だから……!」
少女の体は冷たい。
セラは少女を安心させようと何度も言葉をかけながら抱きしめ続けた。胸が張り裂けそうだった。ただ、この少女を助けたかった。
そうすることで本当に安心したのか、それとも疲れてしまったのかは分からない。やがて少女は抵抗を徐々に失い、眠ってしまった。
――――これが、セレスティア・ヴァレンタインと紅崎リコとの出会いである。
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